いざ出発! の前に

「さあ! 準備はいいか!」

「うん」

「ハナは?!」

「いいけど……ホントにもぎ取ってきたんだね……許可……」


 そんなにしないで戻ってきたキャロルは、胸を張って。


「当たり前だ!」


 何をそんなに胸を張って。


「父さんなんか『早く行け』ってせっついたんだからな!」


 うそぉ。


「うん。皆ハナが大好きなんだね」

「そっ……?!」

「はあ、そうですか」


 これは後で、謝罪と説明に行かなきゃだなあ。

 稼ぎ時のこの時期に、人手を減らされるなんて。普通は憤慨するんだよ?


「それで、どこいくの?」


 イグル様は、そう言って首を傾げた。けどその顔は、いまだ楽しそうで。


「そうだ、どんな予定だったんだ?」


 キャロルもこてんと首を傾げる。二人そろって可愛いなあくそう。


「そうですね。街に着いた時に通った大通りを先まで行くと、途中に教会があるんです」


 昨日の、あそこはまだ街の入り口で、すぐに細々した中へ入ってしまった。


「教会……話してた、なんか、キレイな音のする、鐘の?」

「はい。何度か鳴ってたの、聞こえました? あそこへ……」


 行こうかと。思っていたが。


「……キャロル」

「ん?」

「ちょうど良かった頼まれて!」


 そうキャロルがいる! ならイグル様をきちんと案内できる!


「うわあなんだよ?!」

「おっとごめん」


 思わずがしっと肩を掴んでしまった。


「いや、ほら、私は教会の中入れないから」

「あ、ああおお……そういやそんなこと言ってたな……」

「神官さんとかにお願いしようかなって思ってたんだけど。聖堂とか鐘楼とか、敷地内なかをイグル様に案内してくれない?」


 キャロルは生まれた頃から通ってるし。これなら、イグル様を一人にさせる心配もない!


「ハナは、なんで入れないの?」


 横からイグル様が聞いてくる。まあ、聞くよね。


「じーちゃんに、口すっぱく言われてまして。『教会と領主様の館には行くな』って」


 教会はいざ知らず、領主様のお館なんて、庶民は近付けないのに。


「ふうん?」


 なんでかは、これまた教えてくれなかった。

 そしてイグル様の観光で、そこだけがネックだったけど!


「キャロル! 今、君は使命を託された」

「お、おう?」

「まあ、手前までは私も行くし。その後も一緒に巡りますし」


 キャロルとイグル様を、それぞれ見やる。


「そんな感じで、行こうかと」

「うん、分かった」

「お、俺も……あ? なんか流されたような……」



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