リベスの街

野兎と宿り木

 リベスに着いて、宿まで行って、流れでベンさんに紹介してもらう。


「そんなワケでご新規さん二名だ」

「はいよ、こりゃまた別嬪なご新規さんだね」


 女将さんは腕を組んでこっちを、特にイグル様を見る。

 お宿『野兎と宿り木』。そんなに大きくはないけど、庶民的な値段と女将さんの人となりで人気のお宿だそうで。


「ま、二人なら部屋は開いてるから大丈夫だよ」

「ありがとうございます!」

「……お連れさんは、何をしてるんだい?」

「え?」


 女将さんの視線を辿ると、天井の梁にぶら下がったイグル様が?!


「わあイグル様?! 危ないです!」


 さっきまで隣にいたのにいつの間に?!


「ハナ」


 待ってそんな体勢で手を離すと危な、音も立てずにふわりと着地する……そういうとこ……。


「危ないですイグル様。イグル様自身は大丈夫でも梁が危ないです、壊れちゃいます」


 あれが壊れると大変なんです。じーちゃんの怒りが思い出される。


「この木、あんまり生きてる気がしないんだ」


 そばに行くと、そんなことをぽそりと言われた。生きてる気がしない?


「あ、木材として加工されてるからですよ。木を切って、乾燥させて──じゃないです、女将さんに謝りましょう?」


 イグル様の手をひっぱって、元の位置に戻る。


「すみません、梁は傷ついてないので大丈夫だとは思うんですが」

「……危なかったみたいでごめんなさい」

「まぁ、酔っ払いのケンカに比べりゃ可愛いもんさ。見た目と違ってわんぱくだね、アンタ」


 笑って許してくれる、女将さん良い人。


「さて、部屋は三階の突き当たりが空いてる。食事は出してないが、ここの食堂は朝と晩やってるからね。なにかあったらあたしか、ベンさん達に聞いてくれ」


 今いるここ、一階は外の人も食べれる食堂になってる。ちらほら人がいるテーブル達も、あと少ししたら満席になるんだろう。


「おいおい、俺は従業員じゃないぞ」

「なんだ、あたしより長くここ使ってんじゃないか。それくらい朝飯前だろ」

「まあな。おっ戻ってきた」


 ベンさんにつられて振り向くと、フレッドさんが入ってきた。チェシーの世話が終わったみたい。


「話はまとまったかい?」

「ああ」

「じゃあ行くか」

「はい」


 私はこれから質屋に行って石をお金に変え、そのお金でヴリコードまでの装備や食料や諸々を揃える。やっとここまで来たぜ!

 フレッドさんも前の街のものを換金するというので、一緒に行くことに。カミラさん達はすでに部屋でお休み中。


「じゃあイグル様、先に部屋に行ってて下さいね」


 イグル様には待っていてもらう。

 だって、こんなきらきらした方が街を歩いてたら危ないんだもの。

 髪だって、白ばら姫仕様で煌びやかさが増してるし。案の定、街に入ってから野兎と宿り木にたどり着くまですごい注目を浴びたし。


「……ん……」


 控えめに手を振るイグル様かわいい~。

 さて、出来るだけ高額で換えて、出来るだけ安く多く良質なものを揃えようか!



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