馬車に揺られて 1

「あんたも大変だったな。これがもう少し前の時期だったら凍え死んでるぞ」

「いやーほんと、春先で助かりました」


 乗せて貰った幌の中、私は御者さんのお父さん──ベンさんと話していた。

 御者のフレッドさん達は五人家族で、芸をしながら国内をぐるぐる回っている旅芸人一家だという。

 馬車には旅の荷物の他に、見世物に使う道具も沢山載せられている。


「あの、あの、かみのけさわってもいいですか?」

「いいよ」

「ありがとう!」


 御者台にはフレッドさんとイグル様が座ってる。

 幌の中にはベンさんと奥さんのカミラさん、フレッドさんの奥さんのリリアンさんと娘のエリンちゃん、そして私。ちなみに引いてる馬の名前はチェシー。

 三つ編みを揺らすエリンちゃんはイグル様に興味深々らしく、さっきのように幌から顔を出している。その気持ち、良く分かる。


「気を付けて、引っ張ったりしたら駄目よ」


 リリアンさんは、エリンちゃんが馬車から落ちたりしないようにがっちり支えている。


「ヴリコードの街まで行くんだったか。あてはあるのかい?」


「はい。リベスまで行けてしまえば大丈夫です」


 リベスも大きい街だし、ヴリコードまでは徒歩だとしても三日かからなかったはず。


「それにしても、本職の方だったんですね。英雄様の歌、聞きほれてしまいました」


 いやーでも、ここがどこか分かって安心した。最悪国外、なんて可能性もあった訳だし。

 そう考えるとリベスなんて近所だよ。


「はっはっ! あの歌はあの子が好きなもんでね、ちょうど良いから練習がてら歌ってたのさ」


 エリンちゃんの方を見ながらそう言って、ベンさんはカミラさんの肩を抱く。


「カミラも格別に上手いんだがな、今は喉を痛めててなぁ嬢ちゃんに聴かせたかったよ」


 ありゃ、そうなのか。


「いやだ、ハナちゃんに気を使わせるんじゃないよ。普通に喋るのは大丈夫なんだから」


 カミラさんはにこにこしながらベンさんを軽くはたく。


「できたー!」


 おお? エリンちゃんが何か──


「わあ凄い!」


 見ると、腰ほどまであるイグル様の髪がこれでもかという凝り方で編まれていた。


「でしょ! うまくできたでしょ!」


 エリンちゃんがいっぱいの笑顔でぐるっとこっちを向く。


「イグルさまのかみ、きらっきらのさらっさらだから! きあいはいりました!」


 細い三つ編みと太い三つ編みと、なんか編み方も何種類かあるな。花みたいな飾り編みもされて、それが最終的にひとつになって……。

 もんのすごい芸術品が出来上がってる。


「綺麗! エリンちゃん凄い!」

「えへー!」

「どうなったの? ぼくも見ていい?」



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