八章 水の町ミュコス
やっとこさ町にたどり着けたようだ。
ほん~とうに、ここまで来るのが長かった! 右も左もわからないゲームで迷子になっていた俺を救ってくれ、こうして無事たどり着けたのはセシリアさんのおかげではあるのだが、どうしたものか。記憶喪失の件もあり、この様子だとこの先も着いてきそうだよな?
「フランツさん、ここはミュコスと言われている港町です。漁業が盛んで新鮮な魚介類がたくさん獲れるのと――見てください!」
この先どうしたものかと悩んでいることも知らず、セシリアさんはこの町の案内をしてくれている。ふと、彼女が指を指さす方を見る。
――眼前には雲一つない晴れ渡る空、青一色の青々とした大海原が広がっていた。
「……すごいな。この世界にはこんなにも綺麗な海があるのか」
草原の時も思ったけれど、この世界、妙にリアルなのだ。匂いもしっかり鼻に残るし、頬にあたる風は心地よく感じる。あの温もりも本物のように感じたし。いかん、これはVRゲームだ。このままだとリアルの女性に興味がなくなってしまいそうで怖いな。—―とはいえ、バーチャルであっても可愛い女の子との冒険は楽しいものだ。
「とても綺麗な海ですよね。ミュコスは海水浴はもちろんのこと、避暑地として観光でも有名です。先ほども言いましたが魚介類が獲れるので、料理も美味しいんですよ! なので、ご飯を食べて英気をやしないましょう」
『ささっ、こちらですよ。』っと俺の背を押し町の中へと進んでいく。
★
だいたい町の中央辺りに着いた頃、手を引かれて入ったのはレンガ造りのお店だった。中に入ると木製のテーブルと椅子があって、俺と彼女は向かい合って席につく。
今の時間はわからないのだが、店内はしーんと静まりかえっている。
「まだお昼時間ではないから人が少ないのかな? おかげでゆっくりと食事はできそうだけど」
「そうですね。お昼にはまだ早い時間ですね。さてと、何を注文しようかな……」
セシリアさんが懐中時計のようなものを手にして時間を確認しているのが見えた。
ほうほう。この世界での時間確認はアナログ式なのか。
……いやまてよ? VRゲーム内だからどっかこう、視線の端に時間とか出るよな? これまた不具合なのかこのゲームの仕様なのかなんとも困った世界だな。
「あら~? セシリアちゃんじゃない。久しぶりだね~。今日もいつものでいいのかしら? ところで向かいに居るのは――もしかして彼氏さん?」
「お久しぶりです。たまたま近くに来たので、顔出しにきました。 ……? っちょ、っと、おばさん!? フ、フランツさんとはそのような関係ではないですから! そう、あれです。草原で迷子になっていた所を救出して、ここまで案内しただけですから勘違いしないで下さい!」
常連さんらしいやり取りの後、頬を赤らめ俺との関係を慌てふためきながらも全力で否定するセシリアさん。
凄く可愛らしいやりとりなのだけど、彼女の中で俺の株はかなり低かったらしい。
—―無念である。そして、とても悲しい……
「あっ、そっ、そう、あれです。腐れ縁? っといやつです。フランツさんあまり気にしないで下さいね? ささっ、注文しますよ。ここのお店のおすすめは……」
「……は、はい」
もうね。完全にノックアウトですよ。立ち直れそうにない……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます