知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第19話 美少女のサンドイッチはお好きですか?
第19話 美少女のサンドイッチはお好きですか?
「ねーねー黒うさくーん悪かったってばぁ〜機嫌直してよぉ〜」
「別に怒ってないです」
「ブンむくれてるじゃーん」
尻を掴まれてユッサユッサと揺さぶられた。
おいセクハラだぞ、という気も失せている。
実際疲れている。身も、そして心もだ。
俺はあの後、バトルコロシアムの控室ロビーでイカついお兄さん達に囲まれながらエンディングトークで配信を終えた。
今考えると酷い絵だったと思う。どいつもこいつも筋肉ムッキムキで「今ちょっと散歩で殺ってきた」みたいな面構え。配信のコメントも「地獄絵図」だの「マフィアの宴会」だの「ディス イズ スパルタ」だの言いたい放題だった。
みんな優しくしてくれたり、目の前でチャンネル登録してくれて嬉しかったは嬉しかったけど……特にあのジェイソンマスクの人。クソ怖かった。フーッフーッってマスク越しから息が荒かった上に目がビッカァって光ってた。アレ多分本物だ。こええ。怪異もゲームする時代かよ。こわい。
んで、笑顔を振り撒きながらログアウトして、ダイブポットから跳ね起きて、一目散にラウンジに来た。
ラウンジにはコの字の大きなソファーがいくつもある。その中の一つにダイブして、うつ伏せのままその辺にあるクッションをつかみ、顔を覆った。
さっきの配信のあまりの恥ずかしさと、レモンさんの怖さに感情がグッチャグッチャになった。
足をバタバタさせて
「ン゛〜〜〜〜〜〜〜!!」
と唸っていたら、後から来たアケビさんとレモンさんに触れられている、という状況だ。
「ハルト健闘したじゃないか。凄かったぞ」
わざわざ被ってるクッションの隙間から、細長い手が入ってきてワシワシと撫でられた。
おいやめろ頭ナデナデすんな。それ以上は有料だぞ!
「ほっといてください! あううああああ投げキッスまでしてしまった。もうダメだおしまいだ妹に合わせる顔がない」
「大丈夫だ。配信的には成功している」
「嘘だぁ!」
「本当だ。同接数もすごいことになってたし、ハルトのチャンネル登録者数もかなり増えている」
そう言われてのっそり起き上がり、ソファーに座ってスマホを確認。もうこれ職業病だなと思う。
「……ホントだ。10万人も増えてる」
「ちなみにワタシらも増えた。いやー流石は黒ウサ様、神様福の神だ!」
「そりゃあ良かったですね! ぬ」
ぬ、とまた変な声が出た。アケビさんとレモンさんが俺の両隣に座り、挟んできた。
ギューっと、みっちりだ。
……え、何この状況?
「悪かったハルト。別に後輩いびりしようってわけじゃなかったんだが。その、あまりにもな」
「あまりにも何ですか」
ふぁさ、と前髪を上げられた。アケビさんが俺の顔を覗き込んでいる。綺麗なストレートショートで目がキリッとした王子様系。黙っていればモテまくりそうな顔だ。
今はハァハァと涎を垂らして、目の奥に怪しい光がギラギラ光ってる。挙げ句の果てにはしばらく俺を見つめたあとにいきなりのけぞって痙攣してる。これは酷い。
「ふ、ぐぅ。よく見たらリアルでもイケる」
「イケるってなんだイケるって」
「なあハルト。金は払うから耳元でアケビって名前呼んでくれないか」
「なんだ急に! 断る! てか! 鼻血! 鼻血出てる!」
「気にするな」
「気にするわ!」
「おうおうまにわん、こっちにも黒うさよこせ」
グイーッと顎を掴まれて、向いた先は反対のレモンさんの方。
反射的に恐怖を感じるが、今はちゃんとしたロリィタ美少女が目の前にいる。黒髪で前髪パッツン、巻毛のツインテールとリアルでも気合の入った髪型。そのまま静かにしていれば人形のようなのにバトルフリークスってどういうこと。
「くっそー。こんなツラしてエゲツないことやってくれたなぁ」
「そのセリフそっくりそのままお返しします」
「悪いって言ってるじゃーん。それに配信盛り上がったからいいだろう?」
「そりゃそうですけど」
「……あのさ」
「?」
「つきあってくれてありがとね。すごい楽しかった」
うわ、この人ズルい。ここで笑うんだ。天然でやってるなら罪深いし、計算でやってるなら俺なんか比べものにならないくらい狡猾だ。
わかってるのに俺の怒りも不安も霧散していくのがわかる。くそ、こういうテクニックもあるのか……
って、何参考にしようとしているんだ俺は!
「やーほら、ワタシってばスタジアムで怖がられてるから。挑戦者もいなくって退屈してたんだよね」
「あんな殺人蜂相手にしようと思う人いませんよ」
「殺人蜂言うな! ……でも遊んでくれたじゃん」
「知りませんでしたし」
「知っててもやってくれたんじゃない?」
「そりゃ動画的に面白いだろうから……ぬ」
ぬ。
また変な声が出た。
レモンさんが腕を掴んでくっついてきたから。
「いい後輩だな黒うさくん」
「はぁ」
「おっなんだシシマロじゃなきゃ嬉しくないってか」
「そういうわけでは」
「じゃあ自分も」
「ぬ゛」
今度はアケビさんまで腕を掴んでしなだれてきた。
「じゃあってなんだじゃあって」
「いい後輩だなハルトは」
「どさくさに紛れて頭撫でんな! 金とるぞ!」
「金なら出す。いくらだ」
「ウソだよいらないよ真に受けないで! ……はぁ」
「黒ウサくんさー、もうちょっと喜んでもよくない? 女の子二人にこうだよ??」
「片方は鼻にティッシュ詰めてて、片方はさっき殺されかけてたんですけどね」
「この。そういうところは可愛くねえな。襲うぞコラ」
「ひえー!」
「はいそこまで」
「あがっ」
「あぎっ」
ミシミシミシ、という音と共に二人が離れていく。
見上げてみるとニコニコ顔の茜さんがアケビさんとレモンさんの頭をガッシリ掴んで引き離していた。
「二人がかりで乳繰り合うなんざ百年早いわよ二人とも」
「まだ何もしてないモン!」
「何かするつもりだったんでしょ……レモン、あなた高校生組で年長者だけど未成年でしょ? 自重しなさい。アケビもこの子に毒されすぎよ」
「いだだだだ! 社長誤解だ!」
「こんなに鼻血出して何が誤解なのかしらねえこのムッツリ馬」
「いでででで! な、なんで茜ちゃんがいるんだよ!」
「そりゃ貴方たちの社長ですし? ハルトきゅんみたいな青少年をアンタらみたいな野獣から守るためよ」
「野獣って茜ちゃんもどっこいウギギギギ嘘ですすいません調子こきました!」
あらやだ茜さんたくましい。ダブルアイアンクローがガッチリ決まってる。
「ごめんなさいねハルトくん。大丈夫? ちんちんムキムキされてない?」
「サラッとセクハラしてくるんですね茜さん」
「なんの事かしらね〜」
「……あの、シシマロの方のバックアップしてるんじゃないです? そろそろ配信ですよね彼女」
「その事なんだけどね」
パッと手を離す茜さん。アケビさんとレモンさんが「ぬおおお」とか女の子があげちゃいけない声を出してる。そして錬金術でも使うんですかってくらいの勢いでバチーンと手を合わせて、ググーっと頭を下げてきた。お願いにしては勢がありすぎだっての。
「ハルトくん疲れてるところごめん! もう一回ログインしてくれるかしら。シシマロのいるヘルモード地下1階に行って!」
「? シシマロが何か苦戦してるんですか?」
「違う違う。ストライキよストライキ」
「はい?」
よくあるやつ、みたいに言うけどそれ職務放棄みたいなもんだよね?
てか何があったんだろうか。あんなにゲーム攻略に全力なシシマロがストライキなんて。
「どうやらハルトくんの配信見ながら待機してたらしくって。アケビとレモンに思いっきり嫉妬してむくれちゃってね。今ゲームの中で駄々こねてるわ」
何かと思って身構えてたらとんでもなくしょーもない理由だった。子供か。いやま彼女は子供なのか大人びているのかわからないところはあるけれどね。
「配信的には面白いんだけど……あんまり長くムクれてると放送事故になっちゃう」
「そりゃそうですね……ってまさか」
「そ。コラボして機嫌取ってきて♡」
§
一応、難色は示したのだが「特上寿司取るからそこを何とか」と言われて釣られる自分が情けない。
アケビさんとレモンさんは「がんばれ〜」と手を振ってニコニコするだけ。あの二人……いい性格してんなホント……。
ぶっちゃけメッチャクチャ疲れてるし、もうすぐにでもベッドに入って寝たい。けど、推しが放送事故を起こして評価を下げるのは嫌だ。
ということですぐにダイブポットに入り込み、ゲームにログイン。プライベートルームに入ると装備を整えて、早速ヘルモードに入る。
地下第一階層に入ったら、すぐに腕時計型デバイスの【ビーストアイズ】に触れる。ここからウェブブラウザを起動してシシマロのチャンネルにアクセスすると……?
【コメント欄】
>もうかれこれ30分くらい不貞寝してるぞシシマロw
>恒例のストライキ
>二ヶ月前にもあったなレイドで目標ダメージ行かなかったとかで
>これやらせかと思ったらマジらしいな
>何で?
>モンスター見てみ
>攻撃してこないな
>なんかめっちゃ困惑してる
>ナニコレ知らん
>初見勢結構いるんだな
>フルダイブ型ゲームはホラーゲームでない限り、トラウマを植え付けないようにメンタルが極端に低下したら攻撃を中止するんだよ
>単に怖いとかじゃなくてガチで精神病んでる時にこうなるんだよな
>ヘラってる奴とパーティー組むと時々ある
>はえー初めて知った
>確かに怯えてるところにタコ殴りにされたらトラウマだもんな
>え、マジで凹んでるのシシマロなんで?
「師匠の初めてを取られた。もうやだ」
何言ってんだこの推し。
―――――――――兎―――――――――
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よろしくお願いします!
―――――――――兎―――――――――
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