知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第16話 VS.『ダンジョンフレンズ』所属 【人刺し蜂】 陽蜂レモン
第16話 VS.『ダンジョンフレンズ』所属 【人刺し蜂】 陽蜂レモン
「黒うさくぅぅん。あーそーぼぉぉぉ」
ズラァ、とレモンさんが抜いたのは細身の剣だった。多分いろんなゲームで出てくる刺突専用の剣、レイピアというものだ。めっさ禍々しいオーラを放ってる。
『本マッチはレベル差を埋める処置が施されています。システムの差は
つまりは平等にステータスも調整されてますよ〜という事か。まあ確かに、レベルだけで言うなら俺が一番高いわけだからそりゃ仕方ないんだけれども。
『尚、エンターテイメント性を重視して視界を遮るスキルは使用不能となります』
「え、待って待ってそれ俺がスモーク使えないってこと!?」
「いひひひひ。戦いはもう始まってンだよぉ」
え、俺より卑怯じゃないこのひと。てかなんか口調変わって……ひい! 目の色まで反転してる! 何そのスキン!? モンスターじゃん!
「安心しなよぉ。ワタシもスキル一個封じられるからさぁ」
「ぐぅぅ怖いぃぃぃ」
「あっはっはめんこい。でもさぁ、知ってるんだよぉ。その下にエグいの隠してんでしょお。お姉ちゃんに見せてよぉ。ケムに巻かないでさぁ」
こわい。マジで怖い。ホントに怖い。何そのASRMみたいな言い方。このままリアルでおしっこ漏らして環境異常のログアウトしてやろうか。いや狙ってやれるもんでもないけどさ!
『はたしてウサギは蜂を斬れるのか!? やはり蜂はウサギを刺してしまうのか!? 興味は尽きません! それでは
ドドン、と太鼓の音がこだました。
その瞬間俺は猛ダッシュ。
ほとんど緊急回避と言っていい。
そこら中に倒れている遺跡の影に隠れて様子を窺った。
「あらあら〜? 隠れちゃうのぉ? まあいいよ。そういうのが黒ウサくんのやり方だもんねえ」
クックと押し殺したような笑い方。獲物を追い詰める獣のそれだ。
「怖くないからぁ。早く出てきなよぉ。ここかな? ここかなぁ?」
かくれんぼの鬼と言わんばかりに遺跡の残骸の裏を確認していくレモンさん。テキトーなのかしらみつぶしなのか。ただ、ジワジワとこちらに近づいている。
「う、動かなきゃ。何とかしないと。【チェスト】で背中から斬りかかるか?」
遺跡跡から顔を覗かせる。
心臓が飛び出るかと思った。
何故かレモンさんがこちらを見ていたからだ。
「いたぁ!」
「ひぃ!」
「【ビーダッシュ】!」
なんか赤い帽子のヒゲが「イヤッフゥー!」とか言って走ってきそうですね。
と、脳内で冗談を言った時にはもうレモンさんが接近していた。二十メートル以上あった間合いを一気に潰してきたのだ。
というか、ダッシュというよりも
「は、速ッ!」
「ひきぃ!」
歓喜なのか殺気なのか。とにかく聴くに堪えない恐ろしい声をあげて、レモンさんがレイピアを突き出してくる。
身をよじって何とかかわす。そして反射的にスモークを使おうとして、手が弾かれた。
「ぎゃあ! 癖で! てかホントに禁止されてる!」
「ホラホラホラホラホラァ!!」
ズバババババ! と繰り出される連続攻撃。
思わず愛剣を抜いて防御するけど反撃する暇がない。守るだけで精一杯だ。ヘルモード地下2階で出てくるカマキリ型モンスター、マーダーマンティスよりも手数が多い。なんだこの人!?
「あっはっはっはっは! いいよぉ黒ウサくぅん! こんなにもった人は久しぶりぃ!」
「ぐ、この!」
ダメだ。正面から勝てない。
わかった。
この人は何か武道をやってる人だ。
それが証拠に掠っているにもかかわらずリアルトレースボーナスが反応して、俺の体力ゲージが徐々にだけど削れている。
しかもただ連続技って感じじゃない。
シシマロは全部一撃必倒って感じだった。力をぶつけてる感じ。
この人は少しずつ少しずつ防御を解いてって崩して、最後に刺す感じ。攻撃も体を誘導させるようなものばかり。
防いでいるのに、どんどん防御が開いていく。相手に操られている!
「だぁんだん防御が開いてきたねえ。くぱぁってしてきたねえ。いいこだねぇ」
「くそう! 全然隙が――あ」
カン、と。
愛剣カルンウェナンが弾かれた。右手が大きく弾かれて胴がガラ空き――
「おっ広げたぁ! 【ピッチフォーク】!!」
レモンさんが腕を引いて大技を繰り出そうとしている。
攻撃スキルだ。
バオ、とレイピアを握る腕に紫色のオーラが集まる。
――
ジャブめいた突きは防ぐので精一杯だけど、それ以外ならまだなんとかなる。
俺は大きく後ろに飛んで間合いを開けた。付き合ってられるかこんなの。
飛んだ瞬間、俺の腹の辺りに何故か二本の剣が伸び上がってきた。まるで本物の
多分一本が剣自身の物理ダメージ。もう一本がオーラが模った属性ダメージ。喰らったら多分、クリティカルダメージが確実に二倍になる、そんな感じの攻撃スキルなのだろう。隙を生じさせぬ二段構えってか。
すぐに横に走って遺跡に隠れた。これもまた緊急避難。
「ありゃ。焦りすぎたか。やるねえ。一瞬の隙を見て逃げるだなんて」
カラカラと笑うレモンさんは本当に楽しそうだ。こっちはガクガクと震えが止まらないのに!
「ワタシもさぁ、マロンと同じで退屈してたんだよぉ黒ウサくぅん」
サクリ、サクリと砂を踏み締める音がこだましてくる。
「君を配信で見た時からぁ、絶対刺すってきめてたんだよぉ。ねえ、ヘルモードってワタシより怖い? ねえねえ」
いえ、レモンさんの方がむったくそ怖いです。
そう言いたいけれども声を出したらすぐに飛んできそう。
「そうそう言い忘れてた。ワタシの
そう言われて気づいた時にはもう遅かった。
見ると体力ゲージが半分になって、ほんの少しずつだが減り続けている。ステータスも「毒」の表示がついていた。
「は、蜂の毒か!」
「いひっ。そうだよぉ。攻撃に毒が付与されること。んでね、キラービーってのはもともとミツバチの一種だからさあ」
げ、と顔を上げると、そこにはもうレモンさんがいた。
遺跡の残骸から覗き込むように、ニィィィとねっとりした笑顔。
怖い!
「――鼻がめっちゃ利くんだ。ミツバチは遠くのミツを求めるからねえ!」
「ひええええ!」
「もらったぁ!」
「す、【捨てがまり兎】!」
腰にぶら下げていた兎型のキーホルダーをブチンと引きちぎって放る。
するとドロンと小さな煙をあげて出てきたのは囮用のウサギのぬいぐるみ……
「!? なんじゃこりゃ。ウサちゃん?」
レモンさんの顔が一瞬驚きで固まった。
俺も固まった。なんかいつもと違う。
「あれ? なんか、精悍な顔つきだな?」
いつもなら大きめのウサギが囮になったり壁になったりする。前の【ラビット】では【ラビットデコイ】と言って、発動するとモンスターが必ずこれに釣られていた。
レモンさんの一瞬の隙をつけばいいと思っていたのだけれども、出てきたのは思っていたものとは少し様子が違った。
「キィィ!」
「ギギギ!」
「ギピィ!」
なんか、頭に三角の鉄傘をつけている兎が多数出現。
みんな逃げない。
動くこともしない。
いや散れよ!
しかし彼らはどっしりと座って、手に何かを持っていた。
「は? なんで兎が
「「「ギュー!!」」」」
レモンさんが油断したその隙に脱兎の如く逃げる。
そして振り向きながらその様を見た。
ズドドドド!
なんということだろうか。
兎たちがレモンさんに向かって一斉射撃を始めた。
「! このぉぉぉおお!」
レモンさんはレイピアを巧みに操って、近距離で発射されたそれらを落としていく。なんだこの人。タツジンかよ。
けれどもタツジンといえど多勢に無勢だ。それはフルダイブ型ゲームでも変わらない戦いの真理。
「あぐ! このやろー!」
左肩に被弾していた。レモンさんは怒りの形相で囮の兎たちを攻撃、蒸発させていた。
流石にもともと囮だからか耐久力はない。
ないが、攻撃手段も持ち合わせているのは地味に強い。
「はぁ、はぁ……こんな隠し球持ってたなんてね! 飛び道具は卑怯だぞ!」
「銃はない設定ですけど! ボウガンとか弓はアリだから問題ないです!」
逃げながら二匹、三匹と展開して再び物陰に隠れる。見つかるかなと思いきや、レモンさんは困惑していた。
「くっそ。匂いまで一緒なのか。やるなぁ黒ウサくん。刺し甲斐があるよぉ」
ヒィィ怖い!
多分これ画面越しだと伝わってない。ビリビリするんだ。殺気みたいなのが。あの可愛いフリフリから瘴気が出てるようなといえば分かるのだろうか。
もう終わらせたい。
終わらせないとチビって強制ログアウトしそう。
――
終わらせるには一撃を見舞わせるしかない。
それには【チェスト】しかないけど……ぎゃああスキルエネルギーが足りない!?
回復……げえ!
アイテム使えないのか!
そりゃそうか決闘だもんね!
なんでこんなにスキルエネルギーが足りないのかわからなかったけれど、多分【捨てがまり兎】結構消費が激しかったんだ。よく見ると前の【ラビットデコイ】の二倍じゃん!
「黒ウサくぅぅん? ここかぁ!?」
ザシュ、と突かれて消えるのは【捨てがまり兎】の一体。あともう僅かだ。
「や、やる。やってやる。怖い。畜生!」
―――――――――兎―――――――――
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―――――――――兎―――――――――
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