第3話

 世界には生きた化石と呼ばれる生物が多数存在している。シーラカンスもその一つだ。


 シーラカンスという生物はかつて恐竜やその他の生物同様、絶滅したと思われていた。


 しかし、1938年に南アフリカ北東の港町で一人の女性が奇妙な形の魚を発見する。体表は鮮やかな青色をし、大きなうろこと根元の太いひれを持つ魚、それが現生のシーラカンス目の一種ラティメリア・カルムナエだった。


 その後、1997年にはインドネシアで異なる種のシーラカンス目の魚が発見され、シーラカンスは絶滅していなかったということが広く知られることとなった。


 僕が住んでいる蓮見町には現生のシーラカンスが発見されるよりも以前からシーラカンスの目撃談が存在している。もちろん、シーラカンスという名前が伝わったのはここ数十年の間の話だから、実際にはシーラカンスらしき魚と言ったほうが正確かもしれない。


 江戸時代末期、一人の漁師が一匹の巨大な魚を網にかけた。体表は黒く灰色の斑点はんてんがあり、鰭は根元が太く長い。特に胸鰭は人の腕のように長く奇妙な形をしていたと言う。これが本当の話なのかはわからない。ここ数十年のうちに蓮見町近辺の海では生態調査が進められているが、現段階でシーラカンスらしき魚は発見されていない。


 だから、この話は滋賀の人魚伝説や猿ヶ石川さるがいしがわの河童伝説のたぐいと何も変わらない。今ではほとんどの人が信じていないし、話す人もいない。


 しかし、僕はこの話が単なる言い伝えや伝説とは違うと思っている。この世界には未発見の生物が多く存在しているのだから、この海にも未だ確認されていない生物がいたとしても不思議ではないのだ。

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