三十三章 和解
まったくひどい目にあったぜ……セシリア宅での騒動ことバタイユに勝利した俺は勧められた席で伏せっている。もうこれ以上は何もないことを祈る。
「フランツ様お疲れでしょうから楽な姿勢でお聞きください。先ほども言いましたが、当家はフランツ様を特別なお客様としてお迎えいたします。もう一点、我が当主が大変な失礼をしましたこと深くお詫びいたします。申し訳ありませんでした。——意識を取り戻したら本人からも謝罪させますので、どうかお許しください」
「フランツさん私からも謝罪させてください。まさかこんなことになるとは思わず……本当にごめんなさい。母様とあとできつ~くお灸を添えておきます。フランツさんはごゆるりとして下さい」
「いやいや、二人して頭下げないでください。決闘を受けてしまった俺も悪かったですし誤解が解消されただけで満足ですよ。お手柔らかにお灸を添えてあげてください」
「あら~? フランツ君は優しいのね。少しだけ見直してあげるわ」
「うんうん。意外とフランツはいい奴だからな! 一時は私も襲われるかと思ったが勘違いだったしな」
この試合には勝ったのに勝負で負けた感が酷い有様はなんだろうか。
ちびっこめ! まだあの時のことを根に持っているのか!?
獣人娘は妙に素直だな。あぁ、酒飲んでるのか……明日には忘れてそうだな。
「……はっ!? 私は……負けたのか? まだだ! 諦めなければ負けで……は……」
「……ジョエル?」
「……父様?」
「……はい」
意識とを取り戻したジョエルことセシリアの父親だが、どうやらまだ負けを認めていない様子。けれど、母と娘の威圧に当てられたらしく拾われてきた子犬のように縮こまってしまったのである。
「……フ、フランツ君すまなかった。今日の所は負けを認めよう。だが次は私が勝つ! その時まで精々力を付けておくのだな! はっはっ!」
「は、はぁ。俺はこの世界で平和に暮らしたいだけなので、次がないことを祈っています。なので頭を上げてください」
この反省の見えない態度と言動が何処となく自分に似ている気がするのがむず痒い。
「謝罪が足りない気が致しますが、お客様を待たせるわけにはいきませんね。ジョエルは反省室に行くように。私も後ほど向かいます」
「なっ!? あそこだけは……勘弁してくれ! いやだぁ! いやあああぁああ」
いい大人が涙を流し奇声を上げるほどである。反省室とは言葉では表せられないような場なのだろう。彼女の父親は屈強な男に両脇を抱えられて決闘の間から退場していく。
「フランツさん食卓の間までご案内しますね。既に食事の準備はできているので、あとは食べるだけですよ。さぁ、いきましょう」
♦
食卓の間に向かう途中、断末魔が上がっていたが聞かなかったことにしよう。
「フランツ様、席へとご案内いたします。こちらへどうぞ」
長い茶色の髪の途中をリボンで結んだ長耳のメイドに言われるまま俺は席へと向かう。背が高くてセシリアとはまた違った凛とした雰囲気を漂わせている。
何よりとても美人である。でも、エルフって感じじゃないな?
「あ、あの……あまりジロジロ見られると恥ずかしいです。——どうぞ席はこちらです」
「す、すみません。エルフのような見た目が気になって。」
「うん? あぁ、彼女はハーフエルフだぞ。エルフと人間とのハーフってやつだ。ハーフと言ってもエルフはエルフだから差別するんじゃないぞ」
ほぉ、この世界にはハーフエルフもいるのか。にしてもちびっ子とは雲泥の差だな。
「フランツお前今、失礼なことを考えなかったか?」
「フランツさんの女性を見る目はどうにかならないものでしょうか……たしかにカルメアは綺麗でお淑やかな女性です。私の侍女なのでわかりますね?」
「なるほどね。フランツ君は女の子をやらしい目で見ているのね。お姉さんもそう言った目で見られているってことでいいのよね?」
……美人だな~って思ったのは認めるが、その先のやらしい目とか手を出さないでくださいね? 的な発言はどうしたものか。——ちびっこは勘が鋭いな。にしても差別か……やはりハーフは異端な存在なのだろう。ちびっこは友好的な雰囲気だし考えすぎかもな。
「……お、俺はこう見えて紳士なんだ! 女性だからってすぐに手を出すことはないぞ! 一つ誤解があるようだから言うけど、いやらしい目で見ているんじゃなくて興味が出るとつい見てしまう癖があるんだ。すまないが、こればかりは直せそうにない」
「まぁ、しかたないな。フランツだし」
「はぁ……もっと私も頑張らないといけな……な、何でもないです!」
「セシリアちゃん悪いことは言わないから辞めておきなさい」
「あ、あの私はこれで失礼致します」
生暖かい視線を感じる。こればかりはしかたない男の性と言うものだ。
綺麗な人が居れば目を奪われるのも必然だろうに。しかもハーフエルフの美人さんだぞ!? 俺は悪くない!
こうして和解? が終わり晩餐会が開始されるのである。
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