精霊様に遊ばれる
俺はとんでもないものを見ちまったのかも知れない。
そう言ったら、親父は持っていたジョッキを置いて俺の背中を叩いた。
「フレッド。あの二人が悪党にでも見えるってのか?」
「いや、そうは言ってないけどよ。あの、ハナちゃんの取引は……ただの娘には出来ねえよ」
『変な出所のものじゃないですってば。そりゃこんなに綺麗な形の結晶は貴重だって分かりますけど』
『それが分かってんなら余計危ないだろが。嬢ちゃん、ウチは危なそうなもんは扱わないんだ』
『危なくないのに……こんなに綺麗な三六面で鮮やかな柘榴石、滅多にないですよ? 水晶だって透明度高い上、
『なんでそんなこと分かんだよ。宝石商に行けばいいだろ』
『そんなとこツテがなきゃ無理じゃないですかー。…………では、店主さん』
『なんだ』
『その後ろのオルゴール、とても古いものってさっき言ってましたけど』
『ああ、二百年は前の骨董品だ。精霊様に好かれた職人が手掛けたっつうもんで、今でも動いてんだよ』
『多分、偽物です』
『……なんで分かる?』
『装飾部分の曇りや傷はパーツ毎にわざと細かくつけてますし、均一過ぎます。木も、ただの艶の所と傷とか欠けとかの中の艶がどこも同じようですし。あとはまあ、二百年前にしては装飾がちょっと、近代に寄ってるといいますか』
『……』
『中の機械部分も、そんな感じじゃありません?』
『ちょっと待っててくれ』
『……おい、ハナちゃん。もの持って引っ込んじゃったじゃないか。どうするんだ』
『うーん……ここ、良い物も多くあるので気になってしまって』
『そもそもそんな知識をどこで』
『……嬢ちゃん、どうやらその通りのようだ。俺はお涙話に騙されてたみたいだな』
『合ってました? 良かったです』
『本当か? ジョシュ』
『ああ。俺もまだまだだな。贋作掴まされたなんて、親父にどやされるよ。で、だ』
『何だよ』
『お前じゃねえよ。嬢ちゃん、今の代わりに石を買い取れってことか?』
『少しそんな気持ちもありました!』
『はあ、若いクセに世渡りが上手いな。分かった、一つなら良い』
『えー……一つ見つけたら一つですか?』
『は?』
『ならあと三つ見つければ全部買ってくれます?』
『はあ? おい待て、ウチにまだ偽物があるって?!』
『二つは見つけてるんですけど……』
『はあ?! おい待てそりゃ親父の仕入れのやつだ! フレッド! 一旦嬢ちゃん外出せ!』
「あっはっはっは! ジョシュに追い出された訳か!」
「そのあと呼び戻されて全部確認してたよ。親父さんまで出てきて」
「ジョニーもか! そりゃ凄い! ……で、大丈夫だったのか?」
エールを一口飲み、親父が声を低める。
「大丈夫も何も、きっちり換金したあとに働かないかって言われてたよ」
「あっはっはっはっは!」
聞いた話だから笑えるんだよ。その場にいた俺の身になってみろ。
「いやあ面白い。ところでな、俺も面白い話がある」
親父はにやりとして、もったいぶってから口を開いた。
「お前たちが行ったあとでな、あのキラキラしいにいちゃんから言われたんだよ」
『最近草ばっかりで飽きたって。前に食べた大粒のベリーのジャム? が食べたいってチェシーが言ってたよ』
「…………どういうこった」
「そのまんまだろ。チェシーもグルメになったってことだ」
「いや、だってチェシーは馬だろ。なんで言ってることが分かるんだ」
ベリーのジャムをやったのは前の冬に入ったばかりの頃だ。エリンが直接やりたがって、俺がエリンを持ち上げて少しだけ舐めさせた。
そんな話、移動中はしてないぞ。
「当てずっぽうだと思うか?」
「…………いや……」
エールを飲んでも、さっぱり酔えてる気がしない。
「あの二人は不思議な存在だが、悪い子らじゃない。俺の勘だが確信してる。それにな、人生何度か、精霊様に遊ばれるようなこともあるってもんだ」
親父はまた、俺の背中を叩いた。そろそろ痛い。
「何度かってことは、親父は前にもそういうことがあったのか?」
「いや、これが初めてだ」
「なんなんだよ」
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