月夜に燐めく

「イグル様戻りましたよー」


 質屋さんは話の分かる方でした。よかったよかった。


「良いものが良いぐあいに買えましたよー」


 他のお店の方々も良くしてくれて、ほっくほくですよ。


「イグル様? います?」


 返事がない。鍵は開いている。


「開けますよー?」


 しょうがない、ちょっと荷物多くて大変だけど……。


「よっ……と」


 ゆっくり扉を開けると、薄暗い中にぼうっと光るものが────


「ぃっ……グルさま?」


 発光源はイグル様だった。


「……寝てます?」


 二つあるうちの奥側の、ベッドの上で丸くなってるイグル様。

 窓からそそぐ月の光に照らされて、白……金? の色に淡く光ってる。


「…………きれい……」


 これが、精霊様。人に似た、人ならざる幻想のお方。


「…………ハナ?」


 揺れる睫から光がこぼれる。


「はい、戻りました」

「ん…………ねてた……」


 起き上がるイグル様から離れ、荷物を空いてるベッドに置く。

 灯が欲しいなーもらってこよう。


「あの山からここまで来たんですもん、お疲れなんですよ。ご飯は食べました? 途中で買ったパンが、あるんです、けど…………」

「まだ」

「……イグル様、あの、耳が」

「? ……あ」


 いや、それ以外も、全部。


「元に戻ってる?!」


 神々しさに気をとられて気付かなかった! 人じゃなくなってる!


「大丈夫、気がぬけただけ」


 一瞬でまた人に!


「ね?」


 はにかむイグル様はかわいいなあ!


「いや、えと、その……変身、みたいのは……精霊様のお力ですか……?」


 フレッドさん達と会った時も。


「うん? うん、そんな感じ。みんながやってるのは見てたからできると思って」


 みんな……他の精霊様? できると思って……?


「……もしや、ぶっつけ本番だったんですか?」

「うん」

「わあ!」


 危ない橋を優雅に渡る!


「……今度、何かする時は練習しましょう?」


 首を傾げるイグル様もかわいいな。


「ハナも、一緒にやる?」

「え? うーん、私にも出来ることなら?」

「わかった」


 イグル様はこくりと頷いて、ベッドから降りる。


「パンって、どんな?」


 そこから流れるような動きでこちらのベッドに乗ってきた。イグル様細いから、荷物に埋もれてるみたい。


「ちょっと待って下さいね……プレーンなやつとチーズのやつと……あ、それと、食べ終わったら装備品を合わせますよ」



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