事情説明1

 部屋に入り、椅子に座り、イグル様を待っていると、


「ハナ!」

「あ、はぃんえ?!」


 目の前が真っ暗になって、ぎゅうぎゅうされる。そしてぱっと明るくなった。


「…………」


 周りの視線が痛い。


「イグル様、まず、えーと……ちょっとこちらへ」

「?」


 あえて何事もなかったように立ち上がる。そんで、首を傾げたイグル様を、部屋の隅に連れて行く。


「……イグル様、急に人に抱きつくのはあまり良くありません」


 頭を傾けたままのイグル様に小声で言う。


「そう?」

「そうなんです。特に今ここは、私達が何をどうしてここに着いたか、説明するための場です」

「ああうん、聞いた」


 イグル様は、こくりと頷く。


「だから下手な動きをすると、変な疑いをかけられちゃいます。慎重に、誠実に、丁寧にいきましょう」

「んー? んー……分かった……?」


 不安だ。けどもうこれで、行くしかない。


「はいどうも。お待たせしました!」


 さっきの席に戻る。イグル様の席は最初から、間を開けて私の隣と決められていた。


「遠い……」


 遠くないです。てかさっきの話聞いてました?


「……まあ、じゃあ、始めるが」


 いつも休憩室として使っている部屋に、私とイグル様含め十人。来てくれたのは七人で、良くこれだけ、あの時間でこれだけの人数を。

 今とっても忙しい時期なのに。


「まず、男衆おれたちは席を外す」


 そう言って、お昼に偶然再開したクレイグさんが立ち上がる。


「へ?」


 他の、農家のアドルフさん、雑貨屋のハリーさん、仕立て屋のジャックさんの三人も席を立って。


「その間に話せること全部話すんだ」


 座ったままのベティ達に目を向け、そんなことを言った。……それって。


「えっ……待って?! 私変なことされてませんから?!」


 う、疑われている! いや気を使われている!

 まあそうなるのは普通なら分かるけど! でも私は別に、そんなことされてない!


「それも含めて話すんだ。さあ、お前も一度出るぞ」

「……どうして?」


 近付くクレイグさんに、イグル様は身構えた。さっきまでのほわほわした空気が、キンと張り詰める。


「どうしてってお前……」

「説明してどうする。ハナのことが最優先だ」


 農家のアドルフさんが、いつもなら茶色で円らな瞳を細めてる。

 イグル様が、警戒されてる!


「いや、あの、ほんと、えー……と」


 ここで何言ってても、話は進まない。ベティ達にちゃちゃっと、問題ないことを説明して証明する!


「皆、私ちゃんと話すから。イグル様は本当に、私の恩人ってだけで……こう、優しくしてもらえると……」


 身体をこちらに寄せてきたイグル様。その手を取って優しく握る。


「ハナ……」

「……別に、取って食いやしないさ。ただ席を外してくれってだけだよ」


 クレイグさんが溜め息を吐いた。



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