part Aki 4/21 am 6:23




 こんのさんに続いて混み合った車内に乗り込む。

 かなり混み合っているおかげで こんのさんのすぐ近くに立っても 不自然じゃない。窓に向かって立つ彼女の斜め後ろの すぐ側の位置に立つことができた。こんのさんのため息がでるほど美しい横顔がよく見える。部活カバンは 床に置き 通学鞄は 肩から掛けたままだ。よく見ると イヤホンのケーブルがカバンから伸びていた。小ぶりで可愛らしい耳に水色のイヤホンが収まっている。


 何 聞いてるんだろ?


 彼女の興味関心のあることなら 何でも知りたかった。だって もしかしたら 話をするきっかけになるかも知れないじゃないか…。だが ちゃんと音量を絞ってるらしく 全く音漏れなんてしていない。ちょっと残念だったけど そんなところも好感が持てる。どんなに美人でも マナー最低とかだと 心萎えちゃうもんな。

 

 こんのさんは 両目を軽く閉じて リズムをとるように 小さく身体を揺すっているように見える。列車が揺れてるから そう見えるだけかな? ……いや よく見ると 口元が微かに動いている。無意識のうちに歌っちゃってるのか? 見た目は 完璧な美人だけど ちょっとした仕草や振る舞いに 小さな隙みたいなのが時々あって そういったところを見つけるたびに ボクは もっともっと 彼女のことが好きになっていくのだった。

 

 もちろん 騒々しい車内で彼女の声が聞こえるハズもなく どんな曲を聞いているのかは わからない。スタイル抜群のカッコイイ美人だから ロックとか似合いそう。洋楽とかもスゴくよく似合う…。でも 意外と幼い感じのところもあるし アニソンっだったりして…。……似合わない。似合わな過ぎる…。いやいや アニソンだってカッコいいロックチューンの曲もある。有名なJ-POPの歌手使ってることもあるし…。……それともあれかな。クラスの女の子たちみたいに チャラい男性アイドルとか 好きなんだろうか? 歯の浮くようなキザな歌詞。歌もダンスも お世辞にも上手とは 思えない。ああいうのの どこがカッコいいのか? あれは 完全に女子の世界だな…。ボクみたいな男子には 理解不能の異世界だ…。


 

 そんなことを考えていると 列車が減速をはじめ やがて停車した。 ドアが開き さらに通勤客が 乗り込んできた。ボクは 隣の客に押され 奥へと押しやられる。そして ボクの右肩が こんのさんの左の背中に当たった。


 制服の布地越しに こんのさんの体温が 伝わってくる。

 

 世界が止まったみたいだった。脈拍が上がり 喉の奥がヒリヒリする。自分の胸のドキドキいう音で 他の音は何も聞こえない。無音の世界にいるみたいだった。不可抗力だったんだ と自分に言い訳する。……そう。ワザと こんのさんの背中に肩を押しつけてるわけじゃない。満員電車だから仕方ないことなんだ…。ボクにだって 隣のサラリーマンや男子高生の肩やら腕やらが当たってる。別にやましいことしてるワケじゃない…。


 そんな言い訳をして自分を正当化してるうちに 本当にやましい考えが浮かんできた…。ボクの右肩は こんのさんの背中に押しつけられている。と いうことは そのまま右腕を下に伸ばせば さっき見た 魅惑的なお尻に手が当たるんじゃないだろうか? 短めの布に隠された キュッと締まっていて それでいて肉付きの良さそうなお尻。思い出すだけで 思わず喉の奥がゴクリと鳴った。


 ……やっぱり 触ってみたい。


 そして 今ならバレずに触れるんじゃないだろうか? 頭に血が上り 息が苦しくなる。いやいや もちろんそんなことは許されない。しつこいようだが そんなことをすれば一巻の終わり。ゲームオーバー。痴漢は犯罪。……でも そりゃ 揉んだり 弄ったりしたら犯罪だけど…。手の甲が当たっちゃうぐらいは〈不可抗力〉ってことにならないかな…?


 ……落ち着け。

 

 もしバレずに触れたとして 明日から どんな顔して彼女を見ればいいんだ…? それに彼女の気持ちを考えろ。彼女は 見ず知らずの男に お尻触られて悦ぶような女の子だろうか? ……そんなハズは なかった。彼女の気持ちを考えたら 痴漢なんてできるハズがない。


 ……でも あのお尻が手の届くところに…。


 振り払っても 振り払っても邪な考えがわいてくる。藤浜まであと15分…。自分との長い闘いになりそうだった……。

 ………。

 ……。

 …。



                        to be continued in “part Kon 4/21 am 6:23”








 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る