十九章 上層を目指して

さて、さて……ロスコフを偶然ゲットできたわけだが、上層へはどうあがったものだろうか。


ロスコフが置かれていた部屋には道や階段も無く、俺たちは来た道を戻りつつ、上層に上がる手がかりを探していた。


「ここも何もなし、こっちも何もないな……もしかして俺たちこのまま地下で生きていくしかないのか!?」


「こちらもこれと言って怪しそうなものは見つからないですね。って、私はこんな気分が滅入る様な場所で、一生を終える気はありませんよ!?」


「たが、こうも手詰まりだと覚悟するしかないような……へっくし! なんか、寒気がするんだけど」


「まだ諦めるには早いですよ! フランツさん風邪ですかね? ……? この隙間から風が抜けているような」

冬場の隙間風を感じさせるような感覚に襲われ思わずボケてしまったが、どうやら光明が差してきたかもしれない。

彼女は風が抜ける場所に近づき、手の甲で壁を軽く叩いていく。

数回、周囲の壁を叩いたかと思いきや、唐突に剣を抜き壁へと突き刺す。

軽く刺しただけなのだろうけど、脆かったであろう部分の壁が音を立てて崩れ落ちる。


「どうやら、ここが当たりのようです。風はこの先から流れてきていますね。フランツさん、この先に進みますよ」


「おぉ……手慣れてるな。っと、セシリアそんなに焦らなくてもいいだろう」

歳のわりに経験豊富だな。僅かな情報を辿りに新しい道を切り開く頭脳と行動力は目を見張るものがある。そう俺が心中で称賛していると鋭い視線を感じ取る。


「フランツさん、なにやらとても失礼なことを考えていませんでしたか?」


「うん? セシリアが歳の割に経験豊富だなって……あっ」

またやっちまった。俺のデリカシーの無さは折り紙付きのようだ。

みるみる彼女の顔が朱に染まっていき、肩を震わせるているのが目に見える。

なんで、穴が空いた先はこんなにも明るいのだろうか? 見えないほうが幸せだったぞ!?


「……」


「……ごめんなさい」

無言は辞めてくれ。せめて何か言ってくれ!


「……フランツさん次は無いですよ?」

満面の笑みだが、顔が笑ってない。凄みを感じる、次は俺の人生が終わる。そう感じ取れる威圧だった。


さて、気を取り直して先を目指そう。

壁に空いた大穴から顔を出して辺りを伺うと隣の道は車一台分は通れるほどの広さで、灯もしっかりと備えているのが見える。


「この道も上層と同じような作りだな。人の手が入った形跡があるっぽい」


「たしかに、整備されていますね。ですが、この地域の文献ではこの洞窟に地下の道のことは書かれていなかったのです」


「そうなると、ここは人が作った道ではないかもしれないとってことだよな。それにしても、文献の内容を覚えているなんて頭が良いんだな」


「その可能性が高いですね。文明レベルはそこまで高くなさそうですし。とはいえ、いつの時代の物かもわからないので、はっきりと言い切れないのですが。……私の頭が良い? 学院を出た者であれば普通ですよ?」

ほう、この世界には学院があるのか。文献を覚える授業があったとしても内容を覚えているなんて普通ではないような気がするんだけどな。


永遠と続くかのように錯覚するほどに同じ造りの道、道々、道……一本道じゃねーか! いや、迷うことがないのは良いことだけどな。変わり映えしなさ過ぎて流石に飽きてきた。


「どうやら、徐々に登っているようです。もしかしたら、出口が近いのかもしれないですね」


「おっ? となればさっさと先を急ぐとしよう!」

言われてみると登っている感覚はあったのだが、出口が近いとは思わなかった。

そう思えると、足取りが軽くなり駆け足気味になる。


「フランツさん! 急ぎたい気持ちもわかりますが、焦りすぎですよ!」


「セシリア、こんな薄暗くて陰湿場所ささっと抜けようぜ! ほら、明るくなってきた。もうちょ…っ」

光の刺す方へ一目散に駆け、陽の光が身体を照らした始めた時、違和感を覚えた。

陽の光じゃない? あれ、手が、足が、身体が、動かない。これってまさか……

ふと、背後から首筋に冷たく鋭利な金属のような感覚が突きつけられる。


「なんだ、人間じゃないか。にしても、お前、警戒心が無さ過ぎじゃないか? こんな能天気な男と居てよく無事だったわな。セシリア」

透き通った声色が俺を小馬鹿にしつつ、後から来るセシリアに対し苦言を述べているのが伺えた。こんな情けない姿を見られるとは、一生の不覚である。


「だから言ったではないですか、フランツさんはもっと物事を冷静に見て動く癖をつけた方が良いですよ。この先命がいくらあっても足りないです。あと、本人も反省しているようですし、エミリアは武器を収めてください」


「あの~、話が見えないんだけど……敵じゃないってことでいいんだよな?」

こうして、俺とエミリアの出会いは最悪の形で実現するのであった。

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