第13話
ショッピングモールのガラス戸に映る自身の顔を見た。フグみたいに頬が晴れてひどい顔だった。
僕と近江、泉はショッピングモール内のベンチに腰掛けた。小金井は近くの店でタオルを買ってきてくれた。
初めは救急車を呼ぶかと言う話もあったが僕が拒否した。そこまで大事にはしたくなかった。それに僕は病院がとても嫌いだった。
それに怪我も口の中を切ったのと頬が腫れているくらいでそれほどひどくなかった。
ショッピングモールの中は依然として静かだった。
「小金井さん、連れってあいつのことでしょ? 西海と付き合ってるんじゃないの?」
泉が静かな、しかし低い声で言う。
「それなのに何でハルにちょっかい出すの?」
小金井は泉のほうを見ずに答える。
「確かに一緒に来たのは司だけど、別に司とは付き合ってるとかじゃない」
泉の声は徐々に強さを増す。
「じゃあ、何でハルが殴られなきゃいけないの⁉︎」
「泉ちょい落ち着いて」
「亮太は黙ってて!」
泉は叫ぶ。
「私にはわからない。司が何でそんなことするのか。私は司じゃないから」
「何がわからないの! あいつ、ハルにあんたにちょっかい出すなって言ったのよ。それで関係ないなんて言える⁉︎」
泉が小金井の腕を摑んで、それを近江が止めに入る。
「泉落ち着けよ。がねっさんに言ってもしょうがないじゃんか」
近江が言うと泉は小金井から手を離し、唇を噛んだ。
僕はその様子を見ていることしかできなかった。全身がだるくて身体を動かすことも億劫だった。
「私は司じゃないの! だから、司のことなんて」
小金井はそれだけ言って俯いてしまう。
それきり四人の間に会話はなく僕は小金井がモール内の薬局で買ってきてくれた湿布を頬に貼ってベンチに横になっていた。
「それじゃあ、私は帰る……ごめんなさい」
小金井はそう言い残して、その場を後にした。
僕は湿気のせいか息苦しさを感じた。
小金井が去ってからも僕らは一言も発さず、しばらく休んでから帰路に着いた。
帰る頃には雨は止んでわずかに晴れ間が見え始めていた。
電車の中で僕は眠ってしまったけど、近江だけは起きていたようだった。
近江が降りる駅で僕を起こして言った。
「まっちゃん、今日はごめんな」
どうして近江が謝ったのか僕にはわからなかった。僕は何の言葉も返すことができず離れていく二人の背中を呆然と眺めた。
泉は終始無言で近江よりも先に電車を降りた。
電車の中は僕一人になった。この時間に乗客が一人もいないというのは珍しいことだった。
僕は世界に一人だけ取り残されてしまったような孤独を感じた。全身が軋むように重い、口はいまだに血の味がする。
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