知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第29話 次世代型AI【カリフォルニア・アリス】
第29話 次世代型AI【カリフォルニア・アリス】
幼い声と共に流れたセーフティエリア解除のメッセージ。
最初は何を言っているかわからなかったけど、要するに安全じゃなくなったということだ。思わず立ち上がって肩の剣の柄に手を当ててしまう。
異常事態には即時警戒体制。タコさんに叩き込まれた腰を低くするこれ、時々学校で出そうになるから恥ずかしいんだけど……今はそんな事言ってる場合じゃない。
「なんで!? ホールは安全って設定じゃないか!」
[ごめん緊急で動画繋ぐ!]
というチャットログが流れたと思いきや、勝手に【ビーストアイズ】が起動。虚空に出たのは「お問い合わせ」と書かれたウィンドウだ。
現れたのは茜さんの顔だった。どうやら事務所かららしい。
「ハルトくん! マロン!」
「社長!」
【コメント欄】
>なんかウィンドウ出てきたな
>これ緊急用の画面通話じゃなかった?
>基本チャットだけどセクハラとか通報とか変なバグみっけた時に呼ぶと出るやつな
>誰この美人
>『ダンジョンフレンズ』の社長だ
>経済誌にも出てくる有名人だぞこの人
「今公式の人から特別に回線もらってる。聞いて。ダンジョンのルート権限が8割も取られてるみたい!」
「ど、どういう」
「つまり、平たく言えば――ほとんどハッキングされてしまっているということです」
「貴方は?」
茜さんの背後からヌッと現れたのは、モジャッとした髪の見たこともない人だった。
無精髭にメガネ、スーツを着た優男という感じ。ありたいていに言うならオタクがそのまま健全に大人になった感じ。ザ・プログラマーみたいな、そんな印象を受ける。
「たいっっっへんご迷惑をおかけしています! 僕は『インビシブルフロンティア』の役員、谷崎進次郎って言います!」
>だから誰やねんこのメガネは
>オタコンみてーだな
>なっつかしいゲームの登場キャラ出してくるな
>古典から引用レベル
>この方をご存じ……ないのですか……
>ゲームの創始者の一人で天才プログラマーって呼ばれてる人。実際天才。
>このゲーム作った人?
>学生は知らないだろうけどフルダイブ系の専門書なら必ず載ってる準偉人
「えーっと、コメント見ると開発者ってあるんですけど」
「そう! き、君がハルト君!? めっちゃ可愛いじゃないか! 噂はかねがね!」
「は、はぁ」
「君みたいな子が【ラビット】を使いこなすなんてね。いやあ〜実装しとくもんだな〜」
「谷崎! 今それどころじゃないだろォ!?」
「ギャー! 少……先輩やめて怒らないで!」
「谷崎」
さらにヌゥッと現れたのはタコさんだった。彼が現れた瞬間コメントが「ひえええ」「屈強ハゲとかテンプレか?」「ここだけ洋画の世界になっとる」とまた違った反応が出ていた。
「お前何かやらかしたのか。ええ? 吐け」
「ひいい曹ちょ……タコさん! 違うっ! 今回ばかりは!」
「貴様子供達を傷つけてみろ。お仕置きどころじゃすまんからな」
「やめてタコさんが言うと冗談じゃ済まない!」
「あのう……モンスター来ちゃう……」
コントまがいの事をしていた大人達がハッとして咳払いしてる。緊張感があるのかないのか。
「そ、それはそうと! ハルト君、それにシシマロさんうわ本物だ僕フィギュア買ったんだよホントいつもプレイしてくれてありがとうね痛い痛い先輩! ちゃんと説明するから!」
「報告は簡潔に素早くそしてさらに簡潔に!」
「アイアイマム! ……端的に言うよ! 一年前に米国で脱走したAIがここにずっと潜伏してた! この事態はそいつが原因だ!」
ウイルスとかハッキングとか思ったら、まさかの言葉に一周回って頭の上にハテナが浮かぶ。
シシマロを見てみると「何だそれ食えるのか」という顔になってた。うん、可愛い。満点。
「それにハルト君、君が元々ヘルモードにいたのも彼女のせいだ」
「彼女?」
「ああそうだ。君も見ただろ。あの不思議の国のアリスみたいなアバター! アレだよアレ!」
ああ、と手を打つ。あれイベントのキャラクターじゃなかったのか。確かにホラー過ぎると思った。
「あのAIは俗に【カリフォルニア・アリス】って呼ばれてる」
「「カリフォルニア・アリス!?」」
「カリフォルニア州在住の頭のおかしい
「軍曹。要点を」
「先輩! 目! 口調!」
「あ、いけない……コホン。谷崎、ハルトきゅんとマロンにわかりやすく」
一瞬だけ茜さんが見たこともない目になって、聞いたこともない声になっていた。マロンを見てみると首を振っている。見た事ないって事だろうか。
あの人ほんとにゲーム仲間内で少尉って言われてるだけなのか?
てか何で開発者と仲良いの? わからん。
「簡単に言うとクラックAIってのはね、相手のサーバに乗り込んでデータをひっちゃかめっちゃかにするってヤツだ」
「そんなのに支配されたらもう僕たち絶望的じゃないです?」
「そうでもないさ。僕がいる」
全くもって説得力のかけらもない、頼もしくない言葉だった。
しかしカメラの画角が変わると、谷崎さんは茜さんの背後の机にノートパソコンを開き、ものすんごい速度でタイピングをしていた。
もしかしてこの間ずっと何かをしていたのだろうか。さっきコントじみた事をしている間もずっと?
「クラックAIといってもやる事は様々だ。ただ単にデータを消したり改竄したり。バックアップすら食い破ることもある。でも対策側だってバカじゃない。ウイルスに対するワクチンのように、データを復元する技ってのは今ものすんごい発展してるんだよね」
「はぁ」
>なにいってだこいつ
>オタクは早口だから困る
>普通に聞き取れない
>わかんね
>3行で頼む
>データを消したりぐちゃぐちゃにするAIがいる
>でも復元技術進化してて簡単にはいかねー
>ちくわ大明神
>おい誰だ今の
>谷崎も直せるぜドヤァ……っておい誰だ今の
>データは昔から簡単には消せn誰だ今の
>こんな時に茶化すなやwww
>緊張感があるのか無いのか
>歴史に残るレベルのクラック攻撃を目の前にしてるはずなんだがな
>また古いネタをw
なるほどよくわからん。
けど、この谷崎って人が凄いっぽいってだけわかった。マロンは……あー、飽きて双剣をお手玉してる。かわいい。許す。
「で、カリフォルニア……ええい今からCアリスって呼称する! 彼女は対メタバースに特化してる。潜伏している間しばらく遊ぶように内容を学習すると、ワンダーランドを作るように世界を書き換える」
「そんなムチャクチャな!」
「嫌らしいことに全部変えずに断片的に、似て非なるものを作る! そこからCアリスを潜伏させた第三者が脅迫なりデータサルベージする! 子供のイタズラの後始末に追われてる間にだ!」
「それが俺たちが立ってる場所って事です?」
「その通り。君たちは今、彼女のワンダーランドの中にいる」
そう言われたすぐ後に、地鳴りがする。この第三階層は地下にある中世ヨーロッパの廃城のようなステージだ。ホールは大広間のようで、階段のすぐ先に城門があって、そこがセーフティエリアになっていた。
「師匠! お城が!」
「は、ハァ!?」
目の前には崩れた城があるはず、なのだが。みるみるうちに修復されていって、何でかファンシーな形になっていく。
空は青空から薄いピンク色に染まって、雲は真っ青になった。生えている草木も何故かチューリップになって、ニコニコ顔が浮かんでいる。
>なんじゃこりゃああ
>ネズミの国みたいになってんぞ
>これ、ハートの女王の城じゃねえか?
>なあ流石にイベントじゃねえのかコレ
>だったらメインプログラマが出張るわけねえだろ
>そもそも俺たち幽閉されてんだぞ
>すまん俺外から見てるから……
>配信は切らないあたりCアリスの性格なのかマジでイベントなのか判別がつかない
俺だって判別がつかないよ。こんな事態。どう考えてもイベントだもの、こんなの。
でも、ファンシーな見た目とは裏腹に俺たちが目の当たりにしているのはデスゲームみたいなものだ。
今、モンスターにやられたら意識が宙ぶらりんになる。
その時にログアウトしたら廃人になる。永遠に電子世界に迷い込むことになる。
やがてガシャンと背後の城門が閉められて、階段を登れなくなった。いよいよ退路が塞がれてしまっている。
どこからか声がする。
あの明るい声。
多分、Cアリスだ!
「うふふ。ウサギさんもう逃がさないよ。遊んでよ。はやく遊んで」
「あの世界では私はウサギを追いかけた。私は貴方に誘われた。楽しいわ。なんてワクワクするんでしょう」
「いらっしゃいなウサギさん。チェシャ猫連れてはやく遊んで――」
「はやく来てくれないと、
「な、何あれ。お城の正門から出てきた!」
「エネミー!? 『ベルセルク』……だよね? 何でチェーンソー持ってるの!?」
「
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―――――――――兎―――――――――
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