帰り道

「すいません送ってもらっちゃって」

「いや、もう遅いしな」


 あれから、ジャックさんの一言ですべてが決まり。


『ハナ、朝になったら行くからね。ハナのところに行くからね』

『分かりました。大丈夫ですよ、ジャックさん良い人ですから』

『そうじゃなくて、行くからね』


 何でそんなに念を押すのか。

 最後にぎゅうっと抱き締められて。イグル様はジャックさんと一緒に、時々こっちを振り返りながらジャックさんの家に行った。


「それにそもそも近所だしな。家帰るのとそんなに違わん」


 私はクレイグさんに送られることになって。

 〈マーガレット〉の裏手でみんなと別れ、自宅に向かってる途中だ。


「……なあ、ハナ」

「はい」

「ほんっとうに、あの『イグル』ってのとは何もないんだよな?」

「ないですってば」


 まだ疑われている。


「そんなに変に見えますか?」

「いや、変っつうか……お前があそこまで気を許す奴を見るのが、初めてだからなあ……」

「いや別に許してませんけど?」


 精霊様だから、他の人とは違う接し方をしてるかもだけど。


「いやあ、別にそうだとしても駄目とは言えねえが……」

「クレイグさん? 聞いてます?」

「いやしかし、ハナがなあ……行方知れずになったと思ったら、まさかあんな奴を……」


 だめだこれ。またどっかできっちり話そう。


「クレイグさん、ありがとうございます。家に着きました」

「変だが悪そうじゃあないんだよなあ……」

「クレイグさん!」


 そのまま通り過ぎないで!


「うおっ! お、おお。悪い、着いたか」


 腰のベルトを掴んだのにも気付かないで、クレイグさんは進む勢いでつんのめる。

 やっと気付いた。そして止まった。


「送ってもらっちゃって、ありがとうございました。パメラさんとキャロルにもよろしく伝えて下さい」

「おう。戸締まりはしっかりしろよ」

「はい! それじゃあ、おやすみなさい」

「ああ、良い夢を」




 いい天気だ。この時期にしては空は澄んで、夜明け前の空は綺麗な青紫色。


「こんなもんかな」


 花を選びながら、庭の手入れもする。みんなちょっとあっちこっちいっていたけれど、すぐ前の通りに戻ってくれた。


「まーもう少しすると、種類も増えるんだけど」


 束ねて持った花達は、タンポポ、ノコギリソウにヒナギクに、咲きかけのカモミール。そしてこれまた早めに咲いていたチコリを選んだ。

 この時期春の始めらしく、小ぶりなものが多い。


「けどまあ良いでしょ。無事を伝えるだけだし」


 ちゃんとしたやつは、また別の時に用意すればいい。


「……こんな感じかな」


 申し訳程度に花のバランスを整える。

 さあ、イグル様が来る前に、ちゃちゃっと行ってこなくちゃ──


「おはようハナ」

「ふぁい?!」


 思わず飛び退きながら振り返った。



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