第48話
俺たちは日々蓮見町近辺の海の生態調査を行なっていた。海底火山の噴火後に海の生態系は大きく変化している。
俺たちは生態調査と同時に蓮見町のシーラカンスについても調査を進めた。
しかし、シーラカンスについては一向に見つけることはできなかった。
ただ、それでも故郷で研究に明け暮れる日々は充足していた。
過去の後悔は常に付きまとってはいたけど、それでも調査に打ち込んでいるときは昔のことを考えずにいられた。
しかし、それも許されないのだと知った。
調査からの帰り道、俺と泉は旧国道沿いを歩いていた。
夕日が海の向こうに沈んでいくのを見た。
俺は不意にあの日のことを思い出す。小金井と海岸を歩いた日のことだ。
俺は泉に言う。
「昔、小金井と一緒にいた時、目の前で事故が起きた」
泉は海の方を見ていた。
「どんな事故?」
「バイクの事故覚えてない?」
「そんなのあったっけ?」
「あった」
泉は僕の少し前を歩く。
「うーん、思い出せない」
「まあ、あの時、泉は大変だったから、それどころじゃなかったのかも。でも、あったんだ。そこで、バイクが凄いお――」
夕焼け空の下で泉が振り返る。その姿がぼやける。白い靄が彼女の肩に見える。
するとそこには確かに小金井の姿があった。
俺は思わず息を呑んだ。
「何で……」
辺りは一変していた。街灯も道路も海岸も全てがあの夏の光景になった。荒れ果てていたはずの大地には民家が立ち並ぶ。
「これ君には見えない?」
その言葉は小金井の言葉だった。
そこにはあの夏の光景があった。街灯の下に小金井とライダーの死体。
「小金井……」
思わず、彼女の名前を呼ぶ。けれど、返事はなかった。
「ハル?」
不意に目の前に泉が現れる。
「俺、何してた?」
「急にぼーっとして、ハヤちゃんの名前を呼んでた」
俺は何が起こったのかわからなかった。
「……おかしいな」
「ハル、大丈夫?」
俺は「大丈夫」と頷いた。
しかし、それからしばしば俺は訳のわからない白昼夢を見るようになった。ある時にはかつての自宅、ある時には学校の光景、過去の記憶が現実に映し出されたようだった。
原因はわからないけど、小金井が言っていたことを思い出す。小金井は訳のわからないものを時折見ると言っていた。これもシラズ蛙が影響しているのだろうか。
その症状は徐々に悪化していった。
現実と幻覚が徐々に分からなくなっていく。俺は泉のことも認識できなくなった。
そして、俺はあの夏を繰り返した。
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