知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第34話 VS.大朱鎧の追撃者『アルティメット・レッドオーガ・ナオマサ』
第34話 VS.大朱鎧の追撃者『アルティメット・レッドオーガ・ナオマサ』
目の前の表示に、とうとう俺も頭がおかしくなったのかと思った。
即死属性の付与。
つまりどんなに体力があっても、どんなに装甲が硬くても一撃で死ぬということ。
けど、こっちはチートを貰ってる。
即死耐性だってしっかりついてるのは確認してる。
全属性全耐性。
小学生が「ぼくのつくったさいきょーのヒーロー」みたいな状態が今の俺たちだ。
真正面から斬り込んでも――
「二人とも逃げるんだ!」
と、絶叫したのは谷崎さんだった。
「そこはアリスではなく最初から
待て待て待てェ!
やめて谷崎さんその先言うのやめて。
大体想像できちゃったじゃないか!
「自然に人が勝てないように! その即死属性は君たちのチートも無視をする!」
「「ふざけんなァ!」」
シシマロと一緒に踵を返して、脱兎の如く逃げる。
「あははははは! あははははははは!」
「カカレェェェェエエエエエエエ!!!」
「「「ウーラー!」」」
Cアリスの無邪気な笑い声と、アルティメットなナオマサの声、そしてトランプ武者達の海兵隊めいた掛け声が聞こえてくる。もう言語周りがメッチャクチャだけど、とにかく「ぶっ殺す!」みたいなのが伝わってくきた。
「何で逃げなきゃいけないんだ! チートの意味無いじゃん!」
「もおいやああああ師匠ぉぉぉぉぉおお帰りたああああい!」
「何とかしてよ谷崎さぁん!」
「今やってる! もうちょっと! なんとか侵入できそう!」
「師匠! えんまく! ウサちゃんも!」
「ああすっかり忘れてた!」
スキルを選択して、バックパックからウサギのキーホルダーを複数引きちぎる。
投げると【捨てがまり兎】たちがボワワンと言うSEと共に現れて、ドカッとその場に座る。
「お願い時間を稼いで!」
「「「ギュー!!」」」
任せろと言わんばかりにボウガンを構えるウサギたち。凛々しい眉毛の下の鋭い目が輝いて、次々とボウガンを発射していく――
ドゴン!
ドゴンドゴンドゴン!
「えっ」
「ウサちゃんたち何撃ってるの!?」
びっくりした。射撃音がするかと思いきや爆裂音。何か大砲でも飛んできたのかと思ったら、ウサギたちの放った矢が爆裂していた。
赤トランプの武者たちが吹っ飛んでバラバラになってる。おっかな!
でもあの赤鬼は構わず突っ込んでくる。馬が全く驚いてない。どんな軍馬だよ。それどころかトランプの武者たちを追い越し始めていた。
「これはネタバレだけどスキル自体を強化するイベントとかも用意してたんだ。ハルト君の【捨てがまり兎】は追ってくる相手に合わせて矢を
なるほど。さっきの『マッドハッター』は単体だったからただの矢だったけど、今回は敵が多いからってことか。
「ありがとう谷崎さん、初めて嬉しいと思った!」
「それは何よりだ! もう少しでそっちの世界に入り込める。どうにか逃げて!」
スキルを選択。腰のポーチから『煙幕玉』を引き抜いて、後ろにポイっと投げた。
ドゥ、と言う破裂音が背中で聞こえた。
煙幕が展開してる。これで足止めできるだろう。
そう思った直後、煙を割って現れたのはあの赤鬼だった。ウサギ達の砲撃も掻い潜って一直線にこっちに走ってくる!
「ダメだ! シシマロ走って!」
全力で走る。チートが効いているからだろうか、比較的鈍重であるはずの【ブレイブレオ】のシシマロも、俺の【サツマラビット】に並走できてる。
あの赤鬼の軍馬にも負けない速度はでている。ただ気を抜いてしまうとすぐに追い付かれそうでもある。
そして自分で走っているからか、こちらの分は悪い。
体力は無限に近いけれども、精神力がゴリゴリ削られる。
これ何か覚えがあるようなと思ったら、あのバズった時の下校の時とそっくりだ。どうりで心臓がキュってなると思った。
シシマロを見る。手を振ってしっかりと走ってるけど、顔が段々と引き攣り初めている。いけない。彼女、見た目より怖がっているかもしれない。
「師匠これいつまで走ればいいの!?」
「わからない!」
「そんなぁ!?」
「どうせイベントっていうくらいだからデッドエンドがあるはず。そうだよね谷崎さん!」
「その通り。僕は歴史好きだけど、ゲーム好きだ。ここは史実の『島津の退き口』をモチーフにしているけど、史実よりずっと短く設定している」
「良かった。そうじゃなかったらタコさんに殴ってもらうところだった」
「もう二発くらいゲンコツもらってるよハハハ……逃げていけば勝地峠という決戦エリアに出る。そこで『アルティメット・レッドオーガ・ナオマサ』迎え打つようにはデザインしてる」
「あとどれくらい!?」
「ゲーム内では一キロもない道のりだけど、アリスが少し改変しているかもしれない。いいかい絶対に一撃貰っちゃダメだよ!」
「わかってるけど!」
「因みに! 『アルティメット・レッドオーガ・ナオマサ』は中距離攻撃を所持してる! そこはもう射程圏内だ!」
「「早く言え!!」」
と、ハモって叫んだその時。
後ろから咆哮が聞こえてきた。
「槍投げが来るぞ! 投げた後は鎖で回収、また槍投げが来るから注意だ!」
「ふざっ……どうしてそんなの実装したんですか!」
「か、かっこいいと思って……」
「師匠この人あとで殴っていいかな!?」
「それはあと! シシマロ左に! 俺は右に飛ぶ! 合図するから!」
背後を見ると赤鬼がググッと、馬鹿でかい槍を投げるポーズをしていた。Cアリスは「いっけー!」とばかりに指さしている。ほんとこいつ!
「オオオオオオオオオオ!」
バシュ、という音がして投げられる朱槍。天高く伸びあがって、そして正確にこちらに降ってくる。ジャラジャラと伸びる鎖が蛇のようだ。
「来るよ、三、二、一……今!」
ぴょんと左右に避けたそのすぐ後に、俺たちのいた間にドカッと降って来る朱槍。おいおいふざけんな。槍自体が人が握れる太さじゃないんですけど!?
槍はすぐに引っ込んで、パシッと鳴る音から察するにすぐに回収されるようだ。ゲームの都合上とはいえとんでもないもの作ってくれたな!
「また来る!」
「師匠! 今度はなんか振り回し方が違う!」
シシマロが言うとおり、さっきは頭上で回していたが今度は横にグルグルと回している。こういうちょっとした動作の違いが大きな差になるのはゲームあるあるだ。
「範囲攻撃が来る!」
「「範囲攻撃!?」」
谷崎さんからまた初見殺しみたいな言葉が出てきた。
「タイミングよく、今度は高めに飛ぶんだ! 着弾の後に足元を薙いでくるぞ!」
「オオオオオオオオオオ!」
「来た! 師匠!」
「俺が合図する!」
バシュ、と音がする。
見てみると朱槍がもう空を飛んでいた。
ただ今度は俺たちよりかなり先に投げているようだ。
ドカッと刺さったのは、俺たちより十数メートル先の道の端。
ジャラジャラと槍の石突から伸びる鎖が、「今からなんかするぞ!」みたいな気配を出していた。これもまたゲームあるあるの予備動作。それが殺気のように感じて、鋭く足元に伸びるような感覚がする。
「今!」
「ぴー!」
二人で大きくジャンプ。
すると鎖がピーンと伸びて、俺たちの足元を弧を描くような軌道で薙ぎ払った。完全に物理法則を無視している。ゲーム的な表現だ。
シュタッと着地すると、再びパシッという音。咆哮が響き渡り、Cアリスの「ヒュー! やっるー!」と言う煽る声が聞こえてきた。
「くっそおおお本当に遊ばれてるな!」
「これずっと続くの!?」
「シシマロ泣かないで!」
「だってえええ!」
「こう考えるんだ。リズムゲーだって。ほら来る! 備えて!」
「私リズムゲー苦手なんだって!」
「これで得意になるよ!」
槍を振り回す音が聞こえてくる。
「降って来る! 横に回避! 三、二、一……今!」
「ぴゃああ!」
ダッと斜め前に飛ぶと、今度は俺じゃなくてシシマロよりに着弾していた。シシマロは顔を青くしている。あいつ、精神が削れてる方を優先的に狙ってるのか!
【コメント欄】
>がんばれ二人とも!
>クソがあのAIシシマロを狙ってる!
>卑怯もんが
>もう幼女だとは思わねえぞ
>最初から幼女じゃないあれは作り物だ
>てか師匠すげえな全部タイミングぴったりじゃん
>【ラビット】は耳が異常によくなるからな
「二人とももうすぐだ! 決戦エリアにつく!」
「そこからどうすればいいんです!?」
「即死エリアからは抜ける。ここで『アルティメット・レッドオーガ・ナオマサ』を倒すんだ。Cアリスがゲームを求めてるなら必ず一騎打ちになるだろうから!」
その保証はどこにあるんだと思ったけど、確かに彼女は遊びにこだわっている。理不尽を強いるのは相変わらずだけど、ここのルールだって変更してはいない。
ただただひたすらに俺たちに不利なところをチョイスしてる――。
なんか、さらにイライラしてきた。
シシマロを狙った時点でもう堪忍袋の緒がキレそう。
「広いところ見えてきた……師匠?」
「あったまきた」
「ほっぺ膨らんでる!」
「シシマロ、反撃だ。もー許さない!」
「なにする気!?」
「こうするつもり!」
走る中でスキルを選択。両腕いっぱいに抱えたのは【地雷火】だった。
―――――――――兎―――――――――
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―――――――――兎―――――――――
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