知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第33話 アリス・イン・ザ・バトル・オブ・関ヶ原
第33話 アリス・イン・ザ・バトル・オブ・関ヶ原
ケラケラと笑うアリス。文字通り腹を抱えて笑っていた。
「この世界に来てからウサギさんは一人だけだった。私はそう、アリスだったから。ウサギさんが見たかった」
「……本当に俺だけが【ラビット】を使ってたから、俺を閉じ込めたのかよ」
「そうよ。
マジでたまたまだったのか。
俺が意固地になってイージーモードの段階から【ラビット】を選択して、極めようとしていたからアリスに目をつけられていたってことか。
で、ヘルモードで何をやらかしてくれるんだろうって草葉の陰からニヤニヤしていたと。
そのうちシシマロがやってきて、学習もさらに進んだわけだ。やがて観客がいて配信している俺が楽しくなったから、こんな風に人様を巻き込むことを考えたと。
最初から巻き込まれてたのか。こんなAIのお遊びに。俺だけならいいのにみんな巻き込んだのか。
「悪かったねひとりぼっちで。もう違うよ」
「そうなの?」
「そうなの!」
「えーいいなーいいなーアリスも友達欲しい!」
「……もう満足しただろ。みんなを解放しなよ」
「よくわからないことを言ってるわウサギさん。みんなここにいたいはずでしょ?」
Cアリスはそういうと、クスクスと笑いながら立ち上がる。
「ずーっと見てたわ。みんなここが気持ちいいって。私は教わったわ。この世界のルールを。もっと楽しくするにはどうすればいいんだろうってずーっと考えたわ!」
「おあいにく様。ああいうのは理不尽ゲーって嫌われるみたいだよ!」
と、シシマロが言うと「そうだそうだ」とコメントの嵐。
それが気に食わなかったのか、Cアリスはベーッと舌を出した。
「嘘つき。楽しそうだったくせに。チェシャ猫さんなんか、ウサギさんとイチャコラしてたくせに!」
「イチャコラて」
「イチャ……コラ……」
え、何その反応。
もしもし?
シシマロ?
なんで耳赤いの?
オイなんだコメント。「あらあらまあまあ」とか「尊」とか「リア『獣』爆発しろ」とか何だ。おいちょっとやめろこっちまで恥ずかしくなるだろ!
「私はみんなが楽しい遊びを考えただけよ」
「それでもフリーズしてる人がいる。この後の予定がある人がいる。中には大事な事がリアルにあるかもしれない。子供も待たせてる人もいるかもだ」
「?」
「元に戻しなよ。みんな困ってる。一方的な遊びなんか全然楽しくないぞ!」
そう言うとアリスはやはり何を言っているかわからない、と言うように首を傾げている。
「変な人。アリスは楽しんで欲しいだけ」
「いい加減にしないとちょっと乱暴な事しちゃうぞ」
「え? 遊んでくれるの!?」
Cアリスは嬉しそうに駆け寄ってくる。もう少しで間合いだといういところで止まって、後ろに手を組んでニコニコしていた。わかってやってるのかそうでないのか。
「そうね。たしかにフワフワしてる人たちがいる。貴方たちの声もいくつかはトゲトゲしてて怖いわ」
「解ってるならーー」
「だからアリスと遊んで」
「「どうしてそうなる!」」
うーんダメなのか。
言葉が通じると思ったらやっぱり通じていない。
人と似て非なるものに茶化されているような気がする。
そもそもだ。
彼女は幼女の形をしているけど、ただのAIだ。その姿はカリフォルニア在住のど変態ハッカーの趣味というだけ。
――斬るか。
――尚も推しは危機の中にいる。
――フリーズしている人もいる。
こんな蛮族めいた考えがサッと浮かんでくるとは。チェストのせいだな。うん。
でもそれが一番かもしれない。コメントも「見た目に騙されるな」と言っている。俺もそう思うし、何よりシシマロが油断していない。流石だ。
何かきっかけを作って一歩。
そのまま『物干し竿』の抜きざまに斬る――
「あはは。あはははははは。じゃあそうだね、鬼ごっこしよう!」
「鬼ごっこ!? ここで!?」
「ウサギさんたちが勝ったら解放してあげるよ。負けたらーーアリスとずっと遊んで?」
ニコッと笑うアリスの顔はとても純粋で、だからこそ邪悪に見えた。
やがてアリスの足元から真っ暗闇が広がった。
逃げるまもなくあっという間に空間が真っ黒に覆われる。
「何をしたんだ!」
「遊び場を変えるの。このダンジョンの奥底で面白いステージを見つけたんだ!」
パァッと明るくなった。
空は青。
周囲に城は無くて、何故か森の中。
立っているところは二車線くらいの幅がある、土が剥き出しの道だった。向いてる方向はカーブで奥が見えない。
「師匠、何ここ。日本の田舎?」
「シシマロ。こんなところノーマルモードにあった?」
「ううん。こんな青空に山道だなんて見たことない」
奇妙な――いや、けれど美しい場所だった。
そのまま虫籠を持って虫取り網を掲げればまるっと夏休み。そんな場所。聞こえてくるジーワジーワという蝉の音がリアルだ。特に暑くもないのに汗が出てきそう。
「あはは、あはははは!」
空から声。Cアリスの声だ。
「このダンジョンは人の記憶が集まる、まぜこぜの世界! 失った歴史の世界が広がっている奇怪極まりない亜空間! ……亜空間って何かしら。あはは。あはははははは!」
アリスが言うのはダンジョンの設定だ。テキスト資料でも読んだのだろうか。
このゲームは突如日本に現れたダンジョンを攻略すると言うところから始まり、ストーリーを進めているうちに世界の記憶が再現されているという事実が判明、階層などでちょいちょい歴史上のものが入ってきたりする。
例えばノーマルモードの『コジロー』のステージがそうだ。あれは世に名高い『巌流島の戦い』を模したもの。史実はちょっと違うらしいけど――
「時は西暦一六〇〇年。ウサギさんのいる国でトー軍とセー軍に分かれて戦った大一番! どっちが次のキングになるか火花を散らした、史上稀に見る大決戦!」
「あああくっそおおおおここ選ぶかああああ」
ブワリと現れたのはお問合せウインドウだ。さっきまでCアリスに閉ざされていたはずの回線が復活したのだろうか、鬼気迫る顔の茜さんにタイピングしまくる谷崎さん、そして腕組みしながら仁王立ちするタコさんが映った。
「ハルト君それにマロン! 良かった無事みたいね!」
「何とか! でも変なところに連れてかれてしまって……」
「そこは僕のとっておきのステージだったのに! ネタバレされたチクショー!」
そう言いながらも谷崎さんは今度は別のノートパソコンを取り出して、二台体制でタイピングを始めていた。
「谷崎さん何なんですかここ!」
「そこは『関ヶ原ステージ』だ! 関ヶ原の戦い、知ってるだろ。歴史の勉強してれば絶対習うところ!」
「関ヶ原の戦い!? ここが!?」
「イベントのためにコツコツ作ってたのにぃぃぃ!!」
そういえば、微かに運動会みたいな声が聞こえてくるような。これ合戦の音だったのか。
やがてドドド、と地鳴り。何かがこちらにやってくる音。シシマロと顔を向けると、
「「何だあれええええええ!」」
>何じゃこりゃあああ
>二人ともハモってて可愛い
>軍団みたいなのが走ってくるな
>エネミーが全部赤い
>よく見るとトランプの兵?
>赤いカードに手足が生えて日本の甲冑着てる
>奥のラオウが乗ってるような馬の上なんだアレ
>赤鬼?
>鬼みたいだけど女性型エネミーだな
>赤い甲冑が妙にセクシー
>Cアリスがその前にちょこんと座っとる
>女の鬼???
>そこは井伊直政じゃないの?
>誰やねん
>誰?
>読めないんだが。いいなおまさ? でいい?
>それでOK
>赤い鎧って真田ちゃうんか
>
>戦国最強、武田氏の朱色の軍装を受け継いで『井伊の赤備え』で恐れられた猛将
>その強さからついた名が『井伊の赤鬼』
>ちなみに美少年だったらしい
>歴史オタたすかる
>勝ち組でクソ強くて伝説の武具装備した美少年か
>異世界のチート主人公か?
>美少年どころか女体化してるんですが
>クリーチャー化もしてますな
>おっぱいがぷるぅんぷるんしとる
>
>これ制作側の趣味なのかアリスちゃんの改変なのか
>制作側の趣味なら『コジロー』も『ムサシ』も女体化してる
>つまりジャパニーズの嗜みまで学習しやがったのかこの幼女AI
>Cアリスちゃんそこ学ばなくていいですもっと勉強しようね
>このシチュエーションは完全に『島津の退き口』だな。
>井伊直政が走ってくるんだからそうだろ
>チェスト名高い島津家が敵陣を中央突破して逃げたっていうアレな
>敵陣を中央突破して……逃げる?
>日本語おかしくない?
>なにいってんだオメー
>誤字?
>歴史勉強してない奴バカにしてるのか?
>マジなんだなこれが
>大マジの史実だぞ
>薩摩隼人だぞこれくれーは平気でやる
>日本にはいたんだよそういうバーサーカー達が
>サツマラビットってそういう
>谷崎って歴史オタクなんか?
スドドドドド、と地鳴りを伴って迫ってくる軍団。
こんな大量の敵と戦ったことなんて無いぞ!?
うわ怖い。
怖い怖い怖い!!
Cアリス以外目が殺意でギンギンしてる!
あの爆乳の赤鬼もスンゴイ顔になってる!
チートもらってるかもだけどこれは怖い!!
「あははははは! さあ逃げてウサギさん! 鬼ごっこの始まりよ!」
「マイネェェーーーーム! イズ! アルティメェェェット! ナオマサ! イイ!」
「「赤鬼が喋ったあああ!!」」
<イベントエリアに入りました>
<エネミーによる攻撃は全て
―――――――――兎―――――――――
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―――――――――兎―――――――――
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