十章 騒動の始まり

フランツさんは本当に失礼な男性です。

女性の扱いがなっていません。これでも私は女の子なのですから、あのようなことを言われると……いけませんね。まずは、外の状況を確認しないと。

扉を開け店を出ると中央の噴水広場に人だかりが出来ているのが見えます。


一人の男性が妙に目立ちます。どうしてかと言われると、服のあちらこちらが鋭利な刃物のようなもので引き裂かれていて、腕の数か所に赤黒く変色している傷口があるからです。その痛々しい風貌を見ても町の人は水や傷薬を持ち込み看病をしているのが見えます。—―この町は良い人達が多い場所。っと私は心が温かくなります。


「すみません。お辛いとは思いますが、少しお話を聞かせて頂いてもよろしいですか?」


「……はぁはぁ。剣士様、森に……ウルフが出ました。す、すみません。このままだとこの町に……」

こんなにも傷ついているのに、この町の心配ができるなんて優しい人。

ですが、悠長に構えている場合ではないことだけはわかりました。


この男性はウルフに襲われ何とか逃げ延びたのでしょうが、町の近くの森まで招いてしまったということでしょう。

あれらはこの地方にはいないはずなのですが何かの前触れでしょうか。


「……ありがとうございます。この先は私が何とかしますので、ゆっくり休んでください。貴方にレーレ様の御加護がらんことを」

男性の額に手を添え、癒しの魔法をかけると彼は安堵し休息の眠りにはいった。







「お兄さん、フランツさんって言ったっけ? お節介かもしれないけど、セシリアお嬢ちゃんのこと頼むね。どうにも危なっかしくてね。人が良すぎるし、疑うことをしないんだ」

店内でセシリアさんを待っていると、不意に店のおばさんに声かけられる。

俺にあの子を守ることなど、先ほどのやり取りを見ていればわからだろうに難問を課してくれるもんだ。


「……と言われましてもおばさん、先ほどのやり取り見てましたよね? 俺には彼女を守れるほどの力はないんです。確かに心配なところはあるけれど」


「守るとかそいうことじゃないだよ。傍にいてあげるだけでもいいんだ。――あの子が他人に、お兄さんの面倒見るなんて珍しくてね。たぶん、気があるんじゃないかなってあたいは見てるんだよ。」

年の功というものなんだろうか? おばさんの言い分には妙な説得力がある。

最後は嬉しい一言ではあったんだけど、先ほど対象外と言われた身としてはむず痒い。


「ははっ、お兄さん若いんだから、もっとがっついておいきなさいよ!」


「は、はい。精進します……」

背中をバンバンっと叩きながら豪快に笑うおばさん、この世界の女性は強いな。色々な意味で。


「フランツさん、私はこれからウルフの討伐に出向きます。記憶が戻っていない貴方を危険な場所へ連れていくことはできません。すみませんが、ここでお別れです」

『お約束を果たせず申し訳ありません』そう言い残し、彼女はきびつを返す。


俺は彼女と離れたくない。――密かな願望があったんだ。

おばさんの言葉を信じるわけではないけれど、ここは逃げちゃいけない。

現実世界でリタイアした俺が唯一輝ける場所、ゲームの中ぐらい自分に正直でいいよな。ゲームの世界でってのが悔しいが。

自分の気持ちに素直に従おう。そう心に固く決意をし彼女の手を取る。


「セシリアさん俺なんかが役にたつかはわからないけれど、一緒に戦わせてくれないかな? その……君が心配なんだ」


「……ふぅ。危ないんですよ?」

心なしか彼女の肩が上気していて、こうなることを望んでいたかのように声色は弾んでいる。振り返る彼女の頬は主に染まっていて嬉しさが伝わってくる。


「何事も慣れってもんさ! セシリアさん、一緒に頑張ろう」


「はい!」

いつもは手を差し伸べ引っ張てくれる彼女、この時は俺がその主導権を握ぎり一緒に旅立つのであった。

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