二十二章 うさぎのような鳥
「……さん、フランツさん。起きてください。そろそろ、夕飯の時間ですよ」
「……このまま寝かしておいた方が静かでいいだろう。働かずもの食うべからずって言いうし」
少し横になるつもりが、しっかり寝に入っていていたようだ。
周囲は星々の光で薄っすらと明るくて、真っ暗ってわけじゃないな。
テントの外には石段の上で炎々と燃える焚き木、火の周りには木の棒に刺された何かの肉が油をしたらせ赤黒く焼けているのが見える。
にしても、起きているとはおもってないのか酷い言われようだよな。お前に言われたくないぞエミリア。
「お、おはよう。何の役にも立っていないのにご飯まで準備してくれて、セシリアいつもありがとう」
「いえいえ、旅は道連れといいますし、今日は準備って言うほどの物ではないのです。それと食材を取ってきてくれたのはエミリアですから、彼女にお礼を言うべきですよ」
「……なんだ起きたのかよ。セシリアが言った通り私が獲物を獲ってきたんだ。感謝しろよ?」
周辺の動物か何かを矢で射貫いて狩猟的なことをしてきたのか。腕はあるってことだよな。視界の隅に血の付いた羽や臓器のようなものが纏まって置かれていて食欲が落ちそうではあるんだが、背に腹はかえられないのである。
「エミリア、アリガトウ。さて、セシリア食べようか」
「感謝の気持ちが籠ってないな。もういい、食べるぞ」
「食事の時ぐらいは静かにしてくださいね。はい、温かいうちにどうぞ」
いつも思うけど、セシリアは手慣れた手つきで配膳をするんだよな。食べ方もお上品だし、言葉遣いも丁寧で綺麗、所作も完璧。絵にかいたようなお嬢様なんだが、一人で旅をしているのが不思議なんだよな。
それと違ってエミリアは肉にがっついている。まるで原始人が骨付き肉にかぶりつているそんなイメージだ。
「うんうん。やはりウサドリは美味いな! 飛び跳ねたり空に飛んだりするのが厄介だが脂がのっていて焼くだけでいいのが楽だな」
「この地方では定番食材ですからね。調理場でもあれば、しっかりとした料理ができるんですが……」
「たしかに、脂がのっていて噛み応えもあって肉肉しくて美味い。焼いただけなのにこの美味さ。って、ウサドリ?」
ウサドリ? ウサギと鳥の混合種か? スライムとかウルフ、ゴブリンって定番なネーミングセンスの魔物がいるのになぜ動物は変な名前なんだ!?
「なんだおまえ、ウサドリを知らないのか? あっ、そういえば記憶喪失だったか。この辺りに多く生息する食用の動物だな。大きく丸い耳に白い毛、腰のあたりには羽が付いている。特徴的なのは強靭な脚力からの跳躍と空を飛ぶことだ」
「数が多く狩るにも一定の技量が必要なのでウサドリを狩れる者は常に足りないのです。なのでエミリアはこの辺りでよく狩りをして生計を立てているんですよ」
無い胸を反り偉そうに威張るちびっこに少しイラっとしたが、セシリアの説明でエミリアに遭遇したことに府が落ちた。
「へぇ、となると。商売敵は少ないから稼ぎは良さそうだな。俺では……武器の相性が悪そうか。この手はやはり遠距離が有利だよな」
喰いぶちのない俺にとってはいい稼ぎになりそうだと思ったのだが、職の性能的に相性が悪いな。跳んだりするような相手は近接職ではサポートでもないと狩るのは面倒だろうしな。
「まぁ、お前のような根性の無しのヘタレでは一匹も狩ることはできないだろうがな! 私はこう見えても優秀なのだ」
「職や武器の相性もありますから、フランツさんではそもそも追うので手一杯ですよ。そこを仕留めるのがエミリア達、弓師の役目でしょう?」
「……たしかにそうだな。悪かった。」
「いや、この手の相手はエミリアの方が有利だ。魔物で飛ぶような相手がいたら頼む」
こう見えて職の得手不得手はしっかりと自覚している。やりようは色々あるし、エミリアの戦いを見てから戦略を考えよう。
「なんだよ、急に真面目な顔になって。……うん。任せて」
「ふふっ、たまに見せるのですが、フランツさんが真剣な表情の時は頼もしいのです」
褒められているはずなに、なんだか素直に喜べないこの雰囲気である。
まぁ、ゲーム知識だけは無駄に豊富だから。この世界も役に立っていることを喜ぼう。
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