知らずに超高難易度ダンジョンに潜っていたソロ専の俺、うっかり美少女ダンジョン配信者を助けてしまい師匠と呼ばれ大バズり。そして何故か俺まで配信者になってしまった~薩摩ラビットはもう逃げない〜
第36話 VS.メタバースワールド特化型クラックAI『ジャバウォック』
第36話 VS.メタバースワールド特化型クラックAI『ジャバウォック』
「師匠!」
「アイツの背後に回って! 合図を待って!」
そう言って走る。
先手必勝。
今は視聴者が見ているのを気にするとか、ショー的にどう見せるかなんて気にしない。
戦いでは空気を読まないことが大切だってタコさんは言ってた。
スポーツのように「始め」があって、「止め」がかかるわけじゃない。生きるか死ぬかが闘争だって。
ならば相手が気持ちの用意ができている前に斬りかかるのは当然のことだ。
「なっ!」
案の定、Cアリスは困惑していた。もう少しこちらが困惑するとか、なんか口上を述べるとか期待したのかもだ。
そりゃそうだ。ゲームを主に学習していたというのならそうなる。
フルダイブ型のゲームは古風なRPGのように戦闘BGMが流れて戦闘フィールドに出るという形式では無い。
けれども、モンスターがプレイヤーを見つけて咆哮を上げたりする。仰々しく刀剣を振り回したり、変な呪文を唱えたりする。これが「始め」みたいなものだ。
つまり、俺たちフルダイブ型ゲーマーは知らず知らずに「始め」を刷り込まれていて、「はい今から戦闘ですよ」という親切の中で戦ってる。
リアルな戦場に見えて、お膳立てされた戦闘。
それがゲームというもの。
ヘルモードではそこらへんが若干撤廃されていて、相手が不意打ちしてきたりするけれど――それでもまだゲーム然としている。
そこへきて、過去に戦場にいたという本物の兵士の指導だ。生き延びるために卑怯には進んで手を伸ばす。
ちょっとガチすぎて引いてはいたけれども、冒険の足しになると思って真面目に勉強しておいてよかった。
「……あ、あはははは! ムキになっちゃって! でも知ってるよウサギさん。ウサギさんはそうやってカタナを高く突き上げてぇ」
赤鬼になったCアリスが巨大な朱槍を振り、仰々しく、煽るようにして防御体制を取る。振り下げる剣を迎えるようにして、槍を寝かして防ぐ態勢だ。
「刀を振り下ろすしかないもんねえ!」
刀の間合いに入った。
このままだと朱槍に防がれるだろう。
朱槍ごと両断できないだろうか。
……まあ、
リアルではもとより、このゲームでは無理だと思う。なぜならこの世界に武器破壊はないからだ。
ゲームのルールを拡張解釈して書き換えずとも、絶対に防げる。Cアリスが悠々と朱槍を寝かせて刀を迎えるのはそのためだ。
ただ。
これを俺が読んでいたとしたら、どうだろうか。
「ンフ」
「!?」
「誰が刀で斬るって言った?」
「えっ」
そうして絶好のタイミングで『物干し竿』を振り下ろして、今、その刃が朱槍に弾かれる――
「
振り下ろす挙動はそのままに、パッと『物干し竿』が消えた。
コメントから動揺が見える。そうだろうとも。いきなり攻撃をキャンセルしたのだから。
でも、これでいい。
「戻ってこい『カルンウェナン』!」
パッと腰に現れたのは、長らくヘルモードを共に渡り合った最愛の友とも言える短剣。
ショートソードだからこそこういう肉薄した距離が得意だ。
「足、もらった!」
滑り込むようにして身を寄せて、その右膝に思いっきり『カルンウェナン』を突き刺した。
クリティカルヒットになったのだろうか、20兆とかいうダメージ表記が出現した。
ただ、ダメージバーの減りは微々たるものだ。
「……驚いたけど、だから何?」
頭上でCアリスがニィィと笑っているのがわかる。
そうだろうな。
さっき言ってたもの。
純粋なダメージ表記なら蚊に刺されたようなものだろうし。
でも、戦いは威力だけじゃない。ダメージだけじゃない。タコさんがそう言っていた。
「ダメージなんか期待してないよ。君の機動力を奪うだけ」
深く突き刺してグリッと回して、捻じ切るように引き抜く。
赤鬼と化したCアリスが右手で俺の頭にハンマーパンチを放ってきたけど、もうその時には俺は剣を引き抜いて逃げていた。タン、タンと二歩背後に飛ぶだけで、もう二〇メートルほど離れることができた。
「この……あれ?」
Cアリスが右足で踏ん張ろうとした矢先、ガクンと体が落ちて膝をついた。突き刺した右膝からブシューッと血が噴き出るエフェクトが出現した。
「何で!? あ、足が言うことをきかない!?」
「リアルトレースボーナスは部位破壊にも適用されるって聞いた。つまりちゃんと骨を断てばそういうフィードバックがいくって事だ」
「こんな傷! すぐ治せる!」
Cアリスが右手に緑色の光を宿す。回復スキルだろうか。回復スキルを持つのはミルクさんの【ホルスタイン】とか、【チキン】系統のエッグポーション生成しかない。あとはモンスターがやってくるだけだ。
「そんな暇あるの? 俺の背後のウサギ達が見えない?」
その場に伏せる。すぐにCアリスの歪んだ顔が見えた。
「「「ギギィィー!!」」」
踏み込んだ瞬間に設置しておいた【捨てがまり兎】たち。俺の意思に呼応したかのようにボウガンを向け、一気にCアリスへと矢を放つ。
シュババババババ!
威力がカンストしたウサギ達の矢が雨あられと降り注ぐ。Cアリスは小さな悲鳴をあげていた。
「こっ、のおおおおお!」
Cアリスがブン、と朱槍を振るった。すると風圧のようなものが発生して、何本かの矢が落ちたり逸れていた。
「ちょっとスキルの使い方が上手だからって! 小賢しいことばっかり! 一気に叩き潰して――」
「だから、喋ってる暇は無いと思うよ。それ!」
俺が手にしていたのは【煙幕玉】だ。伏せたまそれを投げると、Cアリスの正面にドワッとスモークが展開した。
「小賢しいわあああああああ!」
バオ!
煙を割って出てきたのはCアリスだった。もう足を治したのか、朱槍を大きく振りかぶってこちらに飛びかかっている。思いっきり叩きつける気だ。
槍の使い方としてどうかと思うけど、意外や意外戦場の長槍は刺すものではなく叩きつけるものらしい。
それを理解しているのかどうなのかはわからないが、Cアリスは思いっきり俺のいた場所を殴りつけようとしていた。
しかし、殴りつける直前でようやく気づいたみたいだ。
「……!???! ウサギさんがいない?」
「残念」
そう声をかけると、アリスは飛び込んだ姿勢のまま声の方、つまりこちらを見ていた。
信じられないという目だったが、俺は何も特別なことはしていない。
スモークが展開するその前から、背後のウサギ達の射撃を邪魔しないようにゴロゴロと横に転がって横に逸れていただけ。Cアリスが飛んでくる【煙幕玉】に気を取られている間にだ。
当然、それだけじゃない。
――カチリ。
Cアリスが踏み込んだちょうどそこの場所に【地雷火】を仕掛けておいた。
それに気づいたのか、慌ててたたらを踏んでいたが――もう遅い。地雷は足を離した瞬間起動する。
――轟音。
ウサギたちもひっくり返る衝撃。
一個だけ仕掛けただけなのに、チートの前の何十倍もの威力だ。
「ぎゃあああああああ!」
吹っ飛ぶCアリス。すぐに飛んだからだろうか、思ったよりも軽傷に見える。ただそれでも地雷を踏んだのだ。足にはまたダメージが蓄積しただろう。
ドシャ、と頭から落ちるCアリス。ムクリと起き上がった彼女の顔は怒りに歪んでいた。シシマロの顔でそれをやられるとなんかムカムカしてくる。
「小賢しいわ。小賢しい小賢しい小賢しい! ズルいわ卑怯だわ!」
「その言葉そっくり返すよ。そしてよーくわかった。君、製作者の性格そのまんまだね」
「何を――」
「高いところ、安全地帯からやっかみ入れて。ゲームも自分に合わなかったらクソゲーと評価して徹底的に攻撃する。相手が強かったらチートだなんだって騒ぎ立てて粘着するタイプ。そういう意思がそのまんま反映されてる。だからそんな言葉が出るんだよ」
「うるさいうるさいうるさい! こんなの楽しくない!」
「ほら見たことか」
「――ククク」
「???」
「なぁーんてね! あは。あははははは! おバカなウサギさん!」
今まで苦しんでいたのが嘘のようにして立ち上がるCアリス。見ると削られていたダメージがギューンと回復していた。
チート能力。
いや、俺たちの力を対比して平等と見立てた裏技と言うべきか。
自分の有利を棚の上において、単に闘争というところだけ切り取ってズルいと平等を強いる。
こういうのなんて言うか知ってる?
クソガキ、だ。
「ここは私のワンダーランドなの! 世界のルールには従うわ。ええ。でもね、私が勝ちたいとそう思うまでずっとゲームを続けることはできるの!」
「言ってる事メチャクチャだけど……永遠に楽しみたいってそういうことか」
「私は永遠に倒されることも楽しい。永遠に戦うのも楽しい! でもウサギさんはどうかしら。ニンゲンさんはそこまで魂がタフかしら?」
装備を『物干し竿』に切り替えて、切先を高く天に向けた、その時だった。
「――そんな事はさせないさ」
割って入ってきたのは谷崎さんだった。
―――――――――兎―――――――――
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―――――――――兎―――――――――
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