三十章 お家騒動
「皆さまこちらが食堂です。メイドに席の案内をさせます。しばしのお時間お待ちください。ほら、貴方も席に着くのですよ」
「あ、はい。今着きます」
「父様お客様の前で醜態をさらさないで下さい! 私と母様がとても恥ずかしい思いをするのですよ」
簀巻きにされていたセシリアの父親が解放されたが、反論を許さぬと言わんばかりに着席を命じられているのが見える。
いつぞやの俺とセシリアやりとりを見ているようで、悲しきかな親近感が湧いてくる。この場合は同族ってやつなのだろうが。
微笑ましい? やり取りを横目に見ていると丁寧な動作で会釈をしてくるメイドによって席に案内をされ着席する。
向かいにはセシリアが座っていて俺から見て右側に父親で反対には母親が座っている。俺の隣は当然アニータとエミリアだ。
煌びやかな金の装飾で飾られた長テーブルに6人が対面して座る形になった。
椅子のクッション性も高くて、長く座っていても腰に負担は無さそうだし、座り心地がとてもいい。
「こほん。とても見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありませんでした。初対面の人もいられますので自己紹介を致しますね。私はこの子の母アリシアです」
「私はセシリアの父であるジョエルだ。アニータ、エミリアいつも娘の手助けをして頂いて感謝している。——で、優男お前はなぜこの場にいる?」
母親のほうは常識人っぽいのだが父親はズレているというか娘が大好きすぎて暴走しているのがとても痛々しい。
「父様! フランツさんは私がお誘いしたのです。縁あって今日まで一緒に行動を共にしてただけです。……その、それ以上のことはなにもありませんでしたから安心してください!」
うんうん。俺はいきたいとは言ってみたが許可をくれたのはセシリアだしな。縁あって一緒に行動していたのは確かだし。手はだしてないし……? なんか最後の言葉には誤解が生じそうで嫌な予感がするぞ!?
「……一緒に行動していた? セシリアちゃんと同じテントで一晩……一晩どころじゃないよな!?」
「ジョエル殿心配してください。この男にそのような根性はありません。私は一回だけ襲われそうになったことがありますがセシリアが助けてくれましたし」
「おぉ、そうかそうか。うん? 一度襲われそうになっただと!? アニータもまさか……」
「あの~、誤解が多いのではっきりと言わせて頂きますが俺はセシリアに一度フラれていますし、このちびっこに欲情も致しません。もちろんアニータともさっき知りあったばかりなのでほぼ初対面です」
「あの事件はエミリアが悪いんですよ! フランツさんは被害者です。稀に如何わしい視線は感じますが、エミリアの言ったとおり手を出されたことは一度もありません! むしろ私が介抱した回数のが多いです」
なんとも酷い言われようである。そもそもこの世界で所帯を持つ気はない。
もう勘弁してくれ!
「ジョエル様どうにもセシリアちゃんはフランツさんのことが気になっているようです。介抱するぐらいですから。ね?」
「……介抱? 気になっている? はっ!? パパは許さないよ! こんな優男は絶対! 駄目!」
くっそ、収拾がつきそうだったのにアニータのやつわざと火に油を注ぎやがった。
父親の顔が憎悪で染まっていくのが嫌でもわかる。
「……貴方もういいでしょう? セシリアさんが気にされる男性なんて初めてですし、この機会に見極めましょう。フランツさん誤解は解消したいでしょうし構いませんね?」
この母親だけは常に冷静だな。常識人が一人でもいてくれて助かった。けれど見極めの意味はわからないが、無害であることは証明しないといけないな。
「はい。見極めと言うものが何かはわかりませんが、このまま誤解されているのも気分が良くないのでお願いします」
こうしてセシリアのお家騒動に巻きこまれるのであった。
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