大衆食堂『マーガレット』

「エルマーさん?! ……もしや私、出禁ですか?!」


 再びドンドコ叩く。少しして、今度は普通に開いた。


「あ……え? クレアさん」


 エルマーじゃなくて、そのお母さんのクレアさんが目の前に。そんでクレアさんはどっしり構えるように立って、腕を組んだ。


「……ハナなんだね?」

「あ、はい! 帰ってきました! 無断欠勤してすむぶぅ!」


 抱きしめられた拍子に噛んだ!


「ああもう! こっちゃ生きた心地がしなかったよ!」

「ごめんなさい……ご心配おかけしました」

「そういうのだけ堅っ苦しいねあんたは!」


 クレアさんは腕をほどいて、私の肩をバンバン叩く。


「さあ、今は忙しいんだ! とっとと厨房入んな!」


 へ


「なんだい挨拶だけしに来たのかい?」

「いや、また働いていいんですか?!」

「良いもなにも、こっちは辞めさす気はないね」


 そう言って、にかっと笑った。


「ぉぉああありがとうございます!」

「さ、早く入んな!」

「はい!」


 やったあ! またここで働ける!


「まず追加の野菜の下拵えと洗い物。覚えてるね?」


 裏に入りながら、クレアさんがそれぞれ指差す。


「はい! ばっちり!」


 私が頷くのを見て、クレアさんはお客さんの対応に戻っていく。


「マシューさん! アランさん! またよろしくお願いします!」


 少し奥の、火の側の二人に声をかける。


「おうよ! どんどんやってくれ!」

「これで少しは休めるかあ?!」


 下拵えはエルマーが今やってる。流しで山となった食器達が動いてない。


「うし!」


 気合いを入れて、袖をまくる。


「エルマー、私食器やってるね!」

「ぅお、おお……」


 イグル様は隙間を見つけて見に行こう。時間かかるって言ってあるし、席につく所まで見たし、多分大丈夫。


「うっそほんとにハナがいる!」


 洗っていたら、ハスキーな声が耳に届いた。


「ベティ」


 大量のお皿追加。ベティは赤茶の髪を振りながら、カウンターからずいっと身を乗り出して、


「ほんとにハナ? まさかまさかで精霊様が化けてたりしない?」

「はおっ?! ふぉ、本人だよ……」


 ちょっとかすってるよベティ怖い。


「だよねー! 今ほんとに精霊様みたいな綺麗なヒトが来ててさ」


 ……それはそれは。


「ベティ! 客が待ってる、早く戻れ!」


 エルマーに言われ、ベティは口をとがらせた。


「へいへい分かってるよ。ハナに会えて嬉しさが込み上げてんの! ちゃんとしますぅ!」


 べっと舌を出して、ベティは戻っていく。


「みんな元気みたいで良かったあ」


 相変わらずの日常の、この心地よさ。


「……ハナ」

「え、なに?」


 エルマーなんか言った? でも騒がしくて上手く聞き取れない。


「あ! こっち一旦区切りつくよ! あとちょっとでそっち行くね!」


 下拵えのことかな? こっちで洗ってばっかじゃ回らないもんね。


「いや、ああ……そうしてくれ」


 え、なに急に元気ないね? しかもまたよく聞こえないし。



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