三十四章 晩餐会と彼女
「皆さま席に着きましたね。これより晩餐会を始めたいと思います。当家の当主に変わり私アリシアが挨拶と致します。本日より、フランツ様を当家の親しいお客様としてお迎えするこになりました。どうぞ宜しくお願い致します」
【——乾杯!】
それぞれがグラスを掲げ乾杯を捧げる。グラスに注がれたのは無色透明な液体だ。
アルコールに似た刺激と甘い果実のようなフルーティーな香りが鼻につく。
酒は好んで飲んだことがないから味とかわからないんだよな……
「あら~? フランツ君はお酒飲めないのかしら? 男の子が飲めないのは駄目よ。ほらあっちを見て見なさいよ」
飲めないわけではない。——気乗りしないだけなんだよ。
心の中で愚痴りつつ獣人娘に言われた方をみる。見たのだがえぐい光景が繰り広げられていた。
「お姉さんお酒まだ~? あと食事も頼むよ~ひっく……あれ~? フランツが3人に見える~。笑える~いつから増えてんの? ほらお前も飲めよ~……何? 私の酒が飲めないだと? いいから飲めよ~」
何だこの絵に描いたような絡み酒のこどもおっさんは――そもちびっ子お前未成年……あっ、こう見えて俺よりずっと年上なんだった。
「エミリアお前飲みすぎじゃないか? 始まったばかりだろうに。俺のことはいいから久しぶりの晩餐会を楽しんでこいよ。俺は俺なりに楽しむからさ」
「……う~ん? いつものことだぞ~? まぁ~お前がそう言うのであればしかたないな! そうそうアニータを借りていくぞ。またあとでな!」
「そういことだからフランツ君あとでね。あ、セシリアちゃんが待っているわよ。行ってあげなさいよ」
「あ、あぁ。二人とも楽しんできてな。……? セシリアが待っている? どこだろう」
飲んべ組が席を慌ただしく去っていく。
獣人娘に言われて気づいたがセシリアの姿が見えない。
あれ? おかしいな。晩餐会が始まった時にはいたはずなんだが……
辺りを見回しても姿が見えない。
「あの~カルメアさん、セシリアが何処に行ったか知りませんか?」
「……はい? あぁ、お嬢様はお酒を飲みすぎたようで、テラスで酔いを醒ましてい来るとおっしゃっていましたよ」
忙しくなく動きまわるカルメアを呼び止め彼女の行方を聞いてみたが、どうやら酒を飲みすぎたようで酔い覚ましに外に居るとのこと。
「ありがとう。……先ほどは失礼な態度を取ってすみませんでした。では、セシリアに会いにいくので」
「いえ、もう慣れましたので気にせずに。お嬢様をお願い致しますね」
カルメアさんいい人だな。セシリアの人柄はこの人のおかげなのかもな。
軽く会釈をしたあと彼女は晩餐の会場に戻っていった。といっても人数はそこまでいないんだが、騒いでるのが約二名いるせいで忙しいようだな。
と、こんなことしている場合じゃないな。セシリアの元に向かおう。
♦
オペラのワンシーンなんかで出てきそうなテラスだな。まぁ、オペラなんて見たことないけど。城下町を一望できるテラスの中央で彼女は塀に身体を預けていた。
――闇夜の中、薄っすらと光る月明かりで彼女の金髪のロングヘアーをより一層輝かせる。お酒を飲みすぎたせいなのかどことなく息が上がっていてる様子が妙に色っぽく見える。
「セシリア大丈夫? 酒飲みすぎたって聞いたから様子を見に来たんだけど……」
「あっ、フランツさん。……はい。だいぶ楽になりました」
「そ、そっか。ならいいんだ」
「はい」
妙に静かだな酔いが回って気持ち悪いとか? にしては顔色は青冷めるどころか赤く上気しているように見える。
「あ、あのフランツさん。フランツさんにとって私ってどんな存在ですか? そのエミリアとは兄弟のように仲良さそうにしていますし、アニータとは初対面とは思えないほどに慣れ親しんだ友達のように接していますから気になってしまって」
ってあのちびっこと兄弟はないない。むしろ大迷惑だぞ!
獣人娘は妙に絡んでくるんだよな。別に友達ではないような?
俺にとってセシリアはどんな存在なんだろう。
「う~ん。エミリアとは兄弟っていうより手のかかるちびっ子って感じだしな。アニータは妙に俺に突っかかってくるだけで友達ってことではないと思うんだけど。セシリアは俺にとってはなんだろうな」
「ちびっ子ですか。本人が聞いたら怒るでしょうね。アニータは私のことを心配しすぎなんです。——フランツさんは悪い人ではないんですから。ちょっとだけ失礼な言動や態度がありますけれどね」
「まぁ、あれに聞こえてなければ問題ないだろう。アニータはそうだな。俺を試しているんじゃないかなって思うんだ。その信用してくるのは嬉しいんだが、セシリアはもうちょっと人を疑うことをした方がいいと思うよ」
「たしかにアニータなら試しているかもしれませんね。——え? 私って危なっかしく見えるのですか? あまりに気にしたことがないので心配かけてしまってごめんなさい」
ちっびっこと獣人娘の話は上手く捌けたけど、ちょっと言いすぎたかもしれない。
声のトーンが急に落ちこんでしまって心配になってくる。
「いやいや、そんな落ち込まないでくれ。俺も言い方が悪かったごめん。さっきの質問の答えだけど、俺にとって君は命の恩人でもあり。そ~の、あれだ。うん。気になる人って感じかな」
「……!? その、気になるってどんな風にですか?」
「えっ!? どんな風ってあれだ。気になる人は気になる人ってことだな! ははっ」
その顔ずるいって綺麗に整った顔に潤んだ瞳で迫られたら女性経験の少ない俺じゃ誤魔化すしかできないぞ!?
「……フランツさんに期待した私が馬鹿でした。やはり女性の扱いがわかっていませんね! さてと中に戻りますよ」
「……うぐっ」
この日、彼女の中でまた俺の株はさらに下がったようだ。
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