第21話 ダンジョンからの呼び声

 バシュバシュバシュ!


 振り向くとゴブリン達が飛びかかろうとして撃ち落とされている。多分シシマロの精神力が回復したからだろう。このゲーム、ガチ凹みしてる人には攻撃しないものね。


 この【捨てがまり兎】たちは本当にいいスキルだと思う。囮のくせに全く動かないというのはあるのだけれども、いわゆる固定砲台のように攻撃を仕掛けてくれるし、こうしてセンサーの役割も果たしてくれる。スキルエネルギーが割高だけどそこは目をつむろう。


「ほらほら立って。今日は二階の中くらいまで行こうよ。確か双剣のレジェンダリー武器落とす狼みたいなのいるからさ」

「うん! よーしやる気出てきたぞぉぉ」


 がおー、とばかりに【覇気の咆哮】を展開するシシマロ。黄金の闘気を纏って浮き足立つゴブリン達の群れに突撃していった。


「おりゃリャリャりゃりゃリャりゃりゃー!」


 おおすげえ、もうここのゴブリンは完全に制圧できるみたいだ。


 スパパパンとゴブリン達が細切れにされていく。


 レベル50から51に変わっただけなのだけれども、どうやらヘルモードからの能力上昇率はかなり高いらしい。このままレベルが60になっちゃったなら、俺なんか太刀打ちできないほどに攻撃力が上がるのかも。【ライオン】系統ってそういう才能タレントだしね。


「援護に徹するか。頑張れーシシマロー!」

「はーい!」


 元気な声が返ってきた。スパンスパンとゴブリン達の腕や足が飛んでるけどゲームだと割り切っておこう。





 ――クスクス。


 ――クスクスクス。


 ――面白い。


 ――ニンゲンって、おもしろーい!




「!?」


 あれ?


 今何か聞こえてきたか?


 ……気のせいかな……?


 何か今、やたらと可愛い女の子の声が聞こえてきたような、そうでないような。


 うーむ。


 これはアレだな。疲れだ。


 アケビさんとレモンさんのせいにしておこう。


 さてさて、そんな事より推しを支援しないと。


 ぐるりと周囲を観察。地下一階は壊れた地下鉄のホームだ。モンスターがポップしてくるのはフィールド上にある不自然な穴だとか、ホーム中ほどにある駅員用通路の扉とかそういうところだ。


 とりあえず目につくところに【地雷火】を埋めておく。スキルを使うとA3サイズのコピー紙の束くらいの大きさの桐の箱が出現して、設置すると地面に浸透する。


 名前の由来を調べた時に知ったけど、現実にあった【地雷火】は電気で通電するタイプのものらしいね。このゲームだとごく一般的な踏んで爆裂する感圧式になっている。ここら辺はお約束なんだなと思った。


 こそこそと敵がポップしそうなところに地雷を埋め込んで振り向くと、もうシシマロがゴブリンを全滅させていた。


「あらら。もう倒しちゃったんだ」

「……凄いねヘルモードからのレベルって。全然火力が違う。こんなのノーマルモードに行ったら豆腐でも切る感じになりそう」

「かもしれないね……」



<第二波襲来>



 目の前にかっこいいエフェクトの文字がフワリと現れては消える。これはこのゲーム特有の演出。設定的には身につけた【ビーストアイズ】が警告を発している、というものらしい。

 

 カチッ。


 ドゴン!


「師匠次が――あれ?」

「地雷仕掛けておいたよ。敵がPOPするところにね」


 カチッカチッカチッカチッ!


 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!


「全部引っかかってるな。一掃できて楽だ」

「……師匠、ポップする場所全部把握しているの?」

「ここら辺は何となくね」


 すると「すごーい!」とシシマロ。彼女の動画のコメント欄にも「ヤバすぎ」の文字。


 客観的に見ればそうかもしれないけど、俺はこうでしか戦えなかったんだって。


「ずっと潜ってたしなあ。それに【ラビット】系統は地雷が強いから、こんな感じで効率的にレベル上げする事もできるんだよ。あんまりオススメはしないけどね」

「何で?」

「これ、味方も巻き込まれるんだ。もちろん自分もね」


 地雷はレモンさん戦で見せた通り、これだけはフレンドリーファイアがオンになる。パーティー戦で下手に使おうものならたちまちPKプレイヤーキラー扱いになり、ローグつまり悪党の認定を受けてしまう。


 こうすると階層に入った途端他のプレイヤーに「ローグがいるぞ!」とアナウンスが入ったり、負けたら装備品をひん剥かれるというデメリットがある。


 逆に言えばローグになるとPKするたびに経験値や装備品を奪えるということだから、ゲーム的には良し悪しがあるのだけれども、私怨で炎上したり特定されてしまうからやめておいた方がいい。


「はえー。トラップ仕掛ける才能タレントは大変だ。私はあんまりそういうのよく解らないから突っ込んじゃうんだけど」

「……乱戦に突っ込むって言うのもそれなりに戦いの空気を読んだり、スキルエネルギー管理をしてるはずなんだけどね」


 というと、いひひと笑うだけで何も言わないシシマロ。


 これはアレか。


 そういう猫を被ってんだからその先は言うなよっていう笑顔か。


 それとも単純に褒められたと捉えてニコニコしているのか。


 この推しは本当によくわからない。


 近くにいても全くだ。


 そんな彼女にどんどん惹かれているのが自分でもわかる。


 なんだか、イジワルをしたくなるくらい。そういう気持ちは小学生の頃に置いてきたはずなんだけどな。


 そうだ。


 ならさっきの声の事でも聞いてみようか。多分気のせいだとは思うんだけど、彼女がどんな反応を示すのか気になる。


「ねえそれよりさ、今何か女の子の声聞こえなかった?」

「え゛」

「何かニンゲン面白いだかなんだかって」

「い、いや。そんなのは。皆、今何か聞こえてた?」


 と聞くと、コメント欄は「いや全く」「突然のホラー怖い」「師匠霊感持ちか!?」というのがダーッと流れている。君たちノリいいな。嘘乙とか書かないんだ。


「師匠……あの、私ちょっとそういうの苦手で」

「シシマロ幽霊苦手なんだ。ゴースト系とかどうやって対処してたんだ?」

「作り物なら別に大丈夫だよ! で、でもちょっとマジのやつは」

「マジって。ここフルダイブ型の仮想世界だよ?」

「いや師匠、こういう世界はどこかで霊界とつながってるとか、別の精神世界に繋がってるとかよく聞くし」


 ありそうで無さそうなラインが絶妙なのがまた面白い。


 本当に怖がりならちょっと気の毒にも思えたけれど、この口ぶりから察した。


「君、実はホラーとか超常現象とか好きだろ」


 というと、ボッとシシマロの顔が赤くなった。か、可愛い。なんつう反応するんだこの子は。

 

「好きくないもん!」

「月刊ムーとか購読してそう」

「!! なんでそれを!? 師匠、ま、ままままさか!」

「念の為にも言うし誤解を招かないように言うけど君の家にも行ったこともないし部屋にも入った事ないからね」


 ここはけっこうデリケートなところだ。まさか俺たちが寮生活みたいな事をしているとは思うまい。それを匂わせて視聴者にバレたら多分荒れる。


[GJハルトくん。そういうところの気遣いがとにかく大切だからね]


 茜さんも大変だ。多分ピー音を差し込むボタンから手を離せないんだろう。お疲れ様です。



 ――クスクス。


 ――クスクス。



「あ、ほらまた」

「き、ききききっ! 聞こえた。聞こえた!」


 途端に背筋を曲げて周囲を見回すシシマロ。うわ初めて見た。シシマロが怖がる姿。てか本当にこういうの苦手なんだ。


 俺も苦手と言えば苦手なんだけど、今は推しが目の前にいるし。シシマロの前では堂々としていたいしなぁ、と。


「何だろな。ちょっと確認してみない?」

「師匠それフラグ! や、やだー!」

「何を今更。このダンジョン自体がある意味超常現象の塊みたいなもんじゃないか」

「それはそうだけどぉ!」

「もしかしたら突発イベントなのかもしれないよ。ヘルモードの」


 時々このダンジョンの中では突発イベントというものが発生する。例えばNPCが救難信号を送ってきて駆けつけてみたら人型モンスターの作った檻に入れられてるとか。NPCの調査隊や輸送隊が襲われてるとかだ。


 俺はここに来て見たことがなかったけど、シシマロに出会ったあたりから見るようになった。多分シシマロがヘルモードに到達した時点で公式がその機能をオンにしたんだろう。


「うぅ……社長が行けって言ってるぅ」

「俺がいるから大丈夫だって」

「う、ううー。うううー! 師匠守ってよね。ホントにこういうの苦手なんだから」

「あのー、君、この世界でものすんごいダメージ叩き出す超攻撃的プレイヤーだよね?」

「今は関係ないもん! 瞬間的ならチェストに負けるもん!」

「ライオンがウサギに守れって言うのもどうなんだろうな」


 と言うわけで探索開始。


 鬼が出るか蛇が出るか。動画的に面白ければなんでもいいや。




―――――――――兎―――――――――

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