馬鹿力

 ひっきりなしにお客さんが来る。


 クレアさんとベティは注文を取って食器を下げて料理を運んで会計をする。

 マシューさんとアランさんはどんどん料理を作ってく。

 エルマーと私は雑務をこなし、エルマーは時々料理も作る。


「ハナにまた会えるなんてなあ!」

「無事だったのか?!」

「ハナ坊が元気そうで飯がうまいよ!」


 常連さん達が次々にこっちに顔を出し、


「いつ戻ったんだ?!」

「ハナだー!」

「また畑手伝ってくれ! そこらの奴は貧弱すぎんだ!」


 一言いっては戻ってく。


「はーーーーーーい!!」


 私は剥いた野菜の皮に埋もれながら、それに笑顔と大声で返す。ちょっと雑な返しだけど、忙しいってことで許して。


「剥き終わり! 食器に移ります!」

「そっちは俺やるから追加持ってきてくれ! 減りが早い!」

「わっかりましたー!」


 裏口の戸を開けて倉庫に走る。

 昼のうちからここに来るなんて、お客さんいっぱいだな。いつもの祭りより多いんじゃない?


「本当にいたでしょ! とっても綺麗な人!」


 素早く戸を開けて、足りなくなった野菜達の木箱を四つ抱えた所で、


「悪かったって。こんなんならお昼賭けなきゃ良かったよ。どっからどう見ても美形じゃん」


 そんな会話が薄い壁越しに聞こえた。


「絶対普通の人へいみんじゃないよね、どこかからのお忍びかなあ!」

「ありそう~……もしかして、偶然見初めた人を忘れられず」

「またその人を探しにここまで? あはは!」


 平民に見えない、どっからどう見ても美形の人……。

 その会話は遠くなって、また別の声が近付いてくる。


「旅人だろ? しかもマーガレットの客なんだろ?」

「大通りじゃねえ店に来る観光人やつらは金がない奴だけだろ。新顔ならなおさら」

「いいから入ろうぜ! 女神様みてえだってみんな口をそろえて言ってんだ。どんなもんか気になるだろ!」


 そう言っていた人達も、結局マーガレットに入ったようで。

 えー……と。もしかして、イグル様が客寄せの広告になってる?!


「いやいや、他にもそんな人が来てるかも知れないし」


 もう二つ箱を持つ。これぐらいで足りるかな?


「お待たせ!」

「ちゃんと六つまでにしたろうな!」


 扉を開けた途端、エルマーが上の木箱二つを降ろしにかかる。


「もちろん! その分の場所も確認してるし!」


 その置き場にぱぱっと置いて、面倒なので手でふたを開ける。バキコッと音をさせながら、でもまた使えるように綺麗に外す。


「くそ……お前の馬鹿力はどっから来るんだ」

「どっからだろーねぇー」


 梃子てこの原理でふたを外すエルマーがぶつくさ言う。いつものことだ。


「じゃ、洗いいきまーす」

「おう。それ終わったら一回休めってさ」

「あ、了解」

「休めよ! 休憩だぞ!『じゃあ家の掃除して来ます』じゃねえぞ?!」

「ぅおっおう、はい」


 なんだよう急に。


「心配なら心配って言わなけりゃ伝わんねえぞ、エルマー!」


 マシューさんがこっちに放るように声を上げる。


「なんっ」

「元気なのは良いんだが、何がなんだか色々あったんだろうに、その後も元気なのが心配なのさ」


 両腕いっぱいに食器を持って戻ってきたクレアさんも、続けてそう言った。


「ずっと気ぃ張ってんじゃないかってね」

「あぁー……」


 食器を受け取りながら頷いて。洗い場に持って行きながらまたうんうんと頷く。

 なるほど、なるほど。うん、皆さんがとても優しい。


「分かりました! ちゃんと『休憩』貰いますね! ありがとうございます!」


 なら、これも速攻で終わらせよう。


「エルマーもありがと!」


 洗いながら、下拵えをするエルマーにも言ったら


「は?! っでぇ!」

「え、ごめん」


 エルマーは持っていた芋を取り落とし、それは見事足に当たった。驚かしちゃった。



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