エピローグ

 砂浜を歩く娘の後ろを俺たちは歩いた。娘は今年で七つになる。


 七月の終わりの海は俺の心に暗い影を落とすと同時に懐かしさを感じさせる。


「こら、一人で行かない」


 由紀は娘を追って走っていく。


「ハルも、早く来なよ!」


 波打ち際で由紀がこちらに向かって手招きをしている。


 今日は雲一つない快晴だった。


 俺は手を上げて二人の後を追った。


 あの夏からもうずいぶん長い時間が経っていた。人の死は突然訪れるものだ。俺たちに後どれくらいの時が残されているのかなんてわからないけど、俺は娘のために多くのことを残していきたいと思う。


「おとうさん!」


 娘は笑顔でこちらに走ってきた。


 砂浜には他にも親子連れの人がちいる。


 俺は娘を抱きかかえて言う。


「この海には不思議なことがいっぱいあるんだよ」


 娘は首を傾げる。


「ふしぎ? どんなの?」


「そうだね。たとえば、シーラカンスっていう魚は知っているだろう?」


 娘は「うん!」と頷いた。


 それから俺が話を続けようとすると娘は別の方向を指さした。


「あれもうみのふしぎ?」


 娘の指差す方向には砂で遊ぶ親子の姿があった。


「どれ?」


 俺が訊くと娘は「あれ!」と言う。


「あの白いの!」


 俺は親子の方を見たけど、白いものなんてどこにもなかった。


「おくちがまっかなの!」


 娘は笑いながら言った。


 俺はただ親子の方を呆然と見つめていた。


 遠くでウミネコの鳴き声を聞いた気がする。

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シーラカンスの夢 大狼 芥磨 @keima_ogami

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