バレた

「おはよ、キャロル。どうしたの朝から?」


 玄関を開け、目線を下げる。この時間の空より薄い色の瞳をかっぴらいて、キャロルは家の奥へ首を伸ばした。


「ほらやっぱり!」

「なにが」


 というか挨拶は? いつもはきちんとしてるでしょ君は。


「昨日の! い……ぐる? て奴! もういると思ったんだ!」

「はあ?」


 それで奥を覗いてたの?


「ハナ騙されんなよ?! 男はみんな狼だって母さん言ってたからな!」

「それだとキャロルも狼だけど?」

「ぐっ……」


 ほんとどうしたんだ。


「……キャロル、一人で来たの? お店……クレイグさん達には何か言ってきた?」


 ぷいっと横を向いて、キャロルはぼそぼそと喋り出す。


「……朝休憩の時間だから、別に問題ない……父さん達にはハナんとこ行くって……ちゃんと言ってきたし……」

「そっか」

「昨日あんなんだったし……あのあと話せなかったし……いぐ……あのなんかキラキラしたやつを、確認しときたかっただけだし……」

「そっかあ」


 ざっくり言えば、心配して来てくれた訳か。


「……なっなんだよ?! 何にやついてんだよ?!」

「え? おお、ごめん」


 嬉しさと可愛らしさをね、噛みしめる気持ちが出てしまったよ。


「ハナ?」

「あ!」

「イグル様」


 いつの間に後ろに。


「おはよ、キャロル」


 イグル様のその微笑みは、いつも通り美し……なんか見慣れてきた気もするな。大丈夫か、私。


「は……?」


 そんなイグル様を見てキャロルは固まっ……ぁあ?!


「なんでそのまま出てきてるんですかイグル様?!」

「ん? ……あ」


 あ、じゃない! その頭の上の耳をぴこぴこさせない!


「な……なんっ……?!」

「はっ!」


 キャロルひとに見られた。やばい。


「立ち話もなんだから中入ろうかキャロル!」

「は?! ……おわっんぶっ?!」


 キャロルを引き寄せ玄関を閉める。素早く、けれど丁寧に。


「……ふぅ」


 うん、それなりに的確な判断と行動をとれたよ。多分。


「ぅんん?! ……っ! ……?!」

「……ねぇ」

「はい?」

「キャロル、それ、大丈夫?」


 それ。引き寄せた時に、口をふさぐ意味もかねて胸に抱き込んだキャロルは……


「…………」


 抵抗もせずに小刻みに震えていた。


「キャロル?! ごめん大丈夫?!」


 息が?! 出来てない?!


「っ…………」


 抑えつけてた頭から手を離す。キャロルは少しふらついて、でもしっかりと自分の足で立った。


「……あのさ、キャロル。突然の事でびっくりしたと思うんだけど……」

「……」


 うつむいて動かないんだけど、これは大丈夫なのか?


「……キャロルー? 聞こえてるー……?」

「意識が、あっちこっちいっちゃってるみたい」


 そんな事分かるんですかイグル様。


「よ、よーしキャロル座ろっか。座って落ち着こうか。私達も朝ご飯食べてたし」


 軽く手を引く。


「……」


 動かない。


「……はい、じゃ、失礼しまーす」


 脇に手を差し込んで、キャロルを持ち上げる。



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