第一部 転生からの現実を知る

一章 草原は続くよ何処までも

歩けど、歩けど眼前には青々とした草原が続いている。

魔物もおらず、当然人とも会わない。ただの草原がず~~っと続いてる有様だ。移動用のマウントがあったはずだが当然呼び出せない。


「あぁああ! 流石に草原広すぎじゃね!? もう日が昇りきってるんだけど! 早く不具合を治してくれって!」

これメモリーアース始まって以来の不具合祭りじゃないか?

ってまだサービス開始して半年ほどだし、あってもおかしくない……よな?

どうしてこうなった……もうお家に帰りたい。


――ぎゅる~ぎゅぅ~ぅ……


誰も居ないことを良い事に俺は発狂していると、お腹の虫が大きな音をたて自己主張をしてくる。くそっ、こんな状況でも腹は減るとか悲しいぜ。

でも食い物ないんだよな……お腹が空いてもログアウトが出来ないから喰うことも敵わないんだが。

そもそも食べ物があったとしてもVR世界ではお腹が満たされることはないんだけどな!


こうなったら草を食べてみるか? ただの草だろうし毒はないだろう。

俺は生い茂った草むらに胡坐をかき、目の前の草をじっと見つめる。だんだんと美味しそうに見えてくるから不思議なもんだ。人間極限状態になればなんでもできてしまうっていうあれか。

――根は土塗れだろうから食べたくないし、葉の部分だけならいけそうだな? 俺は青々とした葉を数枚選んで摘み取り口へと運ぶ。

 

「うん。草だな。草だけに青臭い……」

なんだかとても虚しい気分になったけれど、空腹は収まった気がした。

現状が惨めすぎて泣けてくる。ゆっくり休める場所を意地でも町を探してやる!

こうして自身を奮い立たせ探索を再開する。





あれからどれだけ歩いたのだろうか、草原は夕陽に照らされ黄金色の絨毯のように見えた。


まったく、何の罰ゲームだろうか? 歩いても草原に終わりが見えない。

そもそも整備された道や看板すらも見当たらない。

無人島か未開の地に降り立ってしまったのかもしれない。そう思ったら心臓が早鐘を打ち、落ち着きなく辺りを見渡してしまう。


「……あぁ、もう陽が落ちる。町も見当たらないし、ゆっくり休むこともできないぞ」

頼みのコンソールも開かないし、不具合が解消されたなどの通知がくることもない。

そうだ! フレンド欄をみて――ってコンソールでないんだった。

そもそもソロぼっちの俺にフレンドはいない。

厳密には居たんだ。初めてできたフレンドとある日、とある場所でオーダーをこなしていたんだ。オーダーを完了した後、背後から攻撃されPKされたあげく、身包みを剝がされてからというものの人と一緒にプレイをしなくなった。

それからはリアルでも人は信用していない。あんな思いはもう二度とごめんだ。


あの日を思い出し俺の心は業火の如く煮えたぎる。

 

「もういいや。昨日も草原で寝てたようだし今日もこのまま寝ちまっても問題ないだろう」

俺以外の生き物がいないんだ、このまま寝てしまえ。

半場諦めの感情に捕らわれたが、こんな仕打ちをされれば誰だって諦めたくなるだろう。寝て起きたら現実に戻っていますように。そう願い俺は草の絨毯の上で目を閉じ横になる。疲れていたのだろう夢を見ることも無く意識がぷつんと切れた。

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