「……抜けられた……!」


 踏み固められた道! 開けた視界!

 しかも結構綺麗に整備されてるってことは、頻繁に人が通ってる道だ!


「ハナ、頑丈だね」

「え?」

「ここまでバテずに来れるなんて。途中で休むって言うかと思ってた」

「あ、そうだった」


 あのまま休憩しないまま下りきっちゃったな。ついて行くのに必死で忘れてた。


「君は強いウィルジーなの?」

「いやあ強くはないかと…………あ゛っ!!」


 やっっっばい! もう一つ思い出した!


「イグル様! 私、焚き火の始末しないで来ちゃいました! 戻らないと火事になっちゃう!」

「ん? 火? 湖が呑み込んでくれるから大丈夫だよ?」


 ……呑み込む?


「あそこのはキレイ好きだから」

「えー……と、火事にはならないってことですか?」

「うん」

「良かったあ!」


 でも次はちゃんと気を付けよう、うん。


「それで、ヴリコードっていう所に帰るんだよね? どういく?」

「そうですね、近くの集落に行くか旅の人に道を聞いて、ヴリコードとの位置関係を把握して、あと多分お金が必要なので…………」


 首を傾げるイグル様にそう言って、私は上着のポケットに手を──


「あの、イグル様」

「ん」

「手を、離して頂いても……?」


 しっかりと握られた右手を軽く振る。物は右ポケットにあるもんで、右手使いたい。


「んー……」


 山を降りた勢いのまま、繋ぎっぱなしで忘れてたなあ。あれ、そういえば最初は腕掴まれてたっけ?


「はい」

「はい、ありがとうございます」


 離された手を改めてポケットに突っ込む。

 割れてないと良いけど……。


「これなんですけど。質屋とか、行商人の人とかなら換金してくれると思うんです」


 掴んだ物を、イグル様に見せるように掌に乗せ、差し出す。


「ああ、これ」


 小指の先ほどの大きさの、無色透明な六角柱と赤くて多分三十六面の石。それぞれ二つずつ。……良かった、どれも綺麗なままだ。


「この水晶と柘榴石、昨日迷ってる時に偶然見つけたんです。宝石類はいつでも人気だから、それなりのお値段には、なり……そう…………」


 待って。これ精霊様の山から採ったってこと?


「ハナ?」

「……あの、これ、お返しした方が良いですか……? 知らずとも、精霊様のお住まいから採ってしまって」


 下手すれば罰当たる?


「そう? この石たち、どいつも居心地良さそうだけど」


 イグル様は少し前屈みになって、顔を寄せるように手の中の石を見つめながらそう言った。

 耳も石に向かって立てている。


「居心地?」

「うん。君と行くために来たんじゃない? そもそも、会いたくない奴には姿を見せない奴らだもの」


 まさかの運命的な出会いだった?


「……出会ってくれてありがとうございます?」


 あっイグル様今笑いましたね?!


「まあ、取りあえず資金面もこんな感じとして」


 若干手放しづらくなった気もするけど。

 イグル様が顔を上げたので、石をポケットに戻して話を続ける。


「なんにしろ今は人と出会わないとです。さてどっちに進みましょうか……」


 目の前の道は一本道。

 どちらも結構先まで続いてるけど、人や建物らしき影は見えないなぁ。


「……あっちから、わさわさ聞こえるけど」


 道の右の方を見つめ、イグル様が呟く。


「わさわさ?」

「足音と、木の音と、あと、声とか」

「えっほんとですか!」


 人! かな? 木の音は……もしかして、馬車?


「やったあ! これでお話が聞ければ、見通しが立ちます! たぶん!」


 お、私にも聞こえてきた! とっても小さいけど…………歌?

 低くて澄んだ歌声が近付くにつれ、少しずつ重なるように高い声がひとつ、ふたつ……。あわせて、馬車っぽいガタゴト音も聞こえてくる。


「イグル様、これ、英雄様の歌ですよ」

「えいゆうさま?」

「はい。これを歌ってるってことは、イザフォロイズ──うちの国の人かも知れません!」



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