仲良く

 イグル様と場所を入れ替わり、櫛を通される。


「エリンは、どんな芸をするの?」


 イグル様、後ろに回ったのか。


「いろいろ……おどったり、うたったり、なげたり、なげとばされたり」


 投げ飛ばされたり?


「義父は大技のお手玉をよくするの。そこにエリンも入るのよ」

「なんかいかくるくるまわって、さいごにさんかいてんしてちゃくちするの!」

「はー……それは凄いですね……」


 拍手喝采ものだろうなぁ。


「でもいまはうたうのがいちばんすき! たのしい!」


 歌かあ。


「たちあがったチェシーのあたまのうえで、さかだちするのもすきだけど」


 また大技が。立ち上がったチェシーの頭の上で? 逆立ち?


「エリンちゃん凄いねぇ」

「へへー」


 話しながらも、エリンちゃんの手は止まらない。どんどん編まれていくのが髪から伝わってくる。


「じゃあ、エリンはくうと仲良くなるのがいいかな」

「?」

「くう?」

「そう。いま、周りにあるの。仲良くなるともっと、楽しくうたえるよ」


 周りにある……、空気?


「そうなの?」

「うん。エリンの周り総てに、そのきもちが伝わるように」


 イグル様? まさか、昨日みたいなきらきらカラフルな何かを……?


「まわりすべてに……」


 ……あれ、何も起こらない。思い過ごし?


「わかった! やってみる!」

「うん」

「できた! ハナちゃんどうぞ!」

「あ、はいどうも」


 鏡を渡され覗き込む。


「おお……!」


 主に頭の上半分が編み込まれてる。扱い辛いと言われる私の髪を、良くこれだけ。


「そのかみのこぉいあおね、ひかりにあたるととってもきれいだからそれをいしきしました!」


 また鏡で後ろを見せてくれながらの解説が始まる。


「ばらんすをかんがえて、したはんぶんはあえてそのままにしています。そんなにおおきくないけどおはなもつくって、だんだんにして、どのかくどからみてもきれいなように!」

「ありがとうエリンちゃん。とっても素敵だよ!」

「えへー! イグルさまは? どう? ハナちゃん!」


 エリンちゃんが振り返るのが鏡越しに見える。


「うん。綺麗で、かわいい」


 ふわりと目を細めたイグル様も、鏡越しにばっちり見えた。


「えへっへっへへー!」

「ありがとうエリンちゃん。それじゃイグル様、そろそろ行きましょうか」

「ぅえ?!」


 立ち上がり振り返る。同時にエリンちゃんも、ぐりんっと勢い良くこっちを向いた。


「もういっちゃうの……? まだなんにも、おどりもなにもみてもらってないよ?」

「エリン、ハナさん達は行く所があるのよ。あなたも聞いていたでしょう」

「きいてた……けど……」


 エリンちゃんの視線がどんどん下がってく。


「エリンちゃん、今度の時にいっぱい見せて?」


 鏡を置き、エリンちゃんの手を取る。


「こんど……」

「うん。今は行かなきゃ行けないけど、次は会いに、観に行くよ」

「ほんとに……?」

「本当」


 だめかなあ。エリンちゃんの顔が上がらない。


「エリン、また会えるよ」


 ふわりと、イグル様の手がエリンちゃんの頭に。


「ぼくたちの縁はまた重なる。今度はくうと仲よくなったエリンと会える」

「そうなの……?」

「うん」

「ほんとに?」

「ほんとだよ」


 エリンちゃんの顔が上がる。


「わかった。それまでいっぱいれんしゅうしておきます」


 良かった。涙のお別れにはならないで大丈夫みたい。


「いまのおはなし、ぜったいだよ!」

「うん」

「もちろん!」



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