知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第38話 薩摩ウサギは黄金の獅子の夢を見るか?(シーズン1最終話)
第38話 薩摩ウサギは黄金の獅子の夢を見るか?(シーズン1最終話)
史上最大最悪のAIクラック事件。
そう銘打たれた今回の事件は、当然ネットを超えて社会現象にまでなってしまった。
脱獄したAIの大暴走。
アメリカの電子監獄の脆さと、AI創造主の倫理観の欠如。
そしてフルダイブ型メタバース世界の盲点が全て突かれてしまった前代未聞の事件としていろんな方面に取り上げられることになる。
ただ、アフターケアが万全だったからだろうか、そこまで『インビジブルフロンティア』には批判が来なかったそうだ。
幽閉もあの後にすぐ解除されて、フリーズしていた人たちも難なくログアウトできたらしい。
ついでに詫び石とばかりにボーナスアイテムを配ったらゲーム内で文句を言う人は少なくなった。そう言うとこズルいな。もっとやれ。
フリーズ被害者達曰く、フリーズしたら人形みたいなアバターを与えられて避難所ロビーにみんな転送されていたとのこと。そしてどう言うわけか俺たちの配信を見ていたらしい。
会見で出てきた谷崎さんは「一度幽閉騒ぎを起こしているから、
ちなみに俺たちの配信はフルダイブ型ゲームとしては最大規模の配信として、最終的に同接500万人を突破していた。
そして世界を救ったとしてシシマロと俺がネットニュースやテレビで放送されるとそりゃまーすごい事になった。
前回のバズりと同じか、それ以上。
学校なんて報道陣が待機する始末。しばらくシシマロと一緒にオンライン授業を強いられてしまった。
と言うことで。『インビシブルフロンティア』を救ったはずなのに、半ば軟禁生活を強いられる事になった俺たちは――
「あー、しんど」
「師匠も?」
「外出れないんだもん」
「だよね」
事件から二週間。
オンライン授業に飽きに飽きた俺たちは、寮のラウンジのソファーでぐったりしていた。
正確に言うとソファーに足だけ乗っけて、ふかふかもこもこ絨毯のところに寝そべっている。行儀が悪いけどいいだろもう。俺とシシマロくらいしかいないし。昼間はアダルト組がガッツリ寝てるから、多少騒いだところで誰も出てこない。多分。
「あの事件なんだったんだろマジで」
「師匠がヘルモードにいたのもアイツのせいなんでしょ?」
「みたいだね」
「その頃から色々といじれる状態だったのかな」
「谷崎さんが言うには俺にストーキングしてたらしいよ」
「え、ストーカー怖い。師匠可愛いから気をつけて」
「もしかして俺、黒羽ハルトになる前からそういう系だったのか?」
「そうだけど?」
「そうなんだぁ」
ちょっとショックだった。あの時黒ジャージで自分の顔そのままで言ったのは、アケビさんみたいに「無駄な課金はしてない俺カッコイイ」くらいだったのに。
「妹さんいるんだよね」
「そうだけど」
「仲良くなかった?」
「仲良かった」
「やっぱり」
「?」
「年頃の女の子が一緒にいてもいいって清潔感と顔の可愛さがあったからでしょ」
「そうなの?」
「うん。ゴリゴリの兄貴とか、あんまりそう言うのに気を使ってない兄貴とか。汗ギトギト兄貴とか、それこそ引きこもりで色々気を使わない人だったら仲良いどころか近づきたくないし」
「なんかとても具体的だけど、お兄さんいるの?」
「いる。ちょっと苦手」
「そっかー」
最初から才能があったってことにしておこう。そうじゃないと泣く。
そろそろ夕方になる。ご飯はまた茜さんが豪華な夕飯を注文するとか言ってた。最近俺とシシマロだけじゃなく、他のメンバー達のご飯もなんかものすごい豪華になっているのは、今回の騒ぎでめっちゃ儲かったからとのこと。商魂逞しいなホント。
「今日ご飯なんだろ」
「そろそろローテション的にお寿司かもしれない」
「ラーメンが食べたい」
「それ
「サメさん最近作曲しまくってるけど大丈夫かな」
「なんか大口の仕事が入ったとか言ってたけど大丈夫。毎日夜這いに来るくらいは元気」
「こわ。毎日来るの?」
「毎日来る」
「師匠」
「?」
「もしかして……ヤっちゃった?」
シシマロが配信では絶対やっちゃいけないようなジェスチャーをしてる。やめなさい。左手の人差し指と親指で輪っこ作って右手で指を出し入れするのは。
「んなわけないだろ。そのジェスチャーはやめなさい」
「だって。毎日来てるんだから、その、一日くらいはとか」
「エロ本読みすぎでは?」
「読んでないもん! アケビちゃんじゃないし!」
「あのウマ娘いっぱい読んでるんだな」
「本当にしてない?」
「してないしてない。というかセキュリティは万全だよ。ドアノブと鍵のところ紐で結んでるから。タコさんに教わった」
「万全じゃん」
「万全だよ」
「私がいけないじゃん!」
「何言ってんのこの子は」
「……本気だって言ったらどうする?」
その手には乗らんぞと顔を向けるが、ウッと言葉が詰まった。
シシマロはこっちをじっと見ていた。表情が消えているというか、素の顔と言えばいいのか。大きな瞳には俺の顔が映っている。
「ねえ師匠」
「な、何」
「そろそろ、さ。マロンって呼んでくれない?」
「なんで今更」
「本名だから」
「シシマロだって本名みたいなものでしょ」
「私もハルトくんって呼ぶ」
「なんか恥ずかしい」
「私だって恥ずかしい」
「だったら何で」
「……だって」
「だって?」
「向こう側の世界みたいだから」
「?」
「師匠ってのは推しを呼ぶ名前だから」
推しを呼ぶ名前。
つまり、シシマロにとって俺は推し、だったのか。
そういやそんな事言ってたような。
え、俺が?
彼女の推しなの?
ずーっと追いかけていたのは俺だったはずなのに。
「ダメ?」
「ダメじゃないけど」
「ハルトくん」
「えひぃ体がむず痒い!」
「私も痒い!」
「マロン」
「えひぃ!」
二人で起き上がって、鳥肌が立った腕をかく。小っ恥ずかしい。名前を呼び合っているだけなのに。
「……」
「……」
シーンと。ラウンジが静まる。
シシマロ、いや、マロンがもじもじしている。
俺も多分もじもじしてる。
いつも隣で取り留めもない話題でテキトーに盛り上がっている仲だったはずなのに。
雑談配信で話題が尽きることもなかったのに。
何で、こんな風になっちゃったんだろうか。
何で、か。
いやまあ。
そりゃさ。
なんかいい雰囲気?
「あっ」
勇気を出して、マロンの横にピタッとくっついて座ってみる。
驚いた声を出していたけど、離れない。むしろミチっとくっついてきたような。
顔が熱くなる。マロンを見てみると耳が赤い。知ってる。彼女のことはよく観察してる。マジで恥ずかしくなっている時はこうなる。
こっからどうするんだろうか。手を取る?
いやいやそこは早いか。
何で横に来たのか。
知らんがな。
体がそうしたかったから。
もう一回マロンを見てみると、俯いていて、上目遣いでこっちを見て、フイッとそっぽを見て、またこっちを見ている。
今、心臓の鼓動を感じた。今更感じてしまった。
やばい。頭がぽーっとする。こんなの知らない。知らないけど……ウヒィ手が触れた!
推しが横にいる。すぐ側にいる。いつも明るい彼女が、時々不思議ちゃんで何考えているかわからない子が。何だか艶っぽい唇だな。吸い込まれそう。あれ、何で顔をお互いに向けてるんだろ――
「イヤッホォォォォォ! ニュースよ! いる奴は全員集合……あら」
ラウンジの扉がドバーンと開いた。入ってきたのは茜さんだった。
即座に二人で飛び上がった。そりゃもう勢いよく。思いっきり反って飛んだから、ソファーの背もたれに引っかかって勢いよく頭から落ちた。
「うぎゃ!」
「ヒギィ!」
バク転に失敗みたいになった。後頭部を思っくそ強打した。痛い。くそ痛い!
「あらあらまあまあ。こんな昼間からちちくり合うなんて。ダメよ二人とも。もうほとんど世界中で公認だからってエッチなことはダメ。せめてゴムはつけなさい」
「「エッチなことしてないもん!」」
二人でハモった。大声で叫んだからか、アダルト組の幾つかの扉が開いて、ゾンビみたいに出てくる人たちがいた。
「何だよォ徹夜で作曲してたんだから今日くらい寝かせろよぉ」
「ずーっと懺悔配信してたから頭痛いわぁ」
「お、英雄二人がいるな。まあ、ちちくりあってたんだろナ」
鮫渕さんとミルクさんと隈ミカさん。相変わらずの三人だった。
「サメクマミルクかぁ。レモンとアケビは学校として、他のみんなは?」
「セットにすんなし」
と、鮫渕さん。ホットパンツにヘソだしシャツはどうなんすかね。あとスーッと俺のところに寄ってきて頭サワサワすんのやめてくれませんか?
「羊飼ちゃんはコスプレ衣装造りで死んでると思うわぁ。蜘蛛ちゃんは多分液タブの上で寝てるかもぉ」
「そろそろコミケだからナ。あの二人はしゃーない」
と、ミルクさんと隈ミカさん。羊飼イチゴさんはコスプレイヤーで大体撮影に出てて、蜘蛛沢ライチさんは漫画家で大体籠ってる。レアキャラだけど捕まると衣装人形とデッサン人形にされるのでとても厄介、もとい構ってくれる先輩たちだった。
「で、社長。何かあったんです?」
「そんなにほっぺ膨らませないでよマロン。ちちくりあってるところ邪魔したのは謝るから」
「ちちくりあってないもん!」
「マジか。おいハルト、ならアタシが筆おろしてやろうか」
「セクハラは結構です!」
「いいじゃねえか減るもんじゃないし」
「減る減る。てかやめろパンツに手を入れるな、この!」
「んッ……あん!」
「脇くすぐるだけで何ですぐ乙女みたいな声出すんですか? そのロックな格好で恥ずかしくないんですか?」
「う、うるせえ!」
「ハルトくんがセクハラした!」
「正当防衛です!」
「あらあらまあまあ。いつの間に「ハルトくん」って呼ぶようになったのかしらぁ」
「……」
「……」
「茜ちゃん。早く言わないとメッチャクチャになるゾ」
「ええい静かにしなさい性欲獣ども! 私だって我慢してるんだから!」
丸めた紙でポカポカと叩かれて、仕方なく座る。
いや、何で俺叩かれたんだ?
「コホン。今回の事件、ハルトくんとマロンの活躍のお陰で『ダンジョンフレンズ』の知名度がさらに上がったわ。これからは国とか公共関係もそうだけど、自動車関係とか完全に別の世界の企業からのコラボもガンガン入ってきます」
と言われると何だか恥ずかしくもあり、誇らしくもあり。いよいよただの配信業から、本当に芸能人のような扱いを受けると言うことだ。
「なのでよりいっそう炎上やスキャンダルには気をつけること。乱交なんてしたらみんなケツの穴に金属バットねじ込んでやるからね。覚悟しなさいよ?」
最後のは割と洒落にならない拷問なんですけど。
てか乱交ってなんだ。
異議あり!
あ、却下された。
「で。サメには先に言ったけど。今回の事件、コメントとかもそうだったけどあまりにもエンタメ性が強いと言うことでね。ドキュメント映画になります!」
「「「ドキュメント映画!?」」」
「ちなみにテーマ曲、アタシが作るからね。めっちゃカッコイイの作るよ」
「「「サメさんすげえ!」」」」
「いやー夢だったのよね『銀幕デビュー』って! と言うわけで来週から撮影がガンガン入るから! リアルでも『インビシブルフロンティア』でも! みんなお肌のケアと体調を万全に! 欲しい化粧品やら何やらがあったら言って! エステでもいいわ! 構いません経費だから!」
「「「イヤッホォォォウ!!」」」
と、アダルト組とマロンは大喜び。
反して女世帯にポツンと男の俺はイマイチそのメリットがわからず首を傾げる。
「ハルトくん!」
「は、はい!」
「今日エステの予約入れてあるから。すぐマロンと一緒に行って。タコさん待ってるから」
「俺も!?」
「当たり前よハルトきゅん可愛いから。お肌ツルッツルすべっすべになってきなさい!」
「あの、今日配信あるんですけど」
「時間ずらせばいいから! ほら行く!」
急かされたので財布とスマホだけ持ち、ジャージのまま事務所を出る。マロンはと言うと……あら可愛い。最初に会った時の格好だ。エレベーターに入って二人でB1を押すと、ここで急に疲れが出てきた。
「……何だか大事になっちゃったね」
「うん。でも」
「でも?」
「楽しいかな」
「そだね」
「し……ハルトくん」
「何だいマロン」
「これからもよろしくね」
「うん。よろしくね」
マロンが拳を突き出してきたので、コン、と軽く拳で突いて答える。
そう、これからもまだ配信は続いていく。エンターテイメントは一つ終われば良しじゃない。ずーっと、視聴者を楽しませていかないと。
もちろん、みんなが飽きるだとか、もっと環境が変わるだとかあるだろうけれど――。
「なんか潜りたくなってきちゃったな。エステ終わったら配信前に遊ぼうよ」
「本当にゲーム好きだねマロン」
「うん。大好きだよ!」
そう。楽しまなければ。俺たち自身がね。
まだヘルモードは三階までしか到達していない。あの谷崎さんの事だから、沢山面白いイベントやらギミックを仕掛けているんだろうさ。
願わくばあのダンジョンの最奥に、二人で立てますように。
それまで俺は、君の側にいながら――君の背を追うことにするよ。
君は僕の推しだから。
推しは追うもの。
そうだろう?
だからただひたすらに、君を追うだけさ。
<シーズン1 END>
―――――――――兎―――――――――
お読みいただきありがとうございました。
これは推しを追いかける物語。
バズりから配信者に、そして電子世界を
救うハメになった少年の冒険譚。
この物語が貴方の琴線に触れることが
できたなら幸いです。
もし面白かったならレビューを頂けると
ハルトくんもマロンも、
ダンジョンフレンズの皆が喜びます。
まだ読んでない方にも是非
勧めて頂けたらと思います。
シーズン1の終わりということで
続編も考えています。
幕間の物語も予定していますので、
今しばらくお待ちください。
―――――――――兎―――――――――
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