第35話
それから僕と泉は市の総合病院に搬送されたらしい。幸いなことに泉の服用した薬の影響もそれほど重くはなかった。
学校を終えて夕方に小金井が病室を訪ねてきた。
「元気そうで良かった」
「内臓は傷つけてなかったらしいから」
「良かった」
小金井は深く息を吸った。
「神父さんは?」
数瞬、間を置いて小金井は答える。
「亡くなったそうよ」
「そう、だよね」
病室の窓からは大きなイチョウの木が見える。僕はそれを見ていた。
「ねえ、どうして教会に泉さんがいるってわかったの?」
僕は小金井の方に視線を戻す。
ベッド横の棚の上には花が飾られている。それは赤く綺麗な花だったが名前は思い出せない。
「西海が教えてくれたんだよ」
「どうして司が……」
「西海もあの教会に通っていたみたいだよ。それであの日の前日、泉を教会で見たって聞いて」
小金井は薄く笑みを浮かべる。
「そう、だったのね」
小金井は窓際に立って外を眺めた。
「今回ばかりは西海に助けられた。あと、最後に小金井さんに謝っといてって言われた」
「そう」
小金井は窓の外を見つめたままだった。
「それよりも泉は大丈夫? シラズ蛙は?」
「もう、心配ないと思う」
「どうして?」
「もう泉さんには憑いていないから」
僕は肩の力が抜けたような気がする。
「あの日、近江君が教会に入っていく時、泉さんからアレが離れていくのを見た。それで──」
「それで?」
「ううん、何でもない」
小金井はそれ以上のことは言わなかった。
最後に神父は神は居られたと言った。神父にも泉から離れていくシラズ蛙の姿が見えていたのだろう。神父も結局のところ泉を救いたかっただけなのかもしれない。
「でも、どうしてアレはいなくなったんだろうね」
小金井は俯いて「わからない」と言った。
それ以上、僕らはシラズ蛙について話をしなかった。
それから他愛ない話をして小金井は病室を後にした。
僕は再び窓の外のイチョウの木を見た。葉がわずかに黄色くなっているような気がしたが気のせいだろうと思った。せめて終業式には出たいと考えていたが難しいことはわかっていた。
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