男はみんな狼(二回目)

「……は、っ?!」


 お、反応があった。


「よしこのままキッチンに行くからねー」


 抱き上げて歩き出す。


「やっいや……お、降ろせ?!」

「まーまー。すぐだから」


 暴れても全然痛くないからね。無駄な抵抗はやめるんだ。


「……いいな……」

「あー……と」


 イグル様がすっごい物欲しそうな目で見てくる。


「えー……イグル様は……」

「だめ! てか降ろせってば!」


 しゅん、とイグル様の耳が垂れた。尻尾も心なしか下がったような。


「だめ……?」


 だからなんで上目遣いされてる気分になるんだろうな。イグル様そっちのが背が高いんだけど。


「だめだっつってんだろ!」

「どうしても?」


 そんでなんで二人で会話を進めるの……。

 どっちにしろそれを決めるのは私なんですけど?


「どうっ……や、やっぱりお前ハナに……!」

「はい着いた! 話はいったん終わり!」

「おうっ?!」


 キャロルを私の席に下ろし、テーブルのサンドイッチを掴む。そして、


「はいこれ食べて!」


 開いたままの口に突っ込む!


「んむ゙!」

「んー美味しいよねーなんてったってキャロルん家のバゲットだもんね? ……それで」


 口から落とさないようにバゲットそれをキャロルに持たせ、その手を包む。強引でごめん。


「今見たコトは、内緒にして?」


 キャロルに笑いかける。目を白黒させてるけど、口はむぐむぐと動く。


「うん、色々言いたいのは分かる。よっく分かる。でもイグル様は……」


 イグル様を見ると、自分のハムサンドを持って私の横に来るところで。


「はい」


 かがんで目線を合わせ、それを差し出してきた。


「……はい?」

「ハナの分。減っちゃったから」


 ハムサンドをずいっと前に出し、イグル様はにこっと笑う。


「あ、はあ、はい……」


 気が抜ける……。


「えっと、じゃあ……お皿の上に置いといて下さい……」

「このまま食べていいよ?」


 なにゆえ。


「キャロルにしてるみたいに」


 えっそれ見てたから? 同じように動こうと?


「いえ、あのですねイグル様」

「っばっ! ……んぐ、せっ精霊様だからって何しても良いと思うなよ?!」


 キャロルがハムサンドを噛み千切り、反動でそれを外す。そして飲み込み、勢い込んで叫んだ。


「キャロル?!」


 イグル様に気がいって、手の力が緩んでた!


「ハナもこう、なんかこう……良いように使われ? んなよ!」

「キャロル!」


 ああもう! 完全に誤解させちゃってる!


「キャロル」


 と、イグル様が、呟くようにキャロルの名を呼んだ。


「なんだよ?!」

「ハナが、とっても大切なんだね」


 イグル様が微笑む。キャロルはこれでもかと目を丸くした。


「……なっ……ばっ?!」

「でもね、ぼくは、ハナを良いように使うとか、してないよ」


 イグル様は首を振り、私へ顔を向ける。


「ぼくもハナのこと好きだもの。ウィルジーのこと、沢山教えてくれるし。ね?」


 いや、ね? って言われましても。


「は、す…………やっぱりそうなんじゃねえか!」


 食べかけのハムサンドを、それでもそっとお皿に置いて、キャロルはイグル様を睨んだ。


「ちょっ、キャロル?! ……へっ」


 肩をがしっと掴まれ、今度は私に向き直る。


「ハナ!」

「はい?!」

「騙されんなよ?! 男はみんな狼だって母さんから聞いてんだ!」


 ……あー、えーと。


「……うん、ありがとう……」


 心配してくれるのは嬉しいんだけど……


「分かってんのか?!」

「うん、はい……」


 それを言ったら、キャロルも狼になっちゃうよって……さっきも言ったね……? いいの?



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