似てる
あ、戻ってきた。
「どうでしたー?」
私は久しぶりに近くで鐘を聴けて、ちょっとふわふわした気持ちですよ。
なんか心が温まるんだよねぇ、あの音。
「ハナ!」
おう、キャロルと手を繋いでるイグル様が元気いっぱいに反対の手を振ってきた。そして走り、走らないで?!
「ちょあっ?!」
「キャロル!」
うわあ?! キャロルが転ぶ?!
「あ、ごめん」
おおお……イグル様が流れるようにキャロルを抱き上げ……。そのキャロルは目を丸くしている……。
「…………はっ?! なん?!」
「イグル様、危なかったですよ」
私、とっさに敷地に入りかけたもんね。
「ごめん……キャロル、大丈夫?」
「だっ?! ……大丈夫だよ! 降ろせ!」
「うん」
ちょうど外まで来たイグル様は、また流れるようにキャロルを降ろす。ふらつきもなく、なんて綺麗な着地でしょうか。
「……精霊様……」
「キャロル。しっかり」
いやあ、自分の身体じゃないみたいだもんね。私も何度そうなったか。
「……っ! 全っ然平気だし!」
「そっか。案内ありがとうね、キャロル」
頭を撫でようとして、避けられた。
「だから! 俺はもうそういうのはいいの!」
「あ、そうだった。ごめんごめん」
いつからだっけなー。キャロルが撫でさせてくれなくなったの。
「……ハナって」
「はい?」
おっと。イグル様をそっちのけに──
「オフェリアってひとと、似てるね」
「はい?!」
「あ?! この!」
オフェリア様は絶世の美女ですよ?!
「……イグル様。ステンドグラスと女神像、ちゃんと見てきました?」
「見てきたよ?」
「近くまで?」
「ちかくまで。生きてるみたいだね、あれ。どっちも」
……造作が細かいと、言いたいんでしょうか。
「ならなおさらですよ。オフェリア様と似てるだなんて、誰かが聞いたら怒りますよ?」
私はオフェリア様と似てないし、別に美人でもないのですよ。じーちゃんが言ってた。
「そう? 似てるけど」
んん、頑な。
「おっ……俺だってな!」
「ん?」
「俺だってそう思ってたんだからな!」
「キャロルぅ?」
何を言い出す。
「ほら、キャロルも言ってる」
「うっるせ! 俺は俺で思ってたの! イグルより前から!」
「え、そうなの?」
「っそ、……そうだよ!」
なんか間があったよ?
「ハナは! び…………」
キャロルの動きが止まる。口だけがあぐあぐと動く。
「無理しなくて良いよ?」
力みすぎて顔が赤いよ?
「っ……うるっせ! もういい! もう次! タクシャーラの広場だろ?!」
「ああ、うん……」
「迷いそうなトコ、だよね」
ああそうだ。今度も手を繋いだ方がいいかも。
「そうだよ! せいぜい迷え!」
「ちょっと?!」
「うん、迷ってみたい」
「イグル様?!」
あそこは気を抜いてはいけない!
「ハナといっしょに、迷うの」
「?!」
だからそういう笑顔を向けないでくれます?!
「なっこの! ……イグル!」
「なに?」
「お前そのうち後ろから刺されっからな!」
キャロルは何を言ってるの?!
「ライバルは沢山いんだからな!」
「らいばる?」
「そうだよ!」
拳を振り上げ力説する。けど。
「らいばるってなに?」
「……ぅあああもう! もう! うるっせぇ!」
無垢な瞳を向けられて、キャロルの方が折れた。
……よく分からないけど、仲良くなったってことかな。
────────
作中、ハナが「自分は美人じゃない。じーちゃんも言ってたし」みたいなことを語っています。が、「私って可愛いの?」と聞いたハナに、じーちゃんが無言を貫いた、のが実際の出来事です。じーちゃんはハナを美人じゃないとは思っていませんが(むしろ可愛いし美人になるだろうと思っていました)、そこを話すとハナに危険が及ぶかもしれないと思い、断腸の思いで無言になりました。
じーちゃんがどうしてそんな判断をしたのか。詳しくはネタバレになるので、物語後半で明かせればと思います。
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