知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第06話 女社長は一緒にお腹を痛める人をお求めのようです
第06話 女社長は一緒にお腹を痛める人をお求めのようです
「ハルト君!」
「師匠!」
「どうせ学校でも陰キャで友達もいなかったですし。代わり映えのない日常よりこっちのほうが面白そうだし。ゲームが仕事になるなら得だし」
獅子崎マロンの横にいられるし!
とは言えないわな。本人の横じゃ。
「決まりね」
茜さんにうながされるまま契約書を読む。ぶっちゃけ半分くらいわからないけど、茜さんは丁寧に教えてくれた。
そして読み終わってから拇印を押す。なんだかとんでもない決断をしてしまったような気がするけど、もう仕方ないよね。
「っっしゃあああああああドル箱ゲットだぜええええええ!」
うわあ。
茜さんもう本性出してるじゃん。
「気にしないで師匠。社長はちょっとお金が好きなだけで基本的には優しいですから」
「だいぶお金が好きみたいだけど本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
「早速プロデュースさせてもらうわハルトきゅん!」
「きゅん!?」
「おおっとごめん私ってば少年好きだからさぁ」
「火の玉ストレートだこわい!」
「女所帯でほんっっっっとにも〜飢えてたのよね〜フヒィ少年だメカクレ少年だ!」
急に貞操の危機を感じたけど本当に大丈夫なのか?
「冗談はおいといて」
「冗談に聞こえなかったですけど!?」
「ハルトきゅん。これから配信スケジュールバンバン立てとくから! 君はまずは『インビシブルフロンティア』のイロハを勉強しておくこと!」
「え!?」
もう強いからいいんじゃないの?
そういいかけた俺の口を茜さんが指で塞いだ。
「君、強いは強いけど実際半分くらいはたまたまでしょう?」
「ぐっ」
「それに【ラビット】は連携が難しいから、マロンと一緒にやる時にそれだけの知識だとかなり苦労するはずよ」
「ううっ」
「さらに言えば。君、ノーマルすっ飛ばしてるから現環境がうんぬんとかも知らないはず。もう君は羨望の的なんだから、プレイヤーとして常識は全部知ってないと」
なんだこれ。ゲームが仕事になるってこういう事を言うのか。のんびり一人で黙々とやってクリアするというのが楽しみだったのに!
「大丈夫だよ師匠」
ソファーの横に座るシシマロ。なんか凄い近い。なんで?
「そこまで【ラビット】を極めてるなら大丈夫! すぐに覚えてさ、私と一緒にゲームクリアしよう!」
「う、うん。それはいいんだけど」
「?」
「いいの俺で? 一緒に攻略するなら、もっとイケメンいるじゃん」
「???」
「いやなんで首を傾げるの。それに一回しか会ってないのに師匠って」
「師匠は師匠だけど?」
オー。
なんということだろうか。会話が成立しないぞ。
今まで普通に会話してたのになんでここで宇宙人になるんだ?
いやま確かにメチャクチャ強いけどどこか抜けてるから守ってあげたい支えてあげたい、ってのが彼女の魅力でもあるんだけど。まさか天然?
頭に「?」を浮かべていると、スススと近づいてきたのは茜さんだった。
「わかったでしょ私が苦労するのが」
「……なんとなく」
「配信者ってね、リアクションとかゲームの腕前だとか、一方的なトークとか仲間内とかの会話の盛り上がりは必要だけど、
「それだけって。基本的なこう、なんていうか。常識とかいらないって事です?」
「自分の世界がちゃんとあって、それが集客できればいい。自然とそういう子が集まるし、だから面白い反面突拍子も無いことを言ったり起こしたりする。人気が出てテングになる子もね」
「何となく理解しました。ちなみに彼女は?」
「マロンの場合、普通に見えてめっちゃ独特の世界にいるのよね……」
それでもウケればいいと。多少なり人とズレてたり、常識の外側を歩いたりするけどそういう人が集まる業界だと。うわ、なんだろう。芸能界って感じがする。
茜さんがはぁ~、と大きなため息をした。もしかして彼女ものすごい苦労しているのだろうか。
そういえば聞いたことがある。配信者とかVTuberとかはとにかくマネージャーやプロデューサーが倒れるって。精神をすり減らすのだとか。
「君はそういう意味でも希少なの。売れるコンテンツを宿していながら、一歩引いた目線で物事を考えられる。唯一まともな一般人枠。そういうのはバズった後の行動ですぐわかる」
「褒められてるのかそうじゃないのか」
「だから本当にありがとう。君がどうしても欲しかった。マロンと同じ163センチとかもう個人的にドストライク」
茜さんが俺の手を取って目をうるませている。うおこの人もめっちゃ美人――
「だからハルトきゅん」
「は、はひっ!?」
「一緒に胃を痛めましょう」
「さてはお守りをさせるつもりだな!?」
最後の一言で台無しになった。
ニコォと微笑む茜さんの笑顔は、それはそれは汚い笑顔だった。ばっちい。大人汚い。
「お願いね。てか、助けて。わかるでしょ。この子もそうだけど、メンバー全員赤子より手がかかるの。いつ炎上するかと思うと胃が何個あっても足りないの!」
「ええ……」
「君はバズってもイキらず暴走もしない。調子に乗ることもしない。それはね、この世界でとっっても大切なことなの。本当に師匠みたいなメンタルなのよ。だから助けて何でもするからさァ!」
「シシマロと口癖が一緒!」
「師匠~早速潜りにいきましょうよ~!」
ねえねえとせがむシシマロ。今まで憧れの存在だったのに、なんだか一気に幻滅したような。そういうのを見せないようにスタッフが立ち回っているとしたならなるほど、これはお疲れ様だ。
「やめなさいマロン。今日はもうだめ」
「えー」
「ハルト君。今日はもう疲れたでしょう。部屋もしっかり用意してあるからね」
「お、お世話になります……」
「こちらこそ。ほらマロン。ハルト君を案内して。責任持ってね」
「師匠と一緒にダンジョン潜りたいんだけど」
「社長命令!」
「はーい」
「あとハルトきゅん襲ったらあんた殺すからね。みんなにもそう言っといて」
「パワハラだ!」
やかましい、とシシマロの頬をつねる茜さん。なんか姉妹のようでそこだけ見れば微笑ましいけど……
そのままシシマロに連れられて上の階に行く。まさか事務所の中からいけるとは思わなかった。何でもここは自社ビルで、この階層から上は全部ダンジョンフレンズのものらしい。
事務所の上がレッスンフロアと撮影フロアがあった。フルダイブ型の仮想空間ができる前は、まるで映画を撮影するような機器と機材があったらしいけれども、今はヘッドギアのさらに上位であるダイブポッドが並んでいる。
ダイブポッドというのはカプセル型のフルダイブギアで、いちいち頭にヘッドギアを被らなくてもここで寝れば仮想空間にダイブできる上に、ダイブした人間の心拍数とかを全部管理できる。とにかくスゲー装置だということだ。
3階に行くと生活フロアになっていた。ラウンジ型で、円形の広間はすんごい広い。奥には個室が並んでいるようだ。ちなみに俺は一番端っこの部屋を与えられた。
「俺の部屋の家具が全部ある……」
扉を開けて驚いた。どんだけ仕事が早いのだろうか。
「師匠。これからよろしくね」
いひひと微笑むシシマロ。その可愛さといったらもう。本当にここは現実なのかと疑いたくなるほど。でも頬をつねってもシステムウィンドウが表示されない。ちゃんと現実だ。
「んあー、誰か来たのカ?」
ガチャっと俺の部屋の隣のドアが開いた。中から出てきたのは褐色肌の美少女。金色の髪に青い目。なんかエキゾチック? といいえばいいのだろうか。そんな雰囲気だ。
「隈ちゃん! 見てみて! 師匠が来た!」
「んあー? え、マジで来たの黒うさパイセン?」
「隈ちゃんって……え、もしかして隈枝ミカン!!?!?」
「そだぞー」
うっす、と手を上げる小柄な少女。彼女もまたこの『ダンジョンフレンズ』の人気配信者の一人、隈枝ミカンだ。見た目通り脱力系配信者で、ダンジョンの中で平気で寝たりする。そのまま寝落ちた彼女をファンが救出しにいくなんていうイベントもできるほどだ。隈ミカ危機一髪ってタグが印象深い。
「ちょっとしつれい」
隈ミカがぽてぽてと近寄って、俺の前髪をファさっと上げる。すると彼女は「えひぃ」という鳴き声なのか歓喜の声なのかわからない声をあげた。
「メカクレ、いいな」
「でしょでしょ」
「パイセン〜こんどウチとコラボしような〜」
「隈ちゃんもう寝るの?」
「ウチは健全な時間しか活動できねーんだ」
ふああ、とあくびをして戻っていく隈ミカ。よれよれのTシャツに「寝る子は育つ」って書いてあるのが何とも彼女らしい。あれで
「こんな感じでみんないい人たちだから」
「あ、うん……うん?」
はて、と首を傾げる。シシマロも釣られてはて、と首を傾げるのが可愛い。
「ねえ、『ダンジョンフレンズ』ってみんな女の子メンバーだよね?」
「? そうだけど?」
「
―――――――――兎―――――――――
お読みいただきありがとうございます!
面白かったらコメントや♥
★★★やレビューにて応援して頂けると
今後の執筆の励みになります。
よろしくお願いします!
―――――――――兎―――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます