馬車に揺られて 2

「うん! もってもへいきだよ、おどりこしようだから!」


 エリンちゃんが毛先を持って、芸術品を前側に回す。

 わぁ……日に当たってより一層煌めきが……まるで光を束ねたみたい……。


「へぇ……すごいね。こんなことしてたんだ」

「うん! あたまもいっぱいね、えーと」

「ほらエリン」


 リリアンさんが脇の箱から取り出した鏡を二枚、エリンちゃんに渡す。


「あ! ありがとうおかあさん! イグルさま、これどうぞ」

「ん?」

「こうすれば、あたまのうしろがみえる!」


 合わせ鏡か。エリンちゃんは鏡の位置を調整して、イグル様の手元の鏡に編み込みが見えるように映す。


「このおはなのあみあみ、とってもじょうずにできたの!」

「うん」

「イグルさまのかみのけ、しろくてつやつやだから、しろばらのおひめさまのいめーじなの!」

「そうなんだ」


 一生懸命に解説するエリンちゃんがとても可愛い……!

 白ばらのお姫様かぁ。あのお話も素敵だよね、最後が悲しいけど。


「いいなーあたしもイグルさまみたいなかみがよかったなー」

「そう? エリンの髪も綺麗だよ」

「ほんと?」

「うん。陽を受けるハイタカの背の色だ」

「かっこいい!」


 ゆっくり穏やかに進む馬車に揺られて、空が淡く染まる頃にリベスの街が見えてきた。


「そろそろだぞー」

「リベスー!」


 わぁっ、と両手を上げてエリンちゃんが立ち上がろうとするのを、リリアンさんが抑える。


「ここまで乗せて頂いて、ありがとうございました」

「こういう時はお互い様だからな」


 にかっと笑うベンさん。カミラさんも頷いて、


「……そういや、今夜はどうするんだい?」

「ああ、宿をとろうかと。ヴリコードに行く準備もしたいですし」

「二人で大丈夫かい? 今夜だけなら、あたしらと一緒の所でも、ねえあんた」


 え、いやそこまでお世話になる訳には。ほら、ベンさんも難しい顔になっちゃったし。


「そうだな、嬢ちゃん達だけだとなんかに巻き込まれちまいそうだしなぁ」


 あれっ受け入れ方面で考えてます?


「私も、その方が安全だと思います。見知らぬ人より、多少でも知った顔がいる方が」


 リリアンさんまで! ……いや、待てよ。


「私はともかく、イグル様は皆さんと一緒の方が安全……?」


 大勢で固まってる方が手は出され難いし。


「ぼくはハナといるよ」

「っ……」


 その良く通る声で急に言わないで下さいびっくりします。


「一緒に行くって言ったよ? ハナ」


 言いました? 夕焼け色のイグル様も綺麗ですね、見返り姿も素敵です。


「嬢ちゃん、俺達のなじみの宿なら安く泊まれる。連れさんも言ってることだし、どうだい?」

「うー……、では……お言葉に、甘えて」


 現状、安く泊まれる宿は魅力的……。


「よし。フレッド! 聞こえたか!」

「聞こえたよ! 了解!」


 フレッドさんの声に被さるように、エリンちゃんがまたわぁっと両手を上げた。


「まだいっしょにいれるの?! やっった!」



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