第24話 肝練りルーレット、当たるのが正解か外れるのが正解か

 緊急メンテナンスは四日目でようやく終わった。


 この間、俺たち配信者は雑談するくらいしかやることがなかった。幸いゲームのアバターはそのまま他のメタバース環境にダウンロードできるのがこの『インビシブルフロンティア』の強みだ。


 いろんなものに対応しまくっているからこそ、このゲームは覇権を取っていると言っていい。ヘルモードの存在がさらにゲームを盛り上げているようで、登録者数もプレイヤー数もどんどん増えているのだとか。市場は拡大するばかりだ。


 もう学校なんてやめてゲーム一本で行けばいいのではと思っていた今日この頃だけど、この雑談配信が続いて思いとどまった。



 人生経験が少ないから、ぜんっぜん話すことが無い。



 これは焦った。マジで焦った。辛うじて学生組の登録者はゲームガチ勢のファンが多くて、ゲームの内容を欲しがるからゲームの内容だけを話していればいい。


 リアクションも大きければ大きいほどいいし、コラボをやってお茶を濁しても何とかなる。


 が、限界がある。


 そこへ来てさすがだなと思ったのはアダルト組だ。社会人生活をしたことがあるからだろうか、そりゃもうポンポン話が出てくる。加えて芸もある。


 ミルクさんは悩み相談がヤバい。懺悔室みたいになってる。鮫渕さんはトークがギリギリ下ネタをカスってアウトローな感じが出つつ、歌の枠では即席ライブみたいになってる。


 そして隈ミカさんだ。この人が一番トークが上手い。ラジオパーソナリティかってくらい話を広げていく。聞いたら本当にそういう仕事をしていたとか。この人なんなの一体。吸血鬼じゃないの?


 アダルト組はまだ他にもいるけど、それぞれが一芸を持っててゲームが無くても配信を繋げている。


 これがプロっていうものなのか……。



「師匠真面目だね。私そんな事考えたことなかったよ」

「ほんと? 君レベルの配信者はちゃんと考えてると思ってたけど」

「うぐっ……ほ、ほんとだって!」



 誤魔化してるのか本当なのかよくわからないが、フリフリと手を振るシシマロは可愛い。推せる。それでいい。それで世界が平和だ。


 メンテが明けた四日目の今日は、二人で配信なしでヘルモードに挑んでいた。仕事前の柔軟体操みたいなものだ。


 あのアリスみたいな少女は何だったのかと思ったけど、公式からのコメントは意訳すると「すまんすまん調整ミス。てへぺろ。忘れて」くらいしかなくて、その他の一切の説明がなかった。


 いろんな憶測が飛び交っていたけれども、大抵の人は「公式が言う通り、またミスってイベントをポロリしちゃったんだろ」ということで落ち着いていた。俺もそうだと思う。それを直すために時間をかけたというのならまぁ妥当っちゃ妥当だ。


 因みに突然のシャットダウンのお詫びにと、経験値やら武器防具のカスタムパーツのうち一つ選んでいいよと来たので文句を言うプレイヤーはほとんどいなかった。


「君は正直、計算高いのかと思ってた。ゲームだって最初はセンスだと思ってたけど。キャラ付け流石だなーって」

「ひぐっ……ば、バレ……」


 今バレたって言った?


 え、計算とかしてちゃんと演じてるんじゃなくて?


 そう言うところはアーカイブ動画を見て最近わかってきて、ちゃんとメモとってたんだけどな。


 ……なんか怪しいな。

 

 ジィーっと見つめると、あはあはと再び誤魔化すように笑うシシマロ。うん可愛い。別にいいかもう。

 

「いっ、言われたこと必死にやったらこうなっただけ。たまたまたゲームが向いてたからだし」

「それでトッププレイヤーってことは、並々ならぬ努力をしてたってことだね。俺も頑張らないとなぁ」

「……師匠は偉いね。それ、現状に甘んじてないってことだよね」

「そう、なのかな」

「そーだよ」

「だってさ、焦るじゃん。俺、確かにこの格好はウケてるかもだけどさ。飽きられたらとか考えたらちょっと怖くて」

「あーわかる! 私も師匠に全部登録者取られたらどうしようって思ったことある!」

「……ごめんよ」

「でもならなかったよ」


 と、シシマロ。さっきまで半人半龍のナーガをうなぎの蒲焼みたいに切り裂いてたから頬に返り血がついている。怖い。


「それに芸を持ってたって飽きられる時はあるし。今考えても仕方ないとおもうよ」

「そういうものかぁ」

「そういうもの。なら今を楽しんで目標に一直線ってのがいいと思うな」

「目標ねえ」


 目標か。シシマロの横にいるって、それだけなんだけれど。もう達成していると言えば達成しているのだけれども。


「シシマロの目標は?」

「ん? このゲームを一番にクリアすること!」

「ブレないね。何か深い理由でもあるの?」


 と聞くと、シシマロは微笑むだけ。


 あ、これは聞くなって事ね。了解。親しき仲にも礼儀ありってね。引き下がろっと。


「ただ、ここまで大きいサービスになっちゃったからね『インビシブルフロンティア』って。公式も簡単にはクリアさせないだろうってのはわかってるよ」

「それなー」

「でも、一番最前線にいたいかな。それには目の前のことどんどんやりたい。師匠も手伝ってくれるからもっともっと頑張りたいかな」


 彼女の言うことはもっともだ。何だか考えるだけ無駄なような気もしてきた。


 今やることに注力すればいい、か。


 うん。


 そうしよ。


「それよりも師匠〜! 全然ドロップしないんだけど〜?」


 と、ムクれるシシマロ。てしてしと叩いているのはモンスターの死骸。軽トラくらいあるオオカミのフェンリルだった。


 俺たちが今いるのは地下二階。地下一階とはガラッと変わって、オーソドックスな洞窟。鍾乳石が天井から吊り下がり、時々巨大な水晶だらけの部屋がある、ザ・ダンジョンといった雰囲気だ。


 地下一階に比べてこちらは人型よりも獣型や飛行タイプのモンスターが出始める。このヘルモードだと半人半龍のラミア族最高位のナーガがウロチョロしていたり、今倒したフェンリルがいたりする。


「もうちょっと潜ってみるか。でもそろそろ地下二階終盤になってくるしな」

「? 終盤に行くと何かあるの?」

M.O.E.マップオンエネミーがいる」

「嘘ぉ!? 普通20階からじゃないの!?」


 このゲームは通常に湧いて出てくるモンスターの他に、中ボス的な強さの人型モンスター『ベルセルク』がウロウロしている。


 これはマップオンエネミー、通称M.O.E.と言ってマップ上に存在が最初から確認できる。シシマロの言うとおりノーマルだと地下20階から現れる難敵だ。


 ちなみに地下20階の最初の『ベルセルク』は獣人系の鹿角マッチョ。せ○と君だと油断してるとワンパンで殺されてしまうトラウマ製造機だった。


 やろうと思えば戦闘を回避できるからこそ強い。よりにもよって、ここに出て来る『ベルセルク』はサムライ系。表示されている名前は『コジロー』だった。


 多分だけど宮本武蔵と戦った佐々木小次郎が元ネタ。そして元ネタの通り野太刀みたいな長〜い刀をぶん回してくる強敵だ。コイツはノーマルの80階あたりでボスとして登場、飛び道具やステータス異常などの搦手を使わない代わりに即死攻撃を乱発してくる。シシマロも「コイツやだー!」って切り刻んでた動画を配信していた。


「うぇぇ、あいつともう戦いたく無いよう。気を抜くとすぐ死んじゃうし……てか、私前よく当たらなかったなぁ。そーゆー運だけはいいんだよね」

「でもこの辺りのフェンリルはあらかた倒しちゃったし。あとは奴がウロウロしてるあたりにいると思う」

「うー。でもドロップするかどうかわからないしなぁ」

「なら運上げてみる?」

「へ? 師匠そんな事できるの!?」

「前の【ラビット】の時に、運を上げてクリティカル率を上げるかヘイトを上げるかっていう【ラビットルーレット】ってスキルがあったんだ。それを使えばドロップ率も上がるかも」


 大抵のゲームで運というステータスはクリティカル発生率と共にドロップ率の向上に繋がる事が多い。そしてシシマロのようないわゆるアタッカー的な才能タレントは運は低く、俺みたいなトリックスター的な才能タレントは運が妙に高かったり、運を左右させるスキルをもつ。他のゲームでもあるあるだ。

 

「この【サツマラビット】にもその系統のスキルがあるんだけど……」

「あるんだけど?」

「なんか名前が怖い。【肝練りルーレット】だって」

「きもねり?」

「きもねり」


 腕輪型デバイスの【ビーストアイズ】を起動させて、スキル選択画面を選ぶ。このゲームは基本的にダンジョン内でスキルを四つ装備できるが、それ以上のスキルを会得することは可能だ。


 普段は【チェスト】【捨てがまり兎】【地雷火】【煙幕玉】をスロットに装備しているけど、まだスキルはいっぱいある。その中でも一際異彩を放っているのがこの【肝練りルーレット】だった。


「説明はなんて書いてあるの?」

「残念なことに【サツマラビット】の未使用スキルは【説明は女々しか】としか書いてない。使わないと説明文が解除されない仕組みになってるんだよね」

「なんで!?」

「コッチが聞きたいよ……なーんか罰ゲームが待ってる臭いんだよなぁ」

「ルーレットに当たったら死んじゃうとか!」

「何それ怖い」


 でもありえる。この才能タレントはピーキーだし。罰ゲームがあるとしたら、即死か大ダメージが順当か。


「ねえ師匠。これさ、コイツで試してみない?」


 イヒヒ、と笑ってシシマロが【ビーストアイズ】を展開。マップを表示させて指をさしたその先ーー。


「えー! 『コジロー』でやるのお!?」



―――――――――兎―――――――――

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