キャロルとクレイグ

「さぁて」


 途端、寄った顔の、大きな水色の目がまん丸になった。


「ハ、ナぁ?!」

「わー元気だね。そっか、キャロルんとこは毎年コレ出してたっけ」


 人の出入りの激しい所はあまり行かないから忘れてた。


「は、いやハナ?! ほんとにハナか?!」


 台から身を乗り出した焦げ茶の頭を押し戻す。


「ハナですよ」

「何やってんだキャロル。お客さんにはきちんと……」


 横からかかった声が途中で消える。


「……ハナ?」


 ベニエを揚げてた手を止め、ぽかんとこちらを見るのはキャロルのお父さん。


「クレイグさん、どうも。オススメってどれですか?」

「あ? 無花果いちじくのやつだが……」

「では、それを二つ下さい」

「ああ、毎度……じゃねえよ!」


 だめか。


「お前、今までどこ行ってたんだ!」

「そ、そうだそうだ! みんなめちゃくちゃ捜したんだぞ!」


 あ、押し戻してた手をキャロルに掴まれた。


「いやあ、お手数おかけしました。この通り元気です」


「なんかふわっとさせて逃げようたって……」


 あー、キャロルの視線が私の横に。


「は……だれ……は?」


 イグル様を上から下まで眺めて。


「手ぇ繋いでる?!」

「はぐれないようにね」

「ハナが、ハナが知んねえ奴と手ぇ繋いでる!」

「うん、だからはぐれないようにってば」


 落ち着いてキャロル。


「ベニエ、食べれないの?」


 イグル様がぽつりと言った。


「あ、ああ、いや構わねえよ」


 クレイグさんがハッとしたように、手元のベニエを取る。


「ほらよ、無花果のが二つ」

「ありがとうございます。イグル様、ちょっと服の裾持ってて下さい」

「さまぁ?!」

「キャロルも離してね」

「あっおう……」


 自由になった両手でお金を渡し、ベニエを受け取る。


「それでは……あの、後でちゃんとお話しますので」


 キャロルとクレイグさんがすっごい見つめてくる。


「ああ、今は手が離せないからな。こんな時じゃなけりゃ即座に連れ帰ってる」

「逃げられると思うなよ!」

「逃げないよ……」


 その言い回しはどうなのキャロル。


「これから家に帰りますので、大丈夫です。お騒がせしました」


 後ろで何人か待たせちゃってるな。


「失礼しますー」


イグル様を連れて店から離れる。


「今のはご近所さんの、クレイグさんと息子のキャロルです。いやーまさかもう知り合いに会うとは」

「ふぅん」


 イグル様の手を引いて、人混みを縫うように進む。


「うーん、ベニエどこで食べます?」


 座れそうな場所はどこも先客がいる。多分、広場も人でいっぱいだろう。


「ゆっくり食べるなら、私の家まで行きます?」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る