知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第02話 超人気配信者と一緒は心臓に悪いもう逃げたい
第02話 超人気配信者と一緒は心臓に悪いもう逃げたい
獅子崎マロン。
この『インビシブルフロンティア』をプレイしている者で彼女を知らない者はいない。
現時点で最高到達地点、地下100階に一番最初に到達した猛者であり登録者数200万人越えのチャンネルを持つゲーム配信者だ。
基本的にこの『インビシブルフロンティア』で活動していていて、他のゲームでも基本的にこのゲームの立ち姿で配信をしている。
ぱっちりした目にもっさりウェーブのかかった、ライオンの立髪のような金色の髪。装備品を省いた、いわゆるロビーの姿では軍服の印象のあるワンピースドレスを着ている。
このゲームは実際の顔をそのままトレースするのでリアルもあの顔らしい。
残酷なシステムだが、過去にゲーム内では超イケメンなのに現実世界で会ったら残念だったとか、未成年が釣られていかがわしい事件に発展した背景があってこうなっている。
もちろん顔を隠せる防具もいっぱいあるから、見られたくない人とかロールプレイを楽しみたい人とかはそっちで楽しめばいいのだけれどね。
話を戻して。
獅子崎マロンはゲームも上手くて人気で美少女。トークも面白い。俺とは正反対だ。そんな彼女が何でかこの低層のオークご一向に追いかけ回されている。
ははーんさては偽物……
「助けてェ! 助けてヨォ! 何でもするからさァ!」
前言撤回。
彼女は本物だ。
焦った時にこのセリフを吐くのはシシマロこと獅子崎マロンだけだ。俺は急いで彼女の元に向かって行って、そして
「ちょ! 何で一緒に逃げてんの!?」
「すいません獅子崎マロンさんですか?」
「そうだよシシマロだよ!」
「うわ本物だ! いつも見てます! 雑談配信だけですけど!」
「ありがと! じゃあついでに助けて!」
「助けてって……何でこんな低層にいるんですか?」
「はぁぁ!? ここどこだと思ってんの!?」
「地下3階ですけど」
「ヘルモードのね!!」
ヘルモード?
聞いた事が無い。
とりあえず「お、おぅそうだな」みたいな返事を返しておく。後ろからは奇声を発しているオーク達がまだ追いかけてきている。
「とりあえず逃げますか」
「戦わないの!? 君
「【ラビット】です」
「ギャー! 産廃だー!! 終わったぁぁぁ!」
「そう捨てたモンじゃないですよ。そこの十字路右に行きましょう」
そして取り出すのは【ラビットスモーク】の玉。何だそれと首を傾げるシシマロ。説明する前に十字路に差し掛かる。
「どうすんの!?」
「こうします」
おりゃ、と玉を下に叩きつけて右に曲がる。すると十字路が一気に煙で包まれた。
「うわ! こんなスキルがあるの!?」
「シシマロさん隠れてて」
この廃城のような階層は隠れる場所が多い。とりあえず角にある柱の影に彼女を隠すと、愛用のショートソードを鞘から抜く。
「何そのショートソード」
「さあ。モンスターの仲間割れ眺めてたらドロップしたんで拾いました。星1ですけど」
「ほ、星1ってそれ……」
何故かシシマロが震えている。お前なんつーもん持ってんだとそう言わんばかりだ。こんな低レア武器にナンデ?
「とりあえず倒してきます」
「ちょっ!」
静止を振り切って走り、煙の中に飛び込む。スキルボーナス付与を確認。同時に【ヴォーパル・ブレード】を展開して剣に即死を付与。そして一番近いオークの背中に近寄り剣をグッと引いて、思いっきり刺す。
ズルリと入る感触は何か癖になる。そのまま剣を抜いてオークを蹴っ飛ばし、次のオークの背後をとる。マッシブな背筋に刃がスルッと入っていく。
崩れるオークを蹴っ飛ばしてさらに次を見る。
空を切る鈍い音がしたのでしゃがむと、頭の上をオークの剣が通過した。ヤケクソのようだ。これに当たると中々のダメージになる。
こういうアクシデント的な被弾も嫌いだからこそ選んだ【ラビット】はとにかく隠れて、逃げて、ケムに巻いて、そして油断したところを刺すという戦い方に特化していた。
つい張り切って、煙が消えるともう十体は倒していた。適度なところで切り上げるつもりが全滅させてしまうとは。
「け、けっこういた。スキルエネルギーが尽きてる……」
古き良きJRPGでマジックポイントを消費して魔法を使うように、このゲームもスキルエネルギーを使ってスキルを扱う。スキルポーションあったかなと背中のバックパックを下ろすと、パチパチと手を叩く音がした。
「す、すごい……【ラビット】系統ってこんな戦い方があるんだ」
目をまんまるにして、拍手をしながら近寄ってくるのはシシマロだった。
「君、何者? ランカーの誰よりも強い。もしかして私よりも……」
「い、いや。そんなこと無いです。俺なんかここの3階までしか行けない素人だし」
「3階は3階だけど……ここは地下100階層に来てようやく解放されたヘルモードなんだよ?」
「さっきから言ってるヘルモードって、ノーマルモードの次なんです?」
シシマロはこくんと頷いた。
イージー、そしてノーマルモードがあるのは知っている。イージーモードは地下5階までのチュートリアルで、これをクリアするとまたノーマルの1階から本番が始まる。
で、彼女はここをヘルモードなるさらに上の難易度であると言う。ハードはどうした?
「本当に知らないの? でもそうだよね。私が一番最初に乗り込んだはずなの」
「え?」
「地下100階でノーマルが終わって、ここから本番って表示が出たの」
「えええ!?」
「でも先を越された」
「いや越したかったわけでは……」
「私ね、これでも本気でこのゲームをクリアしようと思ってるの」
「そ、そうなんですね。すごいなー」
「すごいのは君。スキルボーナスも何その馬鹿げたのは。即死8割? ありえない。武器もそう」
「星1ですけど」
シシマロはフルフルと首を振る。ずい、と出して来たのは彼女の代名詞である双剣。彼女はグラたん呼ぶそれは、魔双剣グラムという星5つの超レア武器であり、彼女の代名詞でもある。
「これが星5。見て。黒く塗られた星が五つあるでしょ」
確かに近くに出たウィンドウには『魔双剣グラム ★★★★★ 攻撃力:20K』とあった。紫色のタグのいかにも高レアですよという表示だ。
「あるね」
「で、君の剣。星は中が白い。それはレジェンドスター。星5のさらに上」
「星5より上!? 拾っただけですよコレ!?」
俺のを見てみる。『カルンウェナン ☆ 攻撃力:100K』とある。あまり聞かない名前だからカルなんとかで覚えてた。
というか攻撃力……俺の方が五倍くらいあるような。あれ、今思うとこの「K」ってもしかして×1000って意味か?
え?
攻撃力10万?
100かと思ってた……。
「ねえ、聖剣カルンウェナンって聞いた事ない? アーサー伝説でエクスカリバーと共にあった短剣の名前。つまり
「……本当に?」
「本当に」
つまりこう言うことか。
俺は知らない間にヘルモードに一人いた。
知らんうちに伝説の武器を手に入れていた。
産棄だと思ってた【ラビット】もエゲツない能力だった。
いやそうはならんやろ。
「……君、名前は!?」
「え、稲葉ハルト」
すぐに口を塞いだ。何やってんだ俺は。この人絶対に配信しているのに本名を口にするだなんて。顔だけなら似てるで何とかなるけど、名前と一致したらヤバいだろ。
ただこの人もプロだから、当然そういうの切って話しかけて……いるよね? この規模のチャンネルになるとスタッフも指示を飛ばしたりしてるだろうし。
しばらくシシマロはじぃ~っと値踏みするように俺を見て、一歩俺の前に歩み寄る。
近い。
めっちゃ近い。
まんまるの瞳に見つめられて吸い込まれそう。
こういう時に「デュフッ」って言わなくてよかった。
スッと伸びてくるのはシシマロの白い手。
頬に触れるとひんやりしていた。
心臓がバクバク鳴る。
シシマロは固まっている俺の前髪を上げると、ニヤリと笑った。
「案外いいじゃん」
「なっなななにぎゃっ」
噛んだ。
恥ずかしい。
これ配信されてたらクッソ恥ずかしい。
シシマロは下がってフンスと鼻息を荒くすると、ピッと俺に指を指してくる。
「ハルト君! 君は私の師匠にする! 今決めた!」
―――――――――兎―――――――――
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―――――――――兎―――――――――
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