二十章 理想のエルフ像

首筋に突きつけられていた刃物のような感覚がなくなり、やっと介抱される。

色んなゲームをしてきたが、洞窟を抜けた途端、罠にかかり背後から刃物? を突きつけられるなんて展開なかったぞ。ほんと物騒な世界だな。


「やれやれ、やっと自由の身だ。さて、犯人の素顔を見ようじゃないか……」


「犯人ってな、お前の頭が緩いのが悪いんだろうが私のせいにするなよ」

何と態度の悪い女だろう、人を罠をかけておいてこの態度とは一回ガツンと言ってやろうじゃないか。


「えっ、この耳本物? ちょっ、もしかしてエルフ?」

後ろを振り返ると想像を超えた存在がそこ立っていた。

態度こそ悪いのだが、薄緑の瞳に銀髪にやや青が混ざった長髪をツインテールにしており、肌はきめ細かく人の肌の色に近く背は低めである。露出の少ないマントみたいな衣類を身に纏っていて金属製の胸当てと手甲、肩当てが付いている。装備は弓と矢筒を背負っているから弓師なのだろう。


一番特徴的なのが耳だ。とても長いのである。これがエ・ル・フ! っと感動もつかの間、俺は期待に胸を膨らませつつ、ある箇所を凝視する。


――ない。


ある箇所がまったくないではないか! エルフと言えば豊満なボディを持ち、露出の高い服を着てるのが定番だろう!? なんだ、この色気の色字もない、このまな板は!? 


「あぁ、エルフだよ。で、なんだその残念なものを見る目は……? お前何処みてるんだよ。セシリア、やっぱこいつやっていいか?」


「い、いや、エルフに会うのは初めてで、感動してたんだよ、ははっ、この目つきは生まれつきだから、気にしないでくれ。セ、セシリア、彼女との挨拶も済んだしこの場を……」


「……ふふっ」

隣を見ると満面の笑みで迎えてくれる彼女はとてもいい笑顔だ。とっても綺麗だ。

あぁ、これは怒ってる。眼が笑ってない。二人に肩を掴まれ頭部に鈍い衝撃を受け意識が暗転する。








「……つっ、な、何が起こったんだ? 俺はいったい……」


「やっと起きましたね。フランツさん、女性に対する言動をもう少しでいいので、改善してくださいね? 先ほどの彼女への態度は明らかに貴方が悪いです。このままだと、すべての女性を敵に回しますよ」

私も含めてですよ? っと付け加えられ厳重に注意された。


怒られているのに後頭部には柔らかい感触がある。

あぁ、膝枕っていい……このまま死んでも悔いはない。一度死んでるんだけどさ。

怒っているのにこのほんといい子だな。

それに比べてこのちびっこエルフときたら。


「セシリア、こいつを甘やかすな。見ろ。こいつの顔が緩みまくてって気持ち悪いぞ」


「甘やかしてはいないですよ? 意識を失った人を放ってはおけません。それに私にも原因がありますから」

塵を見るかのような鋭い視線で俺を非難する。けれど、セシリアは加担したとは言え介抱をしてくれる。まるで天使のようだ。——たまに鬼が顔を出すけれど。


「二人共、すまない。俺が悪いんだ。ちょっとだけ、現実を受け入れられなかっただけだ。次からは善処……うごっ!?」

人が丁寧に謝っているというのに、唐突に腹に重みを感じ嗚咽を漏らす。

エミリアと言われたエルフの足が俺の脇腹にめり込んでいるのだ。


「セシリア、いつも言ってるがお前は優しすぎる。男はみな下心を持っている生き物だ。安易に信用するな。だいたいこいつも顔によく出ているだろう? お前の身体が目当てかもしれないぞ」


「ですからこれには事情があるのです。彼は記憶喪失で、その原因を作ったのは私であって……王都まで彼を送りたいのです。たしかに彼は失礼な人ですし女性の扱いもなっていません。ですが、根は良い人だと思います」

物理的な痛みと精神的な痛みの両方に耐える俺、お互い意見を譲らない女性陣のなんとも重い空気である。


「ったく、頑固なのは変わらずか。私は忠告したからな? こいつがお前を襲ったとしても私は助けない。いいな?」


「はい。エミリア、いつもありがとう。貴方が私を心配してくれてるのはわかります。ですが、この人は信じてもいいと思えるのです」

よかった……喧嘩でも始まるのかと思ったけど、流石にそれはないか。

激しい言い合いを笑顔一つで解決してしまったセシリアである。

それを見てエミリアはそっぽを向いてしまった。けれど特徴的な長い耳が若干だが朱に染まっている。この子はこの子なりに、セシリアのことを大事に思い心配しているってことか。

ただ、言葉遣いは直した方が良いと思うけどな。黙っていればセシリア以上に可愛いのだから。


「あの~、そろそろ足をどけて頂いてもいいかな?」


「あぁ、悪かったな。事情があったとは知らなかった。だが、お前がセシリアに手を出すようなら私は容赦はしない。それだけは覚えておけよ」


「わかっているさ。彼女は命の恩人だ。手を出すなんてことはしない。むしろ守りたい人だ。エミリア、すぐに信じて欲しいとは言わないから俺のこと見ててくれ」


「うん、うん。このお話はこれで終わりです。エミリアもフランツさんも仲良くしましょうね? さぁ~、王都は近いです。出発しましょう!」

笑顔で俺たちの手を取り歩き出すセシリア、仕方なさそうに釣られて歩みだすエミリア、ただただ引っ張られる俺の構図であった。

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