五章 膝マクラ
薄暗い森を駆ける。立ち止まることなく。
先を走る彼女は息を切らすことなく俺の手を掴み森の出口へと先導してくれる。
「フランツさん、あと少しで森を抜けます。もう一踏ん張りですから、頑張って下さい!」
「……ぜぇぜぇ。セ、セシリアさん……もう限界が近い……はぁはぁ……息が上がって辛い」
情けないことに体力の限界と酸素不足で俺の身体と精神はアップアップ状態である。
そもそも、ゲームで疲労値の蓄積で死にかけるなんて無かったはずなんだが!
やばい、酸欠で意識が飛びそう……足も棒のようにカッチカチになってきたぞ……
半場引きずられるように進むと眼前が開けてくる。
あぁ、もう少し、もう少しで抜けられ……そこで俺の意識は途切れた。
「……さん! フラン……ツさん! 大丈夫ですか!?」
俺はどれぐらい意識を失っていたのだろうか?
気づくと身体は横向きになっていて、頭はセシリアさんの膝の上であった。
……!? これは膝マクラじゃないか! 恋人でもない女性にこんなことをして貰えるなんて夢のようだ。女の子の匂いってこんなものなのか…… —―じゃない!
これでは変態ではないか! 俺は煩悩を払いのけ彼女にここまでの状況を確認する。
「あの~? セシリアさん、これはどういった状況なのだろうか? 俺は意識を失った様な気がしたんだが……」
「フランツさんは、あと少しで森を抜けるといった所で何事かを叫けび、そのまま意識を飛ばしたようです。私はその奇行にびっくりしてしまって、手を離してしまいまして……あのですね? フランツさんがそのまま地面と……」
なんとも恥ずかしいことに心の声がだだ洩れになっていたようで、うわ言ではなく叫んでいたようだ。なんとも格好が悪い出来事であった。—―しかも地面に?
俺は自分の頬や額を触り変わりない事を確認した。
「な、なんだ、顔は特に異常はないようだな。ははっはは……? なにごともなかったんだよな?」
彼女を見上げると顔を反らされて申し訳なさそうに言う。
「え~っと、ですね? 顔面は赤く染まって、頬は擦り切れ……目が……」
「スト~~~~ップ! 辞めよう! この話はなかった。いいね?」
見るに堪えない惨状であったらしい、冒頭を聞くだけで痛みがにじみ出てくるような錯覚を覚える。幸いなことに彼女が回復魔法をかけてくれたおかげで難を逃れたみたいだけど、回復も出来るとは思わなかった。魔法剣士は思ったより万能職なのかもしれない。
「表面上は治っていますが、痛みが完全に引いたわけではないので、安静にしてくださいね。ここは安全地帯なので、少し休んでから移動しましょう」
彼女の柔らく細い手が俺の額を摩りくすぐったいのだけど、とても心地よいと感じる。
これがリアルだったらな……っと思ったが、そんな相手は一生かかっても俺には出来ないと。その時は思ったのであった。
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