大通り

「で、ここが最初に来た、大通りの入り口です」

「おおどおり」

「はい」


 広くとられた煉瓦の通り。街で一番立派な通りだ。


「まだそんなに人がいないので、敷かれた煉瓦がよく見えますね」


 三人、連れ立って歩きながら説明してく。イグル様は私が示した足元の、その煉瓦を見ながら歩いていく。


「これ、ここを街にする時に敷いたものだそうですよ」

「へえ……」

「だから結構な年代モノなんですが、この装飾とか色とか、全然落ちないんです。割れもしないし」


 様々に焼き染められた煉瓦。動植物が細かく彫られたそれは、もう再現が出来ない。


「そういやそんな事聞いた」

「キャロルは勉強見てもらってたもんね」


 キャロルはじーちゃんの教え子の一人。まあご近所さんの同年代以下は、大体が教え子だけど。


「土……の力、がすこし……」

「もう少し時間も経てば出店も……へ?」


 イグル様?


「火……水……風…………沢山……けど……」


 突然しゃがみ込んで、その装飾を指でなぞる。


「何かありました?」

「どうした?」


 覗き込んでも反応なし。キャロルと顔を見合わせる。


「……どしたん?」

「……さぁ?」


 目を細めるイグル様の、その眼差しは。煉瓦を見ているような……違うような……。


「……へぇ……ハナ」

「はい?」


 顔を上げて、艶やかに微笑んで。


「ここ、面白いね」




「はい! 聖オフェリア教会に到着!」


 街灯の説明をしたり、フラッと出店に引っかかりそうになるイグル様を止めたりしたけど。


「うん」


 あれからイグル様は、興味を引かれてついフラッと、以外にも何だか観察するように街を見て。


「楽しみ。キャロルと行くんだよね」


 にこにこ顔は相変わらずだけど。


「おう。今なら朝中あさなかの鐘を近くで聴けるからな」


 朝中の鐘。朝と昼の間に打つ鐘の音をそう呼ぶ。

 それを聞いてもらうために、一番始めに教会に行く事にしたのだ。広場とかは戻りながら寄れるしね。


「じゃ、行ってらっしゃい。私は近くで待ってるから」


 敷地の中の、聖堂へ伸びる煉瓦の路。そこを行く二人に手を振った。


「うん。行ってきます」

「変なのに引っかかんなよ?」


 変なのとは何かねキャロルや。私もそこまでではないよ?


「分かった分かった。前向いて歩いてね」


 イグル様は大丈夫だろうけど、キャロルが後ろ歩きをするのは危ないよ。


「ホントに分かって、っわぁ!」

「キャロル!」


 転けかけてイグル様に支えられた。良かった、間一髪だよ。


「き、気をつけてねー?!」

「分かってるよ!」

「大丈夫。ぼくもいる」


 イグル様が手をつないでくれたけど、大丈夫かなあ。



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