三十一章 見極めの行事「バタイユ」

……これから何が起こるのだろうか? 


セシリア本人からのお誘いで彼女の家に招かれたはずなのによくわからないまま、お家騒動に巻き込まれてしまった。

見極めって何をするんだろうか……ってか何を認めてもらうんだろうか? 

なんだか胃の辺りがピリピリしてきた。


「フランツ様こちらへどうぞ」


「は、はい。そ、それでこれから何を試されるんでしょうか?」


「……ふふっ。これから行うのは我が家に代々伝わる伝統的な行事「バタイユ」である。お前のような優男が絶えれるかが楽しみだ」


「もう! 父様、大したことではないのですから意地悪をするのではありませんよ! フランツさん頑張って下さい! ここで勝つことができれば誤解を解消を解くことができますよ」

よくわからないが……こうなったらなるようになるしかない。

妙に勝気な彼女の父親と向かいあう形で立ち止まる。俺たちを囲うように複雑な文様の魔法陣が床に書かれている。

魔法陣は役者が揃ったのを察したかのように円形の結界を展開し外界から隔離される。どうやら中と外の会話は可能ではあるようだけど、外から中に入る事はできないようだ。

 

「両者、決闘の場にはいりましたのでルールの説明に入ります。ジャンケンをして勝った方は棍棒を持ち攻撃する権利が与えられます。そして、相手の無防備な頭を叩くことができれば勝ちとなります。ですが、ジャンケンで負けた方は叩かれる前に兜で頭を守ることが出来ればセーフとなります。勝ちが決まるまでこれを繰り返すだけの簡単なゲームです。何か質問はありますでしょうか?」


「質問はありますでしょうか?」 じゃねえええええぇ! まんま「たたいて・かぶって・じゃんけんぽん!」じゃねーか!? 

だが、おもちゃのハンマーではなくだし、被る物はってのが笑えない。当たり所が悪かったら天に召されそうだぞ……


「あ、あの~これって当たり所が悪かったら死にません?」  


「その点は問題ない。この魔法陣の中では死ぬことはない。が、痛みは感じるので激痛で意識を失うことはあるがな」


「フランツ様死ぬことはないのでご安心ください。他に質問が無いようであれば開始します。お二人とも準備はよろしいでしょうか?」

俺たちはゆっくりと頷き合うと開始の合図が宣言される。


「では、バタイユ開始!」 


「……ジャンケン、ポンッ!」

大の男二人が向かい合ってジャンケンとはなんともシュールである。

異世界に転生してこれか……


「フランツ! 呆けるとはずいぶんと余裕だなぁ! 死ねぇ!!!」


「……!? ちょっ、死ねって!?」

そんなことを考えていたせいかジャンケンで負けたことに気づかず怒号によって現実に引き戻らされると棍棒が迫ってきているのが見える。思いの外、目で追える速さで反応もできそうだ。


「……ちっ」


「ちっ、じゃないわ! 本当これ死なないよな!? 殺意高すぎるんだけど!?」


「フランツさん! 父様は本気です。焦らず対応して勝利を勝ち取りましょう!」


「……ぐぬぬ。セシリアちゃんの応援を貰えるとは貴様ぁ! 絶対に負かしてやる!」

怒る父親、呆れる母親、純粋すぎるが故に火に油を注ぐ娘、横で腹を抱えて笑っているちびっ子エルフ、試合どころか食事に夢中な獣人娘の地獄絵馬状態である。

あぁ、もう色々滅茶苦茶だよ……


こうして「バタイユ」での攻防戦が開幕したのであった。

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