第07話 生足魅惑の黒ウサギ♂
「いいんじゃないかな。師匠はもうメンバーだし」
「いいんじゃないかなって」
「社長がいいって言ったらいいと思うよ」
ならいいか。
んなわけあるか!
こんな何人も美少女と共同生活で男が一人。
何も起こるはずがなく……
「黒うさパイセン、ヘタレっぽいから大丈夫でしょ」
振り向くと隈ミカが自室の扉からこちらをニヨニヨ見ていた。今にもざぁこざぁこって罵られそう。
でも実際ヘタレ。そこは認める。
ここでふと妹のナナの言っていたことを思い出した。
「いいかいお兄ちゃん、男の子が強がっても女の子にはお見通しだ」
……と。その上で
「お兄ちゃんは強がるギャップで好かれるタイプじゃないから正直なのがいいよ」
……と。そう言ってた。なら従うことにしよう。ありがとう妹。お兄ちゃんこのシチュエーション慣れてないから助かる。いや助けて。
「……ハイ、ヘタレデス」
「そこ正直なのはポイント高い。そもそもなんだけどさー。黒うさパイセンどっちかって言うと、自分の貞操の危機を感じた方がよかない?」
「え?」
「ほれ見てみ」
今更になってゾッとした。隈ミカが指さすその先、つまり個室の扉のスキマや、ラウンジのソファーの影からジッと見つめる目が複数。
みんな目を爛々と輝かせている。
え、何これ。
猛獣の檻の中に生肉ぶら下げて入ったような感じがするんだけど?
「みんな
「すいません今コラボじゃなくハニートラップって聞こえた気がするんですけど」
「エロ系もいるから襲われないように」
「あれ俺の指摘スルー?」
「鍵は絶対だからね。ウチもひん剥かれそうになった」
「待って。てか、それクビにならないんですか?」
「残念ながらそれをネタにトークされてうまーく数字を取るんだよね」
「いや隈ミカさん未成年――」
「ウチこれでも成人済みだよ。狙ってるヤツもな」
「嘘ぉ!?」
絶対年下だと思ってたのに。確かに言われてみればだらしなさが大人びているような?
「いいヤツなんだけどね。サメに気をつけなよー」
「もっかい聞きますけどクビにならないんです?」
「パパ活とかAVとかに出なけりゃセーフだし、動画サイトにBANされない程度に演出匂わせればギリOK」
「えぇ……」
「強いて言えば茜ちゃんの胃に穴が空く程度で済む」
「ひえー!」
「師匠が混乱した!」
「パイセン反応面白いね。こりゃウチも頑張らないとな」
再びおやすみーと言って扉を閉める。一緒にガチャガチャと他の扉も閉まる音がした。なんか怖い。
「師匠、鍵は気をつけてね。あとシャワールームも。一応男女で分かれてるけど隈ちゃんとかは関係なく使ったりするから……」
「こわい」
「だ、大丈夫! 合宿みたいなものだから!」
陰キャにはそれ自体がキッツイんだけどな。というか何だこのカオスな空間は。たかだか高校男子の俺に茜さんが泣きついて来たのも何だかわかる気がする。
「師匠」
「?」
「ホントにごめんなさい。私のせいでこんな事に」
「いいよ」
「ホントに?」
「ホントに。それにやるって決めたのは俺だし。脇が甘かったのは俺のせいだし」
個人情報を意識するというのは本当に大切だと身に沁みた。
あと、これは完全に茜さんの事言えないんだけど。
推しと一緒にいるのが何よりも嬉しい……。
「嬉しい、って言っちゃいけないんだけど」
「え?」
「一緒にヘルモードいける人いなかったから。師匠がいてくれるって思うと嬉しい」
はにかむシシマロを見て心臓が高鳴った。
やばい。なんか弾けそう。
その後は色々と設備やら何やら教えてもらったけどほとんど頭に入らなかった。そもそも女の子とこんなに長く話したことが無かったからだ。
その後は茜さんがお寿司を取ってくれて、シシマロと一緒に食べたような気がするけどもうそこから記憶があやふやだ。
気づいたら自室のベッドの中にいた。時間は深夜になっていた。
「あ、そうだ。鍵」
しっかり施錠して、今度こそ寝る。
夜中にガチャガチャとドアノブが鳴って、「チィ!」とドア越しに舌打ちが聞こえて来たような気がしたが、あれは夢だと思いたい。
§
朝起きると洗面台にいたのは獅子崎マロンと、あと二人の女の子たちだった。
シシマロは「おはよう師匠!」と元気に声をかけてきたけど、他の二人はものすごい顔だった。なんでこんな所に男がいるんだみたいな。
「……ああなるほど。君が黒ウサギか。昨日深夜まで潜ってたから気が付かなかった」
「んだな。てか、マジでメカクレだ」
一人はボーイッシュな健康女子と言えばいいか。黒髪で短髪。キリッとした目。上下芋ジャージの彼女は馬庭アケビ。もう一人のちんちくりんなゴスロリっぽいパジャマを着てるのがが陽蜂レモンだ。どっちもランカーの配信者。昨日調べた。
「君、学生だったんだな」
「マロンが師匠なんて言うからてっきり年上かと」
「二人もそうなんですね。これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、下からレモンが。顔を上げるとアケビがじーっと見つめている。
「な、何でしょう?」
「巻き込まれた割には順応してるな」
とアケビ。背が高くで見下ろされている。バレーでもやってるのだろうか。
「メンタルどうなってんのチミ。あんなバズりして。DMとか僻みとかいっぱい飛んでこなかった?」
と、レモン。何だか変人を見たとか、人外を見たとかそんな目で見上げてくる。
「来たと思いますけど見てないんで」
「なるほど。こりゃ優良株だな」
「メンタルつよつよはいい事だ」
そう言うと簡単に自己紹介されてまた驚いた。年上だと思っていたアケビは一つ下で、レモンの方が一年上だとは。もうわっかんねえなこれ。
学生組は俺たちだけで、あとはほぼ成人らしい。こんな朝早くは基本誰も起きてこないから、四人で朝食を取って学校に向かう。
学校へはハゲさんたち黒服が車で送ってくれる。まるでセレブかVIPの扱いだ。ただ黒塗りのベンツ一択なのがちょっとイヤだ。
そこからフツーに授業を受けて、帰りはまたベンツに乗って事務所兼撮影スタジオ兼寮に戻る。
こんな生活が一週間も続いたあたりで慣れ始めて、本格的にゲームの勉強もして、ボイトレまでさせられて――
「獅子崎マロンでっす! ここのところ雑談だけでごめんね! 今日からまたヘルモードやってくよ!」
ついにこの時が来てしまった。
今俺は『インビシブルフロンティア』の中にいる。まだダンジョンの前のロビーにいるが、ここはパーティ専用の場所で他の人は入れない。
シシマロは浮かんでいる球に向かって話しかけていた。これは撮影用のオプションで、このゲームをする人なら誰でも使うことができる。その横に表示したシシマロの配信動画にはコメントが滝のように流れていた。
「今日は重大発表があります」
[ハルト君。君は君らしくいてくれればいいから。会話は大抵はマロンが拾ってくれるから心配しないで]
目の下にカンペのようにして個人チャットが流れてくる。茜さんだ。こうして『ダンジョンフレンズ』は常に誰かがバックアップして配信しているらしい。
「みんな黒うさ師匠、覚えてるよね。私のお師匠様! その人がなんと! 『ダンジョンフレンズ』に所属する事になりました!」
再びコメントが滝のように流れた。ここで急に恥ずかしくなって、思わずログアウト画面を出してしまう。
「ほら師匠! こっち来て!」
「や、恥ずかしっ」
「恥ずかしくないから! ほら!」
配信画面にアワアワして入り込む俺が映った。
今見ても恥ずかしいロビー姿だ。前まで上下黒ジャージの初期装備だったのに、今は黒ベレー帽を浅く被って、イヤーロップ系の垂れたウサギ耳のアクセントが頭にくっついている。体はもこもこのファーがついた黒ジャケットを羽織って茜さんこだわりの短パン。生足がさらけ出された後に黒いミリタリーブーツだ。
このゲーム、顔はダメだけどロビー姿は金をかければ自作できるシステムだ。費用は相当らしいけど、茜さんが経費で払ってくれた。
どんなものが出てくるかと思ったらこんなクッソ恥ずかしい格好で泣きそう。直前で見せられた時には膝から崩れた。
ごめんナナ……お兄ちゃん、なんか汚れちゃった……。
【コメント欄】
>うおああああああ
>!??
>黒うさパイセンwww
>師匠うおああああ!!
>師匠!
>ジャージどうしたwwwww
>黒ウサギがめんこい姿にwww
>パイセンあざといwww
>師匠おいたわしや…w
>『ダンジョンフレンズ』に毒されたw
>てかスカウト早過ぎだろ有能
>仕込みにしたって仕事早過ぎ
>ぺろぺろしてえええ
>短パンが玄人のそれ
>わかってるヤツ
>師匠あああああ!
>早くチャンネル開設しろ
>同人誌描く(^q^)
>描け
>描けや
>男の子だよな?
>私はどちらでも一向に構わん
>ししょうwww
>師匠ぐぅ可愛い
>よく見るとかっこよくも見える
>メカクレえええええええ
>うおおおスパチャあああ!
思いの外、大好評でした。チクショウ!
―――――――――兎―――――――――
お読みいただきありがとうございます!
面白かったらコメントや♥
★★★やレビューにて応援して頂けると
今後の執筆の励みになります。
よろしくお願いします!
―――――――――兎―――――――――
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