第09話 チェスト、君に決めた!

 ちょっと休憩して配信再開。同接数がすごいことになっていた。


【コメント欄】

>始まった

>シシマロ〜!!

>おおやった待ってた

>シシマロ何かされてないだろうな!?

>シシマロ〜!

>師匠!!!!!

>師匠結婚してくれ

>師匠ぉおおおおお!!

>黒うさしねええええ!!

>事後か

>お前ら早く結婚しろ

>あああうああああああシシマロうああああああ!!

>師匠ぉぅぅうあああ


 コメントの速度がおっかない。若干俺のアンチが見えるけど気にしないことにした。


「はーいじゃあ再開します! 師匠、この枠は流石にモンスターと戦いたいんですけど!」

「そうだね。ここの階層ならまだシシマロも戦えるはずだから……あれ? そういえば出会った時は地下3階だったよね?」

「えへへ……実は勢いで付き進んじゃいました」

「なんて無謀な」


 多分、油断して最短距離で来たんだろうな。たまたまモンスターと鉢合わせになったのが地下3階で、意気揚々と戦ってみたら全く歯が立たず逃げに逃げて、俺と出会った。そんな感じなのだろう。


「とりあえずゴブリンみたいなのがいればいいんだけど。数が多いと厄介なんだよな」

「え〜ゴブリン〜?」

「ここヘルモードだからゴブリン一体でもかなり厄介――シッ」


 指を立ててシシマロを黙らせる。彼女は何事かと首を傾げていたが、俺はすぐに地面に寝て床に耳を当てた。


「何やってるの師匠」

「静かに。音が聞こえる。足音だ」

「音?」

才能タレント常時発動パッシブスキルだよ。君だってあるだろ。【ライオン】は常にスキルエネルギーが回復したり、スタミナが途切れにくいとか。大声出すと雑魚敵が怯むとか」

「うんあるね。それが取り柄!」

「俺の場合足が速くなるのと、異様に耳が良くなるんだ」


 目を閉じて耳に集中する。シシマロが覗き込んでくるけど集中。そのうち一緒になって地べたに寝て地面に耳を当てながらこっちをみてくるけどああもう集中集中!


 ひた、ひたと複数の足音。踏み締め方から体重も体格もわかるのは才能タレントのお陰だ。総合的に判断するに、ゴブリンに違いない。


「そこの角の先にいる。三体。ゴブリンだ」

「すっご。師匠すっご! サバイバル術みたい!」

「これしないと生き残れなかったんだよ……今なら先制攻撃でクリティカルボーナスつくと思う」

「なら行く!」


 びょん、と跳ねるようにして立ち上がるシシマロ。そのまま愛剣のグラムを構えて、ダーッと走っていってしまった。


「ちょっとシシマロ!」

「師匠ばっかりいいところズルいから! 一気に飛ばしてみるよ!」


 撮影ビットにばちーんとウインクして、シシマロがカッ飛んでいく。


 そのうちバッとシシマロが金色に輝き始める。彼女の【ライオン】の上位才能タレント【ブレイブレオ】のスキル、【覇気の咆哮】だ。


『スキルボーナス:連続攻撃速度+30%』

『スキルボーナス:スーパーアーマー付与』

才能タレントボーナス:攻撃力+20%』

才能タレントボーナス:クリティカル率+30%』


 俺の視界の右端にシステムログが流れていく。ようやく俺が角を曲がる頃には、シシマロがゴブリンの一体に斬りかかっていた。


 小学生高学年くらいの背丈の、緑の体をしたいかにもゴブリンといったモンスター。ただ小さな王冠を頭に乗せている。かなり上位のゴブリンらしい。


「でええやあああああああ!!」


 彼女の宿す【ライオン】系統の才能タレントは連続攻撃に特化した才能タレントだ。武器も双剣などの手数をとにかく稼ぐものが多い。スキルボーナスが控えめに見えて、手数を考えるとかなり強い部類に入る。


 不意を突かれたゴブリンの一体は成す術もなく切られていた。ドドドドドド! ととめどなく放たれる攻撃のダメージ表記の半分くらいがクリティカルヒットだ。


 加えて彼女の攻撃はフルダイブ型ゲームによくある『リアルトレースボーナス』も加算されている。


 ようは現実に沿った攻撃をしていると隠しボーナスとしてクリティカルに加算されていくということ。彼女の剣はゴブリンの喉や脇、内股などなど的確に差し込まれていた。


 つまり、彼女は現実世界でもアレができるということ。ナイフを持たせたら速度こそあそこまで出ないけど、心得があるということだ。こわい。


 そういや事務所の上のレッスンスタジオの中に武道場があったっけか。さらに思い出すと、ハゲさんとか黒服ズが道着に着替えていたのも見た。もしかしてあの人たち、ボディーガード兼武道トレーナーなのかも。


「すご。間近で見るとこんなに激しいんだ」

「うりゃりゃりゃりゃ!」


 あっという間に一体を倒すシシマロ。流石だけど、彼女の怒涛の連撃でようやく一体倒せるってのがこの難易度の激しさを物語っている。


「次!」


 バオ! と、再びシシマロが黄金に輝いた。スキルチャージ時間が極端に短いのも【ブレイブレオ】の特性だ。無呼吸連打と言わんばかりの連撃で、彼女は様々なレイドで活躍していた。


 二匹目が切り刻まれているその間。


 ススっと三体目のゴブリンがシシマロの背後に回ったのが見えた。


 多分、彼女は気づいていない。


 そしてこれがヘルモードの恐ろしさだ。


 攻撃力防御力そして体力が跳ね上がるのもそうだけど、敵のAI部分がめちゃくちゃ人間っぽい。バックアタックも平気でやってくる。ノーマルモードではこんな事してこないというのは、シシマロとかの動画で勉強した。やるとしたらゴースト系のいやらしいヤツくらいだ。


 彼女もまさかゴブリン程度の敵が背後に回るだなんて思わないだろう。そのまま殴られたらゴブリンの攻撃にバックスタブのボーナスが加算される。その効果は敵味方関係なく防御力無視の付与だ。


「まあ、俺もそうするんだけどね……【ヴォーパル・ブレード】!」

「ギッ!?」


 ウッソやろお前、とでも言いたげな顔で振り向く三体目のゴブリン。その背中にサックリと短剣を突き刺す。クリティカルボーナスが入り、防御も無視したから剣の攻撃力の二倍、20万ダメージが入った。


 オーバーキルのためジュっと消えるゴブリン。シシマロがえっと背後を振り向いた時にはもう全部終わっていた。


「師匠!?」

「後ろ注意ね」

「え、ゴブリンが後ろに回ってたの!?」

「ここじゃそうだよ。みんな裏をかいてくるからね」

「そんなぁ」


 いいとこ見せるはずだったのに、と肩を落とすシシマロ。そういう表情も可愛いからニヤけてしまう。


「でも連撃は凄かった。というか、綺麗だった。すごい綺麗なイラストをみてるような、ダンスを見てるような感じ。ずっと見ていたい感じだった」


 弾ける金のエフェクトに、乱れ舞う剣閃。まるでダンスを踊っているような姿と、本気でゲームを楽しんでいるような笑顔。眩しいなぁと思えた。


 素直な気持ちだったのだけれど、シシマロは急に顔を赤くしていた。あれ。なんだこの顔。言われ慣れてるはずだけど?


「シシマロ?」

「そっ」

「そ?」

「そんな風に正面から言われたの初めて」

「いつも可愛いって言われてるじゃん」

「綺麗は」

「??」

「綺麗は言われた事ない……」

「嘘だぁ」

「ホントだよ!」



 テテーン♪



 シシマロが光に包まれる。レベルアップのようだ。配信画像のコメント欄に拍手の滝ができていた。


「レベル51だヤッター! てか上昇率やっば! 攻撃力めっちゃ上がった!」

「おめとう。このままガンガン上げよう」

才能タレントの方は変わらないんだ……そういえば師匠」

「?」

「【ラビット】から次の上位才能に切り替えないの?」

「うーんそれなんだけどね。この間60になってようやく出てきたんだよね。上位才能タレント

「えっ」


 シシマロの「えっ」に同調してコメント欄も滝のような「えっ」ができていた。


「そんなに大器晩成型なの!? 普通レベル20とかなのに?」

「みたいだよ。ちなみにほら。配信画像も見えるかな。次の才能がなんかおっかなくて」


 虚空にステータスを表示させる。ちなみにやり方は、左腕につけられた腕時計型デバイス【ビーストアイズ】に触れて起動させるだけだ。


「何これ……【キラーラビット】に【サツマラビット】???」

「キラーが即死偏重で、サツマがクリティカル偏重らしい」

「へえ……サツマラビット、アイコンかわいいね」

「えっ」


 今度は俺の「えっ」と連動してコメント欄が埋められていく。


「師匠、こっち選んでみようよ」

「えぇ。大丈夫かな」

「大丈夫大丈夫!」


 コメント欄を見ると「大丈夫大丈夫」「先っちょだけだから!」というのがダーッと流れていた。こいつら……。


 しかしまあ、いいタイミングかもだ。このまま二人でダラダラやってたら盛り上がりに欠けるだろうし、ちょろちょろと「デートじゃねえか死ね!」みたいなのが見えるから変化を与えないと。


[配信的にもいいから選んじゃって!]


 社長命令が来たのでポチリと選択。


 その瞬間。


 いきなり視界がバグった。




―――――――――兎―――――――――

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―――――――――兎―――――――――

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