三章 国民的な青いモンスター

俺たちが光の柱から出ると、周辺を木々に囲まれた森ど真ん中だった。

てっきり町や村に転送されるかと思っていたのに拍子抜けだ。

草原からは無事に脱出が出来たが、こうも問題続きでは先が思いやられるな。


「あの、セシリアさん? これはどういうこと?」


「あははっ。—―失敗した……みたい?」

セシリアは小首を傾げつつ俺へと向き直る。その青い瞳は泳いでる。

そのしぐさが可愛らしく見えるのが悔しい。だが、本人にとっても予想外の出来事であったようで、困惑してるのが手に取るようにわかる。


「う~ん? おかしいですね……私は町までたどり着くように詠唱をしたのです。何が原因かわからませんが、転移がずらされたようです。」

この森から町までの距離はたいしたこはないそうだが、この森は魔物がでるらしい。


「……ずらされたね。もしかして魔法を使うのが苦手とかないよな?」


「ひっ、ひどいです! 先ほども言いましたが、私はこう見えても魔法剣士なのですから魔法は得意分野なのですよ!?」 

嘘ではないようだな。セシリアは顔を真っ赤にしながら、手をぶんぶんと回して抗議してくる。そんなやり取りをしていると、木々の隙間から何者かの視線を感じる。


「セシリアさん、あそこで何か動いたようなきがするんだけど、何かいるのかな?」

俺が指で刺す方向をセシリアは見やり、腰に差している剣を抜き戦闘態勢に入る。

戦闘態勢に入ったってことは魔物ってことだよな。

息をごくりっ飲みこみ、腰に下げている大振りのロングソードを抜こうとしたが、予想以上に長く重いせいか、なかなか抜けないのである。


「魔物かもしれません、フランツさんも警戒してくださいね。—―あの、なに遊んでいるんです? もっと真剣に構えてください!」


「これは遊んでいるわけではなくてだな! 剣がぬけないんだよぉ! はぁはぁ、おもっ」


「もう……いいですから私に任せて下がって下さい。お荷物にはならないでくださいね?」

これでも真剣に頑張っているのだが、あきらかに視線が痛い。


――ガサッガサガザ……ピョンッ! 


俺たちがコントをしている間にも魔物が姿を現す。

海のような深い色をした丸く透き通った塊が数匹、もぞもぞとこちらへと這いずってくる。通った場所は心なしか綺麗になっていて、掃除に便利そうだなとか思ったりしたが口には出さなかった。


「う~ん? これはスライム? 可愛いじゃん。どれどれ……」

昔スライムが無双する物語を読んだことがあるが、メモリーアースではそんなものは存在しだろう。ってあれ? スライムなんていたか? 


「フランツさん!? 駄目です! それに触れては!」

セシリアの静止も気にせず俺がスライムに手を乗せた瞬間、手に激痛が走った。

熱湯を手にかけてしまった、そんな痛みである。


「……ぐぁああっあああ!? なんだこれ!? いってぇええ、くっそ、ただのスライムじゃないのかよ!?」

俺は手首を押さえながら転がる。いたいたいいたい……なんだよこれ!? ゲームじゃないのかよ!


「だから言ったではないですか! 触るなと。フランツさんは下がって下さい。スライムは私が倒します。」

セシリアは俺とスライムとの間に立ち剣を構える。

この後、俺は彼女の洗礼された剣技に見惚れるのであった。

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