おふろ

「これで全部?」


 ダガーをランプのそばに置いて、イグル様は荷物へ目をやる。


「そうですね。あとは荷物を詰め直してしっかり寝て、朝ご飯食べて出発です」

「……おふろ、入ったりしない?」


 呟くように言って、イグル様はこてん、と首を傾ける。

 私より背ぇ高いんだけどなあ! なんか上目遣いされてる気分になるなあ!


「おふろ、ですか」


 んー、野兎と宿り木にはお風呂設備ないし……。


「朝になったら、井戸から水をもらって拭くくらいはしようと思ってますけど……」


 やっぱり精霊様だから綺麗好きなのかな?


「そっか……」


 お風呂は貴族とかお金持ちのものらしいから、この辺りにもないし。どうしようか。


「うーん……おっきめの桶借りて、水浴びくらいなら……? 出来るかなあ……?」


 悲しげな顔を見るのは辛いけど、良い案が浮かばない。


「ううん。それなら、これでいい」


 言いながら、私の両手を握る。


「これ? ……へぇ?!」


『我らを浄化しておくれ。今日までの身を脱ぎ去り、新たな風を当てておくれ』


 周りが?! なんか、なんか色がついてる?! 光ってるね?!


「ええぇぇえぇぇええぇ」


 巻き起こった風が、色とりどりの煌めきで私達を包んで……?! どうなってんの?!


「ええぇぇえぇぇ…………おさ、まった」


 なんか、きらきらした粒みたいのが、周りに少し残ってるけど。


「すっきりしたでしょ?」


 にっこりするイグル様の頭の上で、ふわふわのお耳が揺れ動き。


「イグル様、戻ってます」

「ん? ……あ」


 一瞬で耳を変え、自身の頭をなでる。


「んー……思ったより、気合いがいる……」

「…………はあぁ」


 ちょっと、びっくりした。

 気が抜けて、ベッドに腰かける。


「あの、今のは?」

「浄化したの。おふろの代わり」


 お風呂の代わり、眩しい。

 繋いだ手をそのままに、イグル様がしゃがみ込む。


「だめだった?」


 手をきゅっと握って上目遣い。本気の上目遣い。


「いえ、少し驚いただけで。ありがとうございます」


 ……あーはにかむイグル様可愛い。


「でもやっぱり、おふろの方が気持ちいいから」

「はい」

「街についたら、一緒に入ろう?」

「はい。…………ん?」

「楽しみ」


 まっ、待って今あの? お風呂に一緒に入るとか言いませんでした?


「ハナとおふろ」


 楽しそうにしないで?!


「イグル様それは、それはあれ、ダメです」

「?」

「小さい子ならまだしも、駄目です」

「???」



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