三十六章 告白
「もう朝か……」
昨日はギルドのお使いから始まり。巻き込まれるようにバタイユ騒動へと発展、酔い気味のセシリアとのテラスの出来事、彼女の母親との密談からとイベントが盛りだくさんだった。そんな多忙な日だったせいか、ベットに横になってそのまま寝落ちしていたらしい。
眠気眼で呆けているとドアを軽く叩かれメイドのカルメアさんが入ってくる。
小柄なメイドが一緒に入室てくる。
「――フランツ様おはようございます。朝食の準備が整っております。支度ができましたらこちらのメイドに案内させますので、お声かけ下さい。他、御入用がありましたらなんななりと申し付けてください」
「カルメアさん、おはようございます。今起きた所なので、準備できたら食卓の間にいきます。御入用ですか? 俺一人も問題ないんだけど……」
「……フランツ様は当家のお客様です。滞在中は当家のルールに従って頂かないとこちらも困るのです。どうかご理解ください。リズ、失礼のないようにお願いしますね」
カルメアさんの言い分もごもっともだよな。郷に入れば郷に従えと言うもんな。ここはメイド喫茶に来たと思って流れに任せようではないか。さて、やけに緊張しているようだなこの子。
「フ、フランツ様お初目にお目にかかります。リズと言います。当家に滞在中は私がフランツ様の身の回りのお世話を担当しますので、遠慮くなく申し付けてください。で、では、お着換えを致しましょう」
リズも小さいな……ちびっこエルフよりは色々と大きい気はするが、空のように青い長髪に青の瞳、肌は健康的である。特徴的なのは赤渕眼鏡にソバカスがあるって所だろうか。——どことなくカルメアさんに似ているような? まぁ気のせいか。
リズを観察てしていると不意に来ている衣服を剥がされていることに気づく。
「……ふぁ!? ちょ、ちょっと!? リズさん!? お、俺着替えは一人できるよ!??」
「で、ですから、当家にいる間は我慢して……下さい!」
抵抗する俺、無理やり着替えさせようとしてくるメイドによる攻防戦はメイドの圧勝に終わる。リズはこう見えてかなり力が強いようだ。大の大人である俺の服を軽々と剥ぎ取り、新しい服へと早々と着替えさせた。
今までのボロボロの使い古しの服ではなく肌触りのいい白地の布を使った服で控えめに銀の装飾が散りばめられている。
「フランツ様。支度はできました。食卓の間までご案内します。……フランツ様?」
「うぅ……こんなか弱い子に力づくで……はっ!? はい。いきます」
ほんとこの世界の女性は強い。リズ大人しそうに見えるのにな……
リズに案内されセシリア宅の移動を開始する。
同じような作りの通路がいくつもあって、一人では迷子になってしまいそうである。
中央には庭園もあるようで、この家のデカさが一目でわかる。
「フランツ様、食卓の間に到着致しました。席へとご案内致します」
「あ、はい。リズさんありがとう」
食卓の間に入るとそのまま席へと案内され着席する。
向かいにはセシリアとちびっ子エルフがいるな。……あれ? アニータの姿がない? 斜め向かいにはセシリアのご両親が座っており、人数が揃ったのを確認したのち口を開く。
「皆おはよう。揃ったようだし朝食としよう。レーレ様のお恵みに感謝を」
彼女の父親の挨拶のあと食事が運ばれ始め朝食が始まる。
にしても、レーレ様ってたまに聞くんだけどこの世界の神様かなんかなのかな? まだまだ知らないことが多すぎるな誰かにそれとなく聞くのもいいかもしれない。
「みんなさま、おはようございます。昨日は慌ただしかったでしょうから、今日はごゆるりとして下さいな」
「うむ! 昨日は面白い物も見れたし美味しい食べ物や酒も飲めて満足だった! なぁ、フランツ!」
「おはようございます。ほら、エミリアゆっくり食べるんですよ。お行儀が悪いですよ。——フランツさんその服よくお似合いですね」
「……おはようございます。昨日はその、色々あり過ぎましたね……思い出したくない。——セシリアありがとう。自分じゃ似合ってるかなんてわからないから嬉しいよ」
昨日とは違い穏やかな朝の食事が……できるはずがない。
「して、フランツ君。この先の予定はあるのか? 娘の話ではギルドにいきロスコフの申告に同行するまでの約束と聞いてるんだが……間違いはないよな?」
くっ、なんか話が曲解されているぞ! セシリアは俺の記憶が戻るまで一緒にしてくれるって……でも、俺嫌われてる……はずだよな。
「は、はい。セシリアさんには本当にお世話になりっぱなしで……なりゆきでここまで一緒に旅をしてきましたが今日ロスコフの申告も終えるので、ギルドの依頼の受ければ生活もできるはずですし、これ以上迷惑をかけるのも悪いですし……俺は……」
「うんうん。セシリアは面倒見が良すぎるからな。私としても心配しているんだが、どうにも今回は違うようだな」
揺さぶりをかけてくる父親と微妙に空気が読めないちびっ子である。
「こほんっ。……ジョエル? いくら彼が気に入らないからといっても嫌がらせが過ぎませんこと? しかも聞いた話とは全然違っています。フランツさんは記憶喪失と聞いています。そのような人をこの荒れ狂う世で一人放り出すと? そのような人だとは私は思いませんでした……」
「……ちっ。あと少しだったのに……たしかに境遇はよろしくはないが、何も我が家で面倒を見る必要はないであろう? 客とは認めたが長期滞在を認めたわけではない。だいたい……」
「……あの~、俺無理に滞在する気は……」
「母様も父様もそれぐらいにしてください。フランツさんが困っているではないですか! 彼は私が招いたのです。我が家のルールでは滞在させるのもお世話するのも招いた本人が決めるはずです。父様、大人げないですからもう辞めてください。——母様ありがとうございます。彼が落ち着くまでは滞在を許可して欲しいです」
両親の口論が激化したころ、彼女の芯の通った声色がそれを静止、自身の意見を述べつつこの家のルールを教えてくれる。
――招いた人が招いた人の待遇を決めるとか……というか、無用な争いの原因は父親じゃねーか!? そも、どうしてこうも嫌われているのだろうか謎である。
「……ぐっ。だ、だがセシリアちゃん、記憶喪失なんて話が出来すぎているし、どうにもこの男は信用ならない。そ、それに身体や金が目当てかもしれないんだぞ!? 父親としては駄目! 絶対ダメ!」
ったっくどいつもこいつも俺のこと性欲の化身かなんかと勘違いしてるんじゃねーか!? くっそ、頭にきた……もうぶちまけるしかない。
「はぁ……では、ジョエルこうしましょう。セシリアがフランツさんと今後どうしたいかを尋ねましょう。先ほどの意見は当家の話であって、セシリアの本音ではないはず。ですから——貴方の本当にしたいことをおっしゃってくださいな」
危ない危ない。昨日の話が全てぱーになるところだった。感情のままぶちまけていたら彼女にまた嫌われてしまっただろうし、アリシアさんフォローありがとうございます!
「……え? 私の本音ですか? その、よくわからないんです。もちろん記憶喪失の件もそうですが男性ですから警戒はしました。以前あのようなことがありましたし、行動を共にするうちにほっておけないというか……信用してもいいのかなと」
「ぐぬぬっ、悔しいがセシリアちゃんが言うのであれば本当なのだろう、だが私は……」
「……ジョエル? セシリアさん、彼を信用してもいいと思ったのですね。では、もう一度聞きます。彼とこの先はどうしたいのですか?」
なんだこの昼ドラ的な展開は!? 自分のことのはずなのに妙に落ちついて見入ってしまう。彼女の次の言葉が願望が気になる。
「……い、言わないと駄目です?」
無言で頷く母親とそれに釣られる俺。歯を食いしばる父親、よくわからないという顔で成り行きを見ているちびっ子。何故か女性陣が顔を上気させ、まだかまだかと次の言葉を待っているの伺える。
「その、この先はわかりませんが彼と一緒に居たい……です」
綺麗に整った顔が真っ赤に染まっている。
俺の聞き間違いじゃないよな? 一緒に居たいってきこえたよな!?
公の場で告白を受けたようなものだ。彼女も恥ずかしいだろうが、俺もとてもとても……恥ずかしいのだが。女性陣の興奮っぷりは凄まじく中には涙を流す子もいたりした。他人の恋路ほど楽しいものはないってことか。
「で、ですが、私より弱い男性は認めないのはかわりません! あ、あと、女性を変な目で見る癖は直してください!」
喜んだのもつかの間、彼女に見合う男性になるにはまだまだ前途多難のようだ。
でも、嫌われてなくてよかった。昨夜の話は嘘ではなかったんだな。もっと人を信用してもいいのかもしれない。そう思えた朝であった。
トップソロプレイヤーがゲームに似た世界に転生!二度目の人生は平和に暮らしたい! 文月 和奏 @fumitukiwakana
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